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読書感想文2冊目『声をなくして』永沢光雄(晶文社/2005年)

 帯に書かれた文章が心強い。
 <生きるのはつらい。「でも私は言う。ちゃんと言う! みんな、死ぬな!」>

 でもこの文章が登場するのは、本書のかなり最後のほうです。
 それまでは下咽頭がんの手術で声を失った永沢光雄さんの生活が日記形式で綴られています。

 その生活は常に酒と共にあり、酒で薬を飲み、出かけるために酒を飲み、人と話すために酒を飲み、まるで呼吸をするために酒を飲んでいます。
 風呂に入るのが辛く、寝るのも起きるのも辛く、時々友人知人の訃報が届いては涙し、疲労困憊の体に鞭打って原稿用紙の前に座ってみる生活。

 私は永沢さんのインタビュー集『AV女優』(ビレッジセンター出版局)が大好きです。
 もともと地の文をメインに、自分の感情も交えつつ、叙情的なインタビューを書いていた私は、同じ書き方をしている(しかも素晴らしい文章!)永沢さんの本を見つけた時、「これでいいんだ!」と救われた気持ちになりました。

 それに私もお酒が好きです。永沢さんと同じように長らくうつ病にも悩まされてきました。
 お酒を飲むと、特に永沢さんの好きな焼酎を飲むと、胸のあたりにあるもやもやが溶けて胃に落ちていくのを感じます。
 そのもやもやはお酒を飲むまで気づかないくらい、いつも自然と胸のあたりで渦巻いています。永沢さんもそうだったのかな、と想像してみます。

 楽しい時もお酒を飲むけど、お酒には時々頼ります。
 緊張する時、どうにもやる気がない時、涙がこぼれてしまいそうな時。

 『AV女優』にはインタビュー前後に永沢さんが居酒屋で飲んでいる描写もちらほらあって、勝手に仲間のような気持ちになっていました。
 でも『声をなくして』には、そんな永沢さんの生活がもっと詳細に、そして気怠く描かれています。

 冒頭の文章は、そんな本書の中でひとつだけきらりと光る永沢さんの心の声です。
 
 私は昔から人生の最期には闘病記を書く時間が欲しいと思っていました。
 予行練習のように精神病がひどくなって、日記に書いて発表していた数年前の一時期は本当に辛かったです。
 まず書く気になれないほど怠いし、書けば書くほど自分の悲惨な現状が確定して身に沁みていくようでした。

 でもやっぱり私は闘病記を書いて、自分と向き合う時間が最期に欲しいと思っています。
 その時、永沢さんみたいに気怠い日常をユーモアを持って書けるのか。一筋でもきらりと光る文章を書けるのか。
 永沢さんがもし生きてたら、文章の話をしてみたかったと思います。焼酎でも飲みながら。


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