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ヒナドレミのコーヒーブレイク    金木犀の咲く頃

 金木犀の咲く季節に、私はあなたに恋をして、それから2年後の金木犀の咲く季節に、私は恋を失った。私の恋は、金木犀とともに育ち、金木犀とともに熟し、そして金木犀とともに散った。オレンジ色の小さな小花が多数 集まった花、金木犀。金木犀の香りはとても甘やかで、まるで蜜のたっぷり入ったパンケーキのよう。

 そんな金木犀の咲く10月に、私たちは出会った。あの頃は、金木犀の香る小径を 手を繋いで歩いたっけ。あなたの暖かくて大きな手が、私の小さな手を包み込む。このまま、時が止まればいいと思った。

 二人並んで歩いた公園通りで、お互いの夢を語り合ったね。夢の話をしている時、あなたの瞳は 少年のように輝いていた。そんな純粋な夢を持つあなた、純粋なあなたの瞳に、私は恋をしないではいられなかった。あなたの夢は、小さなどこかの国で、子どもたちを相手に 色々と教えてあげることだった。私はそれを、とっても素敵な夢だと思った。その頃の私の口癖は「夢がかなうといいね」だった。

 私たちは、周りから「とてもお似合いのカップルだね」と言われてきた。でも、それはもちろん、外見上のことなのだ。だってその人達は、私たちの外見以外のことはよく知らないのだから。

 巡り行く季節の中で、あなたは 夢の実現に向けて 着実に一歩、また一歩と進んでいった。私は と言えば、ただあなたの背中を見て、いつものセリフを言っていた。「夢がかなうといいね」

 この後、あなたとちょっと疎遠になってしまった時期があった。知り合ってから1年後のことだった。この頃の私は、頑張っているあなたの邪魔をしてはいけないと、連絡をとることさえ我慢していた。会いたい気持ちが膨らみ、爆発しそうになっていた。

 そんな時、久しぶりにあなたからの連絡があった。あなたの声を聴いた瞬間、私は嬉しすぎて、懐かしすぎて、嗚咽が止まらなかった。「オレが悪かったよ、ゴメン」あなたから優しい言葉を掛けられた私は、こらえきれずに声を出して泣いた。

 それからの私たちは、どんなに忙しくても、1週間に1度は会うことにした。だが、それがいけなかったのだろうか?あなたは忙しさのあまり、体調を崩してしまった。(きっと、私の所為だわ)そう思った私は、あなたと 少し距離を置くことにした。しかし、そうすると 会いたいという気持ちを我慢することになる。(一体私はどうすればいいの?)自分で自分が分からなくなった。そして、あなたと別れた。あなたの夢は、私の夢でもあったから。                     
                                 完

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