ペットショップというビジネス最終章:私たち飼い主ができること
「ペットショップというビジネス」では、現在行われている生体販売の摩訶不思議な販売システムについて、思うことを書いてきました。前回ご紹介したコタローくんは、今も病気と頑張って闘っています。何もお手伝いできないのですが…、ご家族との穏やかな時間を、少しでもたくさん過ごせたらなと思います。
今回は最後に、ペットショップ業界に大きな一石を投じた柴犬の3きょうだいをご紹介します。飼い主さんの姿勢からは、たくさんのことを学ばせて頂きました。
GM1ガングリオシドーシス
以前も少しご紹介しましたが、柴犬の「さくら」ちゃんと「もみじ」ちゃん、「大福」くん3きょうだいは「GM1ガングリオシドーシス」で闘病の末に亡くなりました。
この病気もコタローくんと似ていて、ある物質を分解する酵素が体内で作られないために死に至る遺伝性疾患です。かなり稀な病気のようですが、柴犬のほかにもビーグルやイングリッシュ・スプリンガー・スパニエル、ポーチュギーズ・ウォータードッグ、アラスカン・ハスキーで報告されています。
「3きょうだい」が残してくれたモノ
この病気も「潜性(= 劣勢)」遺伝するので、お母さんとお父さんの両方から原因となる遺伝子を受け継がなければ発症しません。つまり、さくらちゃんたちが生まれた場所では、この稀な遺伝性疾患の変異遺伝子をもった複数の犬たちが繁殖に使われていたのです。このことは、飼い主さんが必死の看病を続けながら、繁殖業者やペットショップ、日本犬保存会などと粘り強く接触を続けたことで明らかになりました。
(* 詳しくは、「でこぼこのブログ~難病と闘う柴犬さくら」さんをご覧ください)
第3章で、全頭に遺伝子検査を行っているペットショップについてご紹介しました。この企業が遺伝子検査を始めたきっかけに、さくらちゃんたちの存在がとても大きかったことが想像されます。
↑写真提供:「でこぼこのブログ~難病と闘う柴犬さくら」さん
きょうだい犬の大事な "だいじな" 3つの命と、それぞれのご家族のご苦労や悲しみと言う大きな "おおきな" 代償でしたが、
将来、
同じ病気で苦しむ犬たちが
減ったことは間違いないはずです。
ペットショップの姿勢
ただ今回、この会社も含めたペットショップ運営企業の姿勢を改めて見直してみて思ったのは…、さくらちゃんママさんの思いは少し複雑なのかも知れないなと。あくまで想像なのですが。
遺伝子検査をしてはいますが、
費用はお客さんもち
検査した(ほとんどの犬種で1種類のみ)病気以外
責任は持ちません
という仕組みです。意地悪な見方をすれば、「何かあった時」の責任回避をお客さんの費用で行っているような印象を受けます。
「検査した遺伝子に関わらない原因による発症の有無については保証しておりません」(原文ママ;同社ウェブサイトより)
同時に、
良心的な企業であるような
印象
を上手に見せています。マーケティング面においては、学ぶべき部分もあります。
「どうぶつやご家族の方々に、二度と耐え難い苦痛を与えることが無いよう子犬、子猫全頭の遺伝子病検査を行うことで、遺伝子病のない世界にしていきます。」(原文ママ;同社ウェブサイトより)
「どうぶつ」と、敢えてひらがなを使うトコロを見ると、プロのコピーライターを使ってますね。(こんなところはプロ意識があるのか…)
巨大産業に成長した業界
ということで、ペットショップ運営企業が行っている、
自らのリスクを回避しながら、
同時に
追加でお金を集める方法
を色々とご紹介してきました。システムだけでなく、表現もなかなか頭を使ったことがうかがえます。その辺は、さすが急成長する年間売上高100億円超の大企業の面々。純粋に、さすがだなと思います。
コロナ禍の影響によるブームで、ペット業界はさらなる好景気でしょう。以前もご紹介しましたが、大手ペットショップ運営企業は、中小企業庁が毎年行っている調査によれば日本の中の
トップ数%のさらに上位
に入る規模を誇っています。「中小企業」というくくりではありますが、社会的影響は巨大です。
有効活用しては?
