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狂犬病をまた考える②もっと安全で効果的な予防法があるのに…

前回、狂犬病ワクチン接種のタイミングは慎重に判断する方が安心なことをご紹介しました。毎年、少なくとも30頭ほどが注射の後で体調を崩し、約10頭が亡くなっています。愛犬の健康と命を守れるのは、私たち家族だけ。

さて今回は、できてから73年も経っている「狂犬病予防法(昭和二十五年法律第二百四十七号)」(以下、法律)についてもう少しご紹介します。現代の科学に基づけば、単純に毎年ワクチンを打ち続けるよりも安全で効果的な方法があるんです。人間にとっても、犬にとっても。でも、それは認められていない…

猶予や免除が増えている国も

以前ご紹介しましたが、アメリカでは獣医師による猶予/免除証明書が法的に有効なケースが増えています。州によって異なりますが、体質や体調でワクチンが打てない場合、猶予や免除が法律で認められます。

こうした動きが広がるまでには、一部の獣医師などによる地道で粘り強い努力があった様です。詳しい背景は以前のシリーズを読んでみてください。全体を読んで頂くと、アメリカについてはイロイロな事情が分かると思います。イロイロ…

ワクチン効果は1年以上

それに対し、前回ご紹介したように、日本では猶予証明書に法的効力はありません。理由は単純です。法律が第二次世界大戦直後につくられて以来、実質的な改正が行われていないからです。1985年には、ワクチン接種が半年ごとから現在の年1回に改められました。これは大きな改正でしたが、それ以外は基本的に70年以上昔のままです。

これも以前ご紹介しましたが、ワクチンによる免疫は多くの場合複数年に及ぶことが分かっています。アメリカで行われた"攻撃試験"では、少なくとも3年、長い場合は7年ほど免疫力が維持されていることが分かっています。(攻撃試験:実際にウイルスに曝露し、発症するかどうかを見る実験)

北米で使われている狂犬病ワクチンには、アジュバントと呼ばれる効果を上げる成分が含まれています。日本製にアジュバントは入っていませんが、アメリカのモノには無い水銀由来の保存剤が入っています。なので、ワクチンの中身はまったく同じではありません。

日本のワクチンも効果は1年を超える

でも、日本の製薬会社も、ワクチンによる免疫力がほとんどの場合1年を超えることを確認しています。日本獣医公衆衛生学会・会誌に掲載されたレポートには、以下の記述があります:

過去に2回以上の接種を受けている犬では、95.5%の割合で25倍以上の中和抗体価の保有が認められた
(筆者注:この研究では中和抗体価「25倍」が十分な免疫力という前提)

国内の狂犬病組織培養不活化ワクチン接種犬の抗体保有状況とワクチン接種後の抗体応答

この調査では、狂犬病ワクチンを打ちに来たわんこの抗体検査を行いました。2回以上の接種歴がある場合、95.5%が十分な免疫を持っていました。ワクチンを打ったことが1回しかない犬では、半数が十分なレベルの抗体価に満たなかったとのことです。いずれの場合も、再接種後にはすべて十分な抗体価に達したそうです。

出典:同上

このレポートから、次の3つが分かります:

  1. 狂犬病ワクチンは1回では効かないことがある

  2. 2回打てば、次のワクチン接種のタイミングでも免疫力が残っている(多くの場合、約1年後と思われる)

  3. 追加接種が必要か不要かは抗体検査で判断できる

以上は私が理解したポイントです。一方、このレポートはこんな風に結論付けています…:

ワクチン接種により確実な免疫を付与し、それを維持するためには、現行の接種プログラムである年1回の追加接種が重要であると考えられる。

出典:同上

この結論、もちろん間違いではありません。ただ、個人的には年1回の追加接種"ありき"の印象を強く受けます。ワクチン接種前に抗体検査をしてみたら、接種歴が2回以上の場合、

10頭のうち9頭は
充分な免疫力があった

わけです。

残りの1頭はワクチン接種が必要と判断されるので(これも"免疫記憶"など色々議論があるはずです…)、2度手間になります。費用もかかります。でも、大切な家族である愛犬の健康と命に関わること。そこに

"コスパ"や時間的効率を
求めない飼い主

は、少なくないと思います。私は、混合ワクチンと同様に、狂犬病ワクチン接種の要否も抗体検査で科学的に判断したいです。

”とにかく四の五の言わずに
ワクチンを打ちなさい!”

という乱暴な主張も、73年前なら仕方ないと思います。が、

現代の獣医療(イヌのため)および公衆衛生(ヒトのため)上、正しい対策とは思いません。みなさんは、いかがですか?

