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『れいぞうこ』

久々に参加しました。
#3000文字チャレンジ です。
スマホの方は画像をお読みください。(多分改行が読みづらいので)

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「れいぞうこ」 やまこしひなこ


  わたし、冷蔵庫の前に立ってひとりごちている

わたし: 冷蔵庫を開けてさ、誰かいたらどうしよう、とか想像すること
    あるじゃない?ない?わたしはある。
    どんなのがいたら嬉しいかなあ、うーん、そうだなあ例えば
   「こんにちは!僕は冷蔵庫の妖精だよ!ハハ!」
    みたいにテンションが高いやつ。
    実は寒さが苦手で
   「ああ・・・・開けてくれてありがとう・・・・」
    とか言っちゃう暗いやつとかもいいかもしれない。
きみ: どうしたの?一人でしゃべって
わたし: ・・・・・見てたの?聞いてたの?いつからいたの?
きみ: ジュース、飲みたくて・・・・
わたし: 質問に答えて!見てたの?聞いてたの?いつからいたの?
きみ: 見てたし、聞いてたし、結構前からいた・・・・。
わたし: じゃあ、忘れてください。
きみ: 忘れられるわけないだろ。なんだその、冷蔵庫の精って。
わたし: 冷蔵庫の妖精ね!妖精!
きみ: ごめんごめん。
わたし: シュレディンガーの冷蔵庫の妖精ってとこね。
きみ: 語呂悪いなあ。
わたし: シュレディンガーの猫に語呂良さを求めてどうするの。いいじゃん。
きみ: つまり、冷蔵庫の扉が閉まっている限り、そこで何が起きてるかはわかんないってことね?
わたし: そういうことです。
きみ: なるほど。
わたし: 閉まってる時に起こってるから、開けちゃったらわかんないんだ。
きみ: 何でも言いたい放題じゃないか。
わたし: ないって言い切れるわけ?誰も住んでないの?
きみ: 冷静になれよ、怖いだろ、そこに、生命がいたら。
わたし: 納豆だって生きているっていうのに・・・・
きみ: 菌だからね。
わたし: 菌は生命ではないな。
きみ: そこは冷静なんだな。
わたし: と、いうわけで、開けますか?
きみ: え・・・・
わたし: だって・・・・ジュース飲みたいんでしょ?
きみ: 飲みたいけど・・・・。
わたし: 開けたらいいんじゃない?
きみ: そう言われると・・・・
わたし: 開けたくなくなるんだよね〜わかる。
わたしはそれで一週間開けられなくなって、豆腐を腐らせたことがある。
きみ: 筋金入りだ・・・・。
わたし: どうだ?開けるのか・・・・?
きみ: 開けるよ!ジュース飲みたいからね!
わたし: 開けたらいいんじゃない?
きみ: ええい、思うままよ!

