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嬉しさとおかしさがこみ上げる開封作業

…嫌な予感がした。

日本からはるばる航空便でやってきた小包の角が、じんわりと湿っている。
中で何か漏れてるな、と直感で思った。


欧州のとある国で留学している私のもとへ、数ヶ月おきに日本の家族から小包が届く。中身のほとんどは私が事前に頼んだものが占めるけれど、たまにサプライズで入っているものもあって、小包を開ける作業はいつも楽しい。

しかし、今回は違った。
明らかに中で異変が起きている。
濡れたダンボールで部屋を汚したくないので、玄関先でおそるおそる小包にハサミを入れる。まず顔を出したのは綺麗にたたまれたマフラー。これは無事だった。布モノが汚れると面倒なので、まずはほっと胸をなでおろす。

緩衝材がわりの新聞紙を取り出すと、すでになにかの液体で少し汚れている。犯人はどこだ…と心の中でつぶやきながら中身を探る。
次に出てきたのはコンタクトの洗浄液。ボトルの外側がべっとりと濡れている。しかし、洗浄液が漏れたわけではなさそうだ。気に入って使っているものなので、中身が減っていなくてよかったと自分を励ます。

なんとなく見当はついてきた。

…あった。プチプチで包まれた化粧品の包みが、あきらかにべとついている。手にとって見ると、液体物をしみこませてじっとりと重い。
犯人は、クレンジングオイルだった。詰替え用のパウチに入ったクレンジングオイルが、小さな亀裂から吹き出したようだった。150mlのオイルはほとんど残っておらず、すっかり軽くなっていた。

外国特有の分厚いティッシュを片手に、オイルまみれの化粧品たちを救出していく。洗顔フォーム、化粧下地、ファンデーション…ごしごしと周りを拭き上げて、棚に並べていく。
幸いにも他に爆発被害はなく、クレンジングオイルによる単独犯だった。何かの拍子で袋に傷が付いたのか、気圧変化に耐えきれなかったのか、明確な理由はわからない。

化粧品の他には、私が頼んだ大量の食料品が入っていた。インスタントの紅茶ラテや、あえるパスタソース、ソフトキャンディ…。好きなものばかりで自然と顔がほころぶ。
一部の紙箱はオイルが染みて色が変わっているけれど、中身は特に問題なさそうだ。手に取るもののいずれからも、ふわっとクレンジングオイルのいい香りが鼻をかすめる。

クレンジングオイル、また送ってもらわなくちゃなーと思いながら、突然の災難になぜか笑いがこみ上げてくる。派手にやらかしたなあ、クレンジングオイル。


食品たちの中から、小さな封筒を見つけた。
私の母は、必ずちょっとしたメッセージを添えてくれる。郵送で何かを送るときも、帰省の別れ際にお小遣いを持たせてくれるときも。

今回は祖母からの手紙も添えられていた。
祖母の綺麗なボールペン字で、最近のエピソードが綴られていた。

いもを三つ焼きました。昼前一つ出したら最高、甘いいもでした。おくりたかったけどね。あとの二つは(妹)が帰るまで火の中に入れたまま冷めないようにと思ったまでは

ここで便箋は2枚目に。なんとなく先が読めた。

よかったけど、午後取り出したら、なんと炭になっていました。残念々々。(妹)の口には入らなかったよ。来年、うちに帰ったら焼いてあげるからね。

…やっぱり。思わず声を出して笑ってしまった。
炭になっちゃったか〜。しばらく家族みんなのネタになっただろうな。
家族の光景を想像して、じんわりと胸が温かくなった。


普段ならイライラの元になりそうな今回の災難は、なぜか私に笑いを与えてくれた。

最近少し落ち込む出来事が続いたからか、久しぶりに心の底から温かい気持ちになれた気がする。くすりと笑って、家族を近くに感じられた。
クレンジングオイルに手を取られながらの小包開封作業は、図らずも印象深いものとなった。

さあ、送ってもらった紅茶ラテでも淹れて、また勉強がんばろう。