怖い病気からヒトを守る

法律の目的は、ウイルスに感染した後、放っておいて"発症"してしまった場合の死亡率がほぼ100%という狂犬病からヒトの命を守ること*。そして、私たち飼い主の願いは、大切な愛犬の命を守ること。それから、我が子が他人を危険にさらさないようにすること。

(*PEP = 「曝露後予防」と言って、ウイルスに感染したとしてもワクチンを接種すれば発症を防ぐことができます。私自身もベトナムで犬に咬まれた後、当時の都立駒込病院で5回のワクチン接種を受けました。)

以下は、その時の接種記録
ヒト用の狂犬病ワクチンを5回接種し抗体検査を受けました

ならばなおさら、抗体検査が重要ではないでしょうか?十分な抗体があれば、僅かでも存在する副反応のリスクを冒してわんこに毎年追加接種をする必要はありません。そして

それ以上に重要なのは

「ノンレスポンダー」でないかどうかが確認できることです。

ヒトの命を守るための犬の抗体検査

人間を含め、動物にはワクチンに反応しない体質が存在します。ノンレスポンダー(直訳: 無反応者)のわんこには、ワクチンを何度打っても効果はありません。アメリカで行われた調査では、狂犬病を発症した264頭のうち、少なくとも2頭がワクチンの有効期限内だったという報告があります。

Rabies in vaccinated dogs and cats in the United States, 1997-2001

狂犬病が発生した時、「ウチの子はワクチンを打っているから大丈夫」と安心していても、ノンレスポンダーであれば感染します。間違いなく、飼い主にも移るでしょう!

愛犬がノンレスポンダーの場合、狂犬病がまん延した時には絶対に外に出さないなどワクチン以外の対策が不可欠です。愛犬を守るためにも、コミュニティ(人間)を守るためにも!

機械的な"1年に1回”のワクチン接種を、とても強いトーンで飼い主に訴える獣医師がいるようです。曰く、

「ヒトの命を守るための飼い主の義務だ!」
(しばしば、誹謗を含む表現も使用されます)

確かに、人間社会を怖い感染症から守ることは大切です。だから、なおのこと、抗体検査の重要性が語られない現状には違和感がぬぐえません。ノンレスポンダーの発見だけでなく、不要な追加接種による意味のない副反応が避けられるんです。毎年命を落としている”少なくとも”約10頭が、救われることにも繋がります。

役所はオトナの事情?

なお、法律に関わる役所は免疫持続期間に関して、

「知りません」

というスタンスの様です。

規制の簡素合理化に関する調査結果報告書より
(2014年 総務省)「狂犬病予防注射の実施頻度」

総務省の書類には、狂犬病予防法を所管する厚生労働省、動物医薬品の承認を所管する農林水産省ともに、「言及できる立場にない」または「言及する内容ではない」としています。

ワクチンがどれくらいの期間効くのかを調べるのは、そんなに難しいとは思いません。何より、既にエビデンスもあります。特に農水省がそれを知らないはずはないでしょう。

前回ご紹介した様に、国内では年間4,000,000頭を遥かに超える犬が狂犬病ワクチンを接種しています。つまり、

狂犬病ワクチンの市場は、
法律によって
創られています。

厚労省にも農水省にも、イロイロ事情があるのかもしれません。私は官僚でもなく、製薬業界の人間でもないので分からないですが…。

"縦割り"行政をうまく利用して"三遊間"を広く開けたシフトを敷く厚労省と農水省???

省令の改正は役所のやる気次第

法律の改正には複雑な手続きが必要です。それに比べれば、「基本的には」ですが、省令を改めるのは各省庁の取り組み次第。前回ご紹介した省令「狂犬病予防法施行規則」の改正は、厚生労働省が進められるはずです。

義務化されている「1年に1回のワクチン接種」に、「または抗体検査による免疫力の確認」を選択肢として追加すればよいと思うのですが…。

人間にも犬たちにも、今より安全で確実な予防が可能になり、メリットこそあれ、デメリットはない筈です。人数や検査機器の拡充など体制の強化は必要かと思いますが、狂犬病の抗体検査を独占的に行なっている生物科学安全研究所(元々は農林水産省および厚生省共管の財団法人)にとっても収益源になるはずです。

で、ワクチン接種の啓蒙(?)にことさら熱心な一部の”センモンカ(≒一次診療の獣医師)”から、こうした声がまったく聞こえてこないのが不思議でなりません。色んな形で、長年、各方面から話を聞いたりしてきましたが、こちらは役所とは違い、実は複雑な事情は無さそうです(笑)

「獣医師の利権だ!」というのは違うと思います。議論が余りにも…なので、触れませんが。

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次回はもう1つ、時代に合わないと感じざるを得ない、犬に限定したワクチン接種についてご紹介します。「イヌからの感染が多いからイヌだけ」というとても単純な主張をセンモンカの方々がよく発信しています。WHO(世界保健機関)やOIE(国際獣疫事務局)に、直接問い合わせてみました。