映画から読み解く「成功のメソッド」とは?
最初に、お知らせです。
先週書いた記事が、1週間で特に「スキ」を集めた記事に選ばれたそうです。お読みくださったみなさま、ありがとうございます!
該当の記事はコチラです。
連休以外でも、ぜひぜひお楽しみくださいね!
映画「鍵泥棒のメソッド」の感想
1月の終わりに映画「鍵泥棒のメソッド」(2012年)を見た。ひさびさの邦画。
主題歌を大好きな吉井さん(The Yellow Monkey)が歌っているので映画自体は知っていたのだけど、まさかこんな傑作とは。
半沢直樹の名コンビの珠玉の作品
個人的に、これは見ないと損だと思う。主演がなんと堺雅人と香川照之というあの半沢コンビ。1本目の「半沢直樹」の前年公開作品なのだ。
なんといっても冒頭の人物描写が秀逸。そこから「面白そう」「どうなるんだろう」とワクワクさせ、展開も全く裏切らない。ヒロイン・広末涼子やその家族のキャラがいい味出してる。個人的には、広末の美しさだけで+30点くらいいける。
コメディ要素あり、謎解きありだけでなく映画全体に、仕事観・恋愛観・人生観がじわじわ染み出している。
成功する人は「成功のメソッド」を知らず知らずのうちに実践している。そしてやっぱちゃんとしてるわ、と思う。。。これ見て思わず「掃除しよう」と思った人は多いのではなかろうか。
その「成功」に本当に必要なものは何?
映画は見ている人にそんな問いをぶつけてくる。その問いには映画の中で明快な答えも出ているのだけど。
あらすじから読み解く「成功のメソッド」
(ここからネタバレあり)
主人公・桜井(堺雅人)は35歳の売れない役者。エキストラのバイトをしながらボロアパートに住み、失恋から自殺しようとして失敗する。
桜井はある日、伝説の殺し屋・コンドウ(香川照之)が銭湯で転倒して気を失った際に、コンドウの荷物からカギを盗む。そこから、記憶を失ったコンドウと入れ替わってお互いの人生を生きることとなる。
そこへ絡むのが、雑誌「VIP」編集長であるヒロインの香苗(広末涼子)。とにかく生真面目で、しっかり計画を立てないと何もできない不器用ぶりが冒頭から描かれる。
余命短い父のために年内に結婚するという目標を立てて、相手探しを始める彼女と、桜井となったコンドウがひょんなことで出会う。
桜井となったコンドウは、「桜井としての自分」を取り戻そうと、従来の几帳面さで努力を重ねていく。その中で、なぜか役者として若干頭角を現し、ヒロインに愛されるようになる。
コンドウとして生きることになった桜井は、コンドウが仕事のために用意している身分証明書を利用して、様々な人物になり切ろうとする。役者を離れた桜井が別人として生きるために必要な要素が「演技」だという皮肉。
そんな中、香苗の父(小野武彦)が死去する。家族に「私は金銭的に成功したが、そんなものはどうでもいい。何より大切なのは愛する妻と娘たちだ」というメッセージを残して。(ここちょっと泣ける)
葬式後に香苗が父の好きだった音楽をコンドウに聴かせた途端、彼は今までの記憶を取り戻し忽然と消えてしまう。
ちょうどその頃、桜井は殺害依頼された女・綾子(森口瑤子)を、依頼人のヤクザ(荒川良々)を裏切って逃がそうとしたのがばれてピンチに。そこへ戻ったコンドウが、自分は殺し屋ではなく、殺したふりをして逃がすのが仕事だと言う。
従来の几帳面さで完璧な計画を立てて実行してきたコンドウから見れば、行き当たりばったりで粗だらけの桜井の逃亡計画がうまく行くはずがない。そうなじりながらも、桜井を見捨てず助けようとするコンドウ。
のちにコンドウは「最初の結婚は金がなくて失敗した」と語る。その後苦労の末、金銭面で彼は成功した。
紆余曲折あったコンドウが、桜井に告げる「助けてやる代わりに、おまえの人生はもらった」という言葉が重い。
「成功者・コンドウの人生」よりも、ボロアパートに住んで香苗に愛される「桜井としての人生」に「真の幸せ」を見出したからこその言葉だろう。
話を筋書きに戻すと、依頼人の裏を掻くために、コンドウが桜井を殺すふりをすることを決める。2人で練習する際の会話が面白い。
35までずっと演劇の世界に身を置いていた桜井より、最近勉強を始めたコンドウのほうが演技論を理解しているのだ。コンドウに「おまえはどの本も8ページ目までしか読んでない」と指摘される桜井のダメっぷり。
指南書を途中、しかも前半で挫折するようでは成功するのは無理だということ。この部分でドキリとする人も多いのではないだろうか。
3人が迎えた奇跡の大団円
その後すったもんだあり、コンドウは渾身の演技で依頼人をだますが、綾子の家で打った桜井の三文芝居のせいで依頼人を怒らせてしまう。
しかし、ここで居合わせた香苗の意外な活躍で、事件は一気に解決する。冒頭では不釣り合いとも思えた香苗の職業が、ここで生きて来るのだ。(少し前に伏線あり)
そこから一気に大団円へ。コンドウは綾子を愛人の元へ連れて行こうとするが、綾子にとって愛人は単なる金ずるで、行く気はさらさらない。
香苗は自宅(豪邸)前に停めた車内で、コンドウのノートを読む。彼の想いに「胸をキュン」とさせ、コンドウへの愛を自覚する(香苗の姉の言葉が伏線となるのにキュン)。
そこへ戻って来たコンドウ。抱き合う二人と、コンドウの車内でタバコをふかす、いかにもやさぐれた綾子との対比が面白い。
一方、どうしようもないダメ人間だったけれど、一連の出来事では最後まで逃げずに頑張った桜井にも、恋の予感が訪れる。
何者にもなれないダメ男・桜井が、少しだけ輝きを増した結果、といえるのではないだろうか。演じ分けている堺雅人の演技が見事なのだ。三文芝居をする「下手な演技」もさすが。
しかしこの映画、見た目は冴えない中年である(しかも無理やり35歳の若作りをさせられる)コンドウが魅力的に描かれ、一見主役の桜井を食ってしまっているようにも見える。
記憶を失ってもなお「成功した人の持つ輝き」をコンドウが持ち続けていた、ということなのだろう。さすが香川照之のなせる業、である。
内田けんじさんの作品、他にも見なくては。
2021/5/17追記。
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