お金や人材など、リソース溢れる一流業界、一流企業に
(規模は…)
成長したペット業界。そろそろ、そのお金を動物たちとご家族、つまりはその百何十億円を払ってくれている「お客さん」のために使いませんか?獣医療の更なる発展にはお金がかかります。サポートするだけの余裕はお持ちでしょう。
全国津々浦々のペットショップと、とても密接な持ちつ持たれつの関係で、超巨大企業に成長を遂げた保険会社さんは既に始めていますよね。
大手ペットショップ会社にとっては一番仲の良い「パートナー」なわけですから、彼らから学べば良いと思うのですが…
繁殖業者を変えられる立場
ペットショップは、
さらに、
もっと、
直接的な対策を講じられる立場にもいます。秩序ある繁殖を徹底させるためには、あなた方の「仕入れ基準」が変われば良いことです。
「バイヤー」さんというのは、衣料業界や生鮮食料品業界など、どの産業でも目利きの「プロフェッショナル」としてプライドを持っていると思います。現在の販売システムを見ると、生体販売事業者は品質に自信が持てないようですが…。
例えばお刺身を買いに行って、
「ノロウイルスのチェックはしてるけど、ほかの細菌で食中毒にかかるかも知れないからね。その時は、責任持たないよ!」
って言うお魚屋さん、いませんよね。
お金 vs. 命への敬意
今回は5回にわたってペットショップ運営企業の問題点について、現場の販売システムに絞ってご紹介しました。(サプライチェーンの課題は、また別の機会に調査したいと思います。)
繰り返しますが、個人的にはペットショップでの生体販売が悪いことばかりだとは思いません。動物の福祉を守りながら、飼い主さんもハッピーになるやり方はいくらでもあるはずです。その前に長~く書き続けたように、「ブリーダー(≒繁殖屋)」にも問題はたくさんあります。
現在の課題は、ブリーダー、ペットショップ問わず、
お金を
「命」やお客さん(=飼い主)の幸福よりも
遥かに優先させる事業者
の存在が、私たちの大切な家族である動物たちの不幸につながっているトコロだと思います。ブリーダー(= 正確には「繁殖業者」ですが)、ペットショップ問わず。
ということは、解決策は私たち一般の飼い主の手の中にもあるような気がします。
私たち飼い主にできること
このような繁殖屋やペットショップにとっては、お金が入ってこなくなることが一番のダメージです。繁殖屋のトコロでも書きましたが、私たち飼い主が、動物福祉を重視している事業者を見極める目をもつことが大切だと思います。
売れなくなれば姿勢を改めるでしょう。
それが、将来生まれてくるであろう「この子」や「あのコ」のきょうだいや親せき、お友だちの幸せにつながると思います。
システムの細かな部分に疑問はありますが、遺伝子検査にペット業界全体の意識が向いたのは、間違いなく
さくらちゃん、
もみじちゃん、
大福くんと
飼い主さんのおかげ
だと思います。個人の力も、想いを込めれば何かを動かせる可能性があることを、さくらちゃんママさんには教えられました。その力には到底及びませんが、私も引き続き情報発信を続けて行こうと思います。
最終章のキーメッセージ:「ペットショップはダメ!子犬を迎えるなら "ブリーダー" で!」って、そんなにシンプルなことではないと思います。生体販売に限らず、弁護士だって、医者だって、会社員だって、夜のお姉さんだって、ガテン系のお兄さんだって、意識の高いプロもいれば〇〇もいます。尊敬できる「ブリーダー」もいれば、見栄えだけは良い「繁殖屋」も氾濫しています。SNSの普及による情報の氾濫で、「リテラシー」の重要さがますます増している世の中。大切な家族であるペットを守るためにも、本物のブリーダーや動物福祉を意識したペットショップを見極めるリテラシーが大切だと思います。