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狂犬病ワクチンはどうなの? その2 … 問答無用に年1回

* 「その1」はこちらです

愛犬の健康や命を病気から守ってくれるワクチン。でも、繰り返しご紹介してきたように、リスクも確実にあります。法規制のない混合ワクチンの場合、「コアワクチン」に関しては抗体検査を行って接種の要否を決めるのが安全かつ効果的です

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狂犬病予防法の功績:人間の命を守ることに成功

一方、狂犬病ワクチンについては、「狂犬病予防法(正式名称:狂犬病予防法・昭和二十五年法律第二百四十七号)」が接種義務を定めています。飼い主は1年に1回、愛犬に注射を受けさせなければなりません。動物から人間にうつる「人獣共通感染症」の狂犬病は、発症すると死亡率がほぼ100%です。法律は人間の命を守るためにつくられました。

1950年に法律が施行された結果、国内で人間が感染・死亡したのは1956年の1人が最後です(海外で感染後、日本に帰国・入国して発症したケースを除く)。この年に6頭の犬も犠牲になりましたが、翌年の猫1匹以降、60年以上にわたって日本でウイルスに感染した例はありません。

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農林水産省は、狂犬病ウイルスが存在しないと確認された国を「清浄国」としています。日本以外では、オーストラリアやニュージーランド、アイスランドなど世界でもわずかな国・地域に限られています。施行から7年で狂犬病の撲滅に成功した法律。功績は大きいですね。

依然、日本で予防接種が必要とされる理由

WHO(世界保健機構)の推計では、今でも世界中で毎年6万人以上が狂犬病で亡くなっています。海外からウイルスが侵入してくることを完全に防止することはできないため、日本も100%安全とは言い切れません。

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一般にワクチン接種率70%がウイルスのまん延を防止できる目安とされています。新型コロナに関連して時々聞く「集団免疫」というヤツです。日本獣医師会は現在の狂犬病ワクチン接種率を(無登録の犬を含めると)約4割と推定しています。なので、例えば海外で狂犬病ウイルスに感染した犬が船に紛れ込んで上陸した場合、防御できる状態に無いと言えます。

理論上は …

これが、60年以上感染例のない日本でも1年に1回のワクチン接種が義務付けられている大きな理由の(1つの)ようです。

なぜか感情的な一部の(自称)獣医師

ただ、狂犬病について情報収集をしていると、こうした「1年に1度、機械的に行う定期接種」に対しては疑問を感じている飼い主さんも少なくないようです。

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そうした声に対し、一部の(でも、少なくない数の)自称獣医師たちが匿名のSNSアカウントで乱暴な表現を使って意見(?)する例が見られます。そうした方々、なぜか、皆さんかなり高圧的です。

念のため … 動物の健康(と社会の安全)のために何がベストなのかを考えたいだけなので、獣医師の売上うんぬんといった議論には興味がありません。

いずれにしても、そうした方々の主張も海外からウイルスが持ち込まれるリスクの指摘が多い印象を受けます。

あくまで、私の印象です…
何人かには直接お問い合わせをしましたが
お返事は頂けていませんので

確かに、今年が「36万年に1度」に当たらない保証はないですし…
(しつこいですが、これについては、今後ご紹介します ^_^;)

本当に「1年に1回」必要なの?

発症した場合の死亡率がほぼ100%という感染症を予防するのは当然です。仮に法律がなくても、自分や地域のみなさん、それから何よりも大切な家族である愛犬の命を守るためのワクチン接種そのものに異論はありません。

でも、副反応のリスクを考えると、ワクチン接種の回数は可能な限り少なくするのが愛犬の健康と命を守るために大切なのは事実です。

「1年に1回」が決められたのは70年以上前、
第二次世界大戦終了直後

(↓ちなみに、その年に発行が始まった聖徳太子の1000円札)

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この頃からは、獣医療や感染症の研究、薬の開発などは大幅に進んでいるはずです。

効果的に病気から守るための手段 = 抗体検査は狂犬病には無効?

免疫の仕組みや抗体検査については以前ご紹介しました(リンク記事の「第3章:コアワクチンは抗体検査で要否判断」参照)。

命に関わる感染症に対する「コアワクチン」は、ウイルスを退治する抗体が体内にあるかどうか(=免疫があるかどうか)を調べることが出来ます。ワクチン接種を単純に「1年に1回」と決めるのではなく、「抗体があれば注射を打たなくても大丈夫。抗体が無ければ(抗体価が低ければ)打った方が安心」という論理的な判断ができます。

同じウイルス性の感染症である狂犬病の場合、

抗体検査による判断はできないのでしょうか?

コアワクチンは、一般的に注射後「最低3年」は効果が持続するとされています。狂犬病ワクチンの場合、

この期間は1年のままなのでしょうか?

法的には、どんな事情でも免除されない狂犬病ワクチンの接種

狂犬病予防法第5条にはこうあります:

犬の所有者は、その犬について、厚生労働省令の定めるところにより、狂犬病の予防注射を毎年一回受けさせなければならない(原文ママ)

猶予や免除の条項は存在しません。抗体検査についての記載もありません。つまり、法律上はいかなる理由があっても狂犬病の予防注射は1年に1回打たなければならないのです。

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次回からは、ここを掘り下げたいと思います。

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なお、獣医さんが健康上接種すべきでないと判断した場合、猶予証明書を書いてくれる場合があります。当然、「狂犬病予防注射済票」は発行されません。証明書提示を求めるトリミングサロンやドッグランなどには受け入れてもらえないこともあります。

でも、健康上ほんとうにやむを得ない場合は、獣医さんと話し合ったうえで接種を延期する・見送る判断も必要だと「私は」思います。それを証明してもらい、書類を保健所に提出しておくことは飼い主の責任として重要です。

いずれにしても、狂犬病予防法の規定には無いので、この証明書に法的な根拠はありません