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ひめりんごの一大事!… ワクチン接種は本当に慎重に

「ひめりんごが死んじゃう!」って思いで眠れない夜がありました。

ワンコのことは割と勉強してきたつもりなので、「そんなケース」もまれにあることは知っていましたが…。実際に「家族」の身に起こると、「冷静じゃいられない」ことを実感しました。

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翌日の夕方には「早くごはん!」とブチ切れるいつもの ^_^; ひめりんごに戻ってくれました。後遺症の様子もなく、ひと安心。そろそろ冷静に振り返られるようになりました。

少しでも参考になればと思い、今回の顛末と今後に向けた考えををまとめてみました。長いですが、良かったら読んでみてください。4つの章になっています:

第1章:ひめりんごの受難

混合ワクチンの接種
去年の11月、ひめりんごがいわゆる「混合ワクチン」の接種を受けました。怖い病気から守ってくれる大事な予防注射。でも、最近話題の新型コロナウイルス感染症用のモノに限らず、また、人間用・動物用を問わず、ワクチンには「副反応*」のリスクが常にあります。

* ワクチン接種に伴う免疫の付与以外の反応のこと。ワクチンは生体の反応を促すものであることから、副反応という言葉が用いられます(「国立成育医療研究センター」の解説より)

混合ワクチンの副反応
前にもご紹介しましたが、「日本小動物獣医学会」が混合ワクチンの副反応に関する調査を行いました。実際に動物病院などで接種を受けたワンコたちの中から、情報が正確に得られた1万620件について調べた結果です。このうち、133件で副反応と判断される症状が見られたそうです:

・元気や食欲の喪失:117例
・発熱:66例
・アナフィラキシー症状:1例
・死亡:1例(複数の症状により合計133件にはなりません)

ひめりんご:「アナフィラキシー反応」は大丈夫
ワクチンの副反応で、まず怖いのは「アナフィラキシー反応」です。人間にも起こります。新型コロナ用ワクチンでも報道されているので、多くの方が耳にしていると思います。急に発症し、命に関わることもあるアレルギー反応で、発症時には緊急治療を要します。

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まれに1時間ほど経ってから出る場合もあるそうですが、注射から15分ほどで現れるのが一般的だそうです。ひめりんごの場合も、念のため1時間ほど様子を見ました。特に変わった様子は見られず、一安心。

赤みと激しい痒み
が…!それから数時間。晩ご飯を食べ終わった頃から、やたらと顔を掻いたり床にこすりつけたり…。ご飯が口の周りにくっついちゃったのかな?などと思っていましたが、

どうも様子がおかしい!

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よく見ると、目の周りが真っ赤!そのうち、背中を激しく掻き始めました…。被毛をかき分けてみると、背中も真っ赤でかなり痒いようです。掻きむしったためか、所どころ血がにじんでいます。

慌ててかかりつけの先生にメールを送ると、即、お電話がありました。「ワクチンアレルギー反応」とのことで、定期的にお電話をいただきながら注意深く様子を見ていくことになりました。

嘔吐と下痢も…
もしも、ぐったりしたり、呼吸が荒くなったり、痙攣をおこしたりなど、明らかに様子がおかしくなったら「すぐに救急病院へ」との指示でした。4時間ほど経過すると、嘔吐。しばらくして下痢も…。

その間も元気はあったので、先生に様子をご報告しながら経過観察。幸いそれ以上の症状は現れず、目の周りの赤みも次第に解消して落ち着いていきました。

大量の抜け毛に心が痛む…
ただ、注射を打った周辺の背中の皮膚がかなり赤く、痒みも強かったようです。普段は自分のベッドに一人で寝たがるひめりんごが、その夜は私にピタ~っとくっついて離れませんでした。

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時間が経つにつれて症状も軽くなって行ったようで、明け方にはスヤスヤ寝息をたてはじめました。でも…、朝起きてカーテンを開けると、床には

ピンポン玉くらいの大きさの抜け毛のかたまり

が2つ転がっていました(涙) 夜、何度も目を覚まして背中を掻いていたからでしょう。

元気になって一安心
翌日はかなり落ち着いて食欲もありましたが、念のために診察していただき、輸液やお薬で夜にはすっかり元気になりましました。その日の晩ご飯は消化の良い物を少なめに与えたのですが、かなり不満な様子。父ちゃんにブチ切れて、ドロップキックを何度も入れていました ^_^;

ひめりんごのキレキャラが、
あんなに嬉しかったことはないな~

見てられなかった我が子の苦しみ
比較的軽かったとはいえ、ものすごく痒がって夜中に背中を掻きむしる姿を見るのはかなりつらい経験でした。少し血が滲んでいたため、背中のかさぶたはしばらく残りました。

アナフィラキシー反応とは違い、命に関わるリスクは高くないことも分かっていましたが、不安はとても大きいものでした。何よりも、肉体面だけでなく精神的にもひめりんごにかかった負担はかなり大きかったと思います。

まず1番の反省…注射は午前中に
体調も良かったですし、以前は問題なかったため予測できない事態ではありました。でも、飼い主としての反省は午前中に接種を受けさせなかったことです。

ありがたいことに、かかりつけの先生は真夜中でも電話対応してくれますし、必要があれば往診もしていただけます。割と近くに深夜対応の救急病院もあります。でも、昼間の時間帯であれば念のための受診もすぐできました。

やはり、注射は午前中の早いタイミングが安心です。知ってはいましたが、「まさか起きないだろう」という気の緩みが、我が子の苦痛を増やしてしまいました…

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第2章 混合ワクチンって?

さて、今回ひめりんごが接種を受けたのは「6種混合ワクチン」でした。この「混合」って何だろうと、改めて勉強しました。

何と何で6種類?
「6種」というのは、予防できる病気が6種類あることを意味しているようです。今回のは「犬ジステンパー」、「犬伝染性肝炎」、「犬アデノウイルス(2型)感染症」、「犬パルボウイルス感染症」、および「犬パラインフルエンザ感染症」と「犬コロナウイルス感染症」に対応していると書かれています。

この中で、犬伝染性肝炎はアデノウイルス2型用ワクチンで予防できるそうです。なので、ワクチンの添付文書に記載されているお薬自体は5種類ですが、6種類の病気に対応する意味で「6種」と呼ばれているようです。

添付文書2

同じ製薬会社からは8種と10種の混合ワクチンも出ています。違いは、この6種に「レプトスピラ感染症」に対応するワクチンが2種類または4種類追加されているところです。別の製薬会社からは、11種というのも出ています。

ちなみに、「コロナ」はウイルスの構造上の分類なので、犬コロナウイルスは、いわゆる「新型コロナウイルス(正式名称:SARS-CoV-2)」とは全く別のウイルスです。

「コアワクチン」と「ノンコアワクチン」
これらワンコ用のワクチンは、もれなく打った方が良いものと、そうでもないものに分けられます。「世界小動物獣医師会(WSAVA)」は、犬・猫へのワクチン接種に関する最新の指針をエビデンