読書感想文1冊目『猫と生きる。』猫沢エミ(辰巳出版/2013年)
ヨガのインストラクターになろうと決めました。最後に背中を押してくれたのは猫沢エミさんのエッセイ『猫と生きる。』(辰巳出版)です。
私がクリパル・ヨガに出会ったのは、ある長い長い梅雨の朝でした。
その日もどんよりと曇って雨が降っていて、私は雨と、それから自分の病気から逃げるように走っていました。
いつもは走らない住宅地の中に、いまは誰も住んでいないお屋敷があって、その前に小さな「しなやかヨガの会」と書かれた看板を見つけたのです。
看板はずっと同じ場所に置かれているようで、本当にいまもやっているのかどうかわからないほど、小さかったのですが、そこに書かれていた塩谷枝里先生にメールをしてみたらヨガのクラスに参加できることになりました。
その時はプロフィールに書いてある「米国クリパルセンター公認ヨガ教師(500時間)」という肩書きもよくわかりませんでした。私はまだクリパル・ヨガを知らなかったのです。
クリパル・ヨガはポーズの完成を求めません。ポーズを通じて体と呼吸を繋げることで、過去でも未来でもなく「今」に集中して、自分と深く繋がるためのヨガです。
クリパルは「慈しみ」を意味します。これまでフィットネスジムで体験してきたどんなヨガとも違って、終わった後、心がいつになく静かになり、視界がクリアになった衝撃を覚えています。
すぐに私はクリパルのスタジオ(なんと当時住んでいた下北沢の近所にあった!)へ通うようになり、クリパル・ヨガにのめり込んでいきました。
スタジオには日々のクラスのほかに集中コースのお知らせも貼り出されていて、その中に200時間と500時間のYTT(ヨガ・ティーチャー・トレーニング)があることにも気づいていました。
しかし当時の私はワーカホリックで、特に土日祝日にクラスが集中しているYTTに参加するのは夢のまた夢だったのです。
ところが過労で仕事どころか日常生活もままならなくなり、イベントの出演など仕事を少しずつ減らさなければならなくなったことで、自分と向き合う時間が増えました。
原稿やラジオの仕事などは続けていましたが、そんな療養期間も二年目に入り、以前より病気の症状も軽くなってきた頃、気づけばYTTに参加する時間も(多少無理をすれば)できるようになっていたのです。
しかし、私には迷いがありました。
10月から12月の土日祝日を使って200時間の養成をしていくYTTは、一日の授業が8時間ほどあり、一日でも欠席したら教師に認定してもらうことはできません。
セーブしているとは言え、仕事もあるので、イベントが集中するクリスマスシーズンに授業が丸々かぶってしまうなど、いままでの生活からは考えられないスケジュールでもありました。
何より私の精神にはまだまだ波があり、申し込み条件の「クリパルヨガを安全に指導するだけの技量、能力、感情面での成熟度および心理的安定性を備えていること」という一文が何より引っかかっていたのです。
そんな時に読んだのが『猫と生きる。』でした。ミュージシャンとしてデビュー間もない「貧乏暮らし」の猫沢さんが拾った愛猫・ピキと日本からフランスに渡り、ピキの旅立ちまでを見送るお話です。
私は猫沢エミさんのアルバム「Gyan-Gyan」が好きで、本も読んでみようと思って手にとったのですが、このエッセイに思いがけず背中を押されました。
「はじめに」に、こんな文章があります。
「この本を読んで、できないと思っていたことができると思えるようになったり、新しい人生への想像力を生むきっかけになったらこんなに嬉しいことはない。」
「あとがき」は「愛について」という素敵なタイトルがついていて、そこにはこんな文章があります。
「この本は、パリへ渡ったある一匹の猫と、懲りもせず人生の失敗を繰り返す、未熟な飼い主の物語だ。とてもプライベートな歴史を綴った本で(後略)」
読み始めるときは「あとがき」に書いてあるように、猫沢さんと猫のかわいい生活が垣間見えたらいいな、くらいの気持ちだったのが、読み終わった後には俄然「できないと思っていたことができると思える」気持ちが湧き上がっていたのです。
とにかく猫沢さんはパワフル!!! どんな逆境にもピキを抱えて立ち向かいます。
でももともとタフなわけじゃなくて、まず猫アレルギーだった自分の体質をじっくり改善するところから始まったり、夢だった渡仏にピキを連れて行くべきか逡巡したり、実行するために奮闘したり……。
また、何かとお金がかかるピキのために、そして自分のやりたいことのために、スケジュールと体の無理は承知であらゆる仕事へ飛び込んでいく姿に勇気をもらいました。
私もやるべきだ、と思ったのです。
精神科の主治医にヨガのインストラクターになりたいと伝えると、思いがけず「いいことですね」と言ってもらえました。
申込条件が引っかかっていたクリパル・ヨガからは「病気のことは主治医の判断に任せる」と回答をもらえました。
私は、私が生きていくために、いままでたくさんの先生や看護師さんや周囲の人たちに手を差し伸べてもらっています。
『猫と生きる。』にもパリで働く猫のお医者さんたちがたくさん紹介されています。
今度は自分が、その人が持っている力をそっと引き出せるようなヨガのインストラクターになりたいです。
そして、猫はみんな可愛いです。世界中の猫たちが幸せでありますように。
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