 きみ、冷蔵庫をあける。

きみ: え、
わたし: おっと、

 見たことのない形の生き物がいる。

妖精: やあ。
きみ: ・・・・・・。
わたし: あなたはだあれ?
きみ: よくそんなこと冷静になって聞けるな!
わたし: 当たり前でしょ。
    いつもいるんじゃないかなあ、って思ってたから。
妖精: 僕は冷蔵庫の妖精。別に名前とかはない。よろしくな。
わたし: 本当にいたんだなあ!
きみ: 寝不足か・・・?なんだ・・・・?目が霞んでるような・・・・?
妖精: 君の名前は?
わたし: わたしにも名前はない。こいつにもない。
きみ: おい!
妖精: そうか、じゃあ仲間だな。よろしくな、仲間。
わたし: うん!
きみ: 待てって!
わたし: なんだ?
きみ: お前に名前はあるし、俺にも名前はある、テキトーなこと言うなよ。
わたし: 名前なんて、どうでもいいでしょ、今は。
きみ: え、
わたし: わたしがいて、きみがいて、仲間がいるんだ。
     これでいいじゃないか。
妖精: おいそこのお前!お前にも見えているんだよな?
きみ: あ、お、俺すか?
妖精: そうだ、そこのお前だ。見えているようだな。
きみ: は、はい・・・・。
妖精: お前に名前はあるのか?
わたし: こいつにも名前はないです。
妖精: そうか、じゃあやっぱり仲間だな。
きみ: 俺の名前は、
妖精: なあ、君は僕のことを知っていたようだな。
わたし: 正確にいうと、いるんじゃないかな〜って思ってただけ。
妖精: そうか、嬉しいな。
わたし: 本当に、ずっといたの?
妖精: そうだ。開けられた時には何かの後ろに隠れていたんだ。
わたし: すごい、忍者みたい。
きみ: で、お前は一体何者なんだ。
妖精: だから言ってるじゃないか、冷蔵庫の妖精だ。
きみ: はあ。
わたし: それ以上でもそれ以下でもないってこと。
この世にいっぱいあるでしょ、そういうものとかこととか。
きみ: だからって、正体のわからないものがここにいるの
            違和感じゃないのか?!
わたし: どうして、
妖精: どうしてそうやってあるがままを受け入れようとしないのか?
わたし: 妖精・・・・
妖精: そこにあるものを「へえ、そうか」って受け入れてみようとか
             思わないのか?なんか穿った見方してる俺かっけ〜とか思ったり
             してないか?クリティカルな視点で見るのが何よりも大事だとか
             思ってないのか?この世はな、自分たちで思ってる以上に受け入
             れられないもので溢れてるんだよ。現に君たちだってそうだ、僕
             からしたら君たちの姿かたちは気持ちが悪いし、この冷蔵庫の中
             にあるものを食ってるとか信じられない。でも、そういう存在が
             いるってことは受け入れないと、何も変わらないじゃないか、そ
             う思わないか?
きみ: ・・・・な、なるほどな、
妖精: 返事しとけばこの場がおさまるとか思ってんだろ?
       なわけねえから。 わかってないだろ?わかってるフリしてるだろ?
わたし: きみ、わたしも何が起きてるのか全然わからない、あたまじゃ全然
                 わからないの。自分のあたまでずっと考えてきたことだけど、何が
                 起きてるのか、この時間は一体なんなのか、わからない。でもいい
                 んだ。とりあえず、今、この時間があるということは確かなんだ。
きみ: わかりたいと思わないのか?
わたし: 思わないようにしてる。それがこいつのためだから。そしてわたしたちのためでもある。
妖精: ここにこういう空間がある、時間が流れている、そういう存在が
             いる、という事実から始めないと。
きみ: そういうもんなの?
わたし: そういうもんだと思ってる。
妖精: そういうもんだと思ったら楽しいんじゃない?
きみ: そうか・・・・・。
わたし: ねえ、冷蔵庫の中は暗いの?
妖精: 暗いよ。そういう設定にしてるんだろ?
わたし: ごめんね。
妖精: いいんだ。そういうもんだから。
わたし: そっか。
妖精: でもな、中を明るく照らしてくれるやつもいるんだ。
わたし: すごい!
妖精: 中で歌ってくれるやつとか、お話ししてくれるやつもいる。
わたし: 他は?何人くらいいるの?
妖精: 生命体の単位はよくわからないが、まあ、たくさんいるかな。
わたし: そうか。寂しいんだとばっかり思ってた。
妖精: 実は僕も君は寂しいだとばかり思っていた。
わたし: どうして?
妖精: いつも僕たちのことを思って冷蔵庫の前でぺちゃくちゃ一人でしゃべってるからな。
わたし: まさかご本人様に聞かれているとは。
妖精: 悪かったな。
わたし: いいの。本当に誰かいてくれてよかったよ、むしろ。
妖精: ああ。それで、そこのお前。
きみ: なんだ。俺は全然何もわからないままだぞ。
妖精: いいんだ。そうじゃなくて、お前なんか飲みたかったんだろ?
きみ: え?
妖精: 全部聞いてるって言ったじゃないか。
きみ: ・・・・ありがとう。
わたし: 本当になんでも聞いてるんだな。
妖精: 当たり前よ。
きみ: じゃあ・・・・
妖精: 飲んだらいいじゃないか。ビール。
きみ: ビール?
わたし: ビール?
妖精: え、ビール飲みたいんじゃなかったっけ?
きみ: ビールじゃなくて・・・ジュースだ・・・・昼間からビール飲むやつがどこにるんだよ!
わたし: え、わたし。
きみ: そうなの?
わたし: 昼間から飲む酒はうまいんだぞ。
妖精: ビールというのはそんなに特殊なものだったのか。
きみ: そうだよ、そうだけど・・・・
お前、昼から飲むのか。
わたし: 知らなかった?昼から飲むの、大好きなんだ。
きみ: へえ、そうか・・・。
わたし: そう。そうだよ。

 気づくと、妖精は消えていた。

                      おわり

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