『富士山頂』(1970)
記録映画である。
特に大げさな演出やドラマがあるわけでもない。勿論、自然が相手であるから、簡単には事が進まないのだけれど、強調したりあおったりせずに、淡々と進行していく。そこがまた記録映画のように思えるのだ。
「台風の砦を富士山頂につくる」
これまで台風の接近は5時間前にしか分からなかったのだが、富士山の山頂に測候所を設置することで、20時間前に分かるようになる。
石原裕次郎。
今作は、黒部ダム完成までを描いた『黒部の太陽』、サファリラリーを描いた『栄光への5000キロ』との石原プロ製作三部作とされる。
記録映画の体をなしてきた今作だが、無事に工事が完了して電波の許可を待つ富士山測候所での裕次郎は、裕次郎だった。濃い青色の開襟シャツに白のベスト。昭和の歌謡番組で見たことのあるその様は、一度そういう風に思ってしまったら、もう記録映画には戻れなかった。
ベテラン俳優の軌跡。
これは今作に限らずだが、今ではベテラン俳優の人の若かりしころが見られるというのも、○○を探せといった感じで、古い作品を観る際の個人的な楽しみである。
今作ではセリフあったのかなあといった、古谷一行さん。出演されているのは分かっていたのだが、物語の終盤で気づいた。ヘリコプターでのドーム輸送の場面で、裕次郎の背後に陣取っており、うまく顔が写っている。
富士山信仰。
富士山は信仰の対象になっており、昔は女人禁制であった。印象的だったのは富士山の傾斜を引きの画で撮影していた場面。その傾斜をブルドーザーが昇っていく。
自然と人工的なもの。まったく正反対のものがひとつの場面に描かれているので、自然が汚されているように思えるのだ。
富士山測候所は、甚大な被害が出た伊勢湾台風をきっかけにつくられたもの。当然必要な設備だったことは間違いないのだが、もし富士山につくられていなかったら、富士山のごみ問題もなかったのかなあと思った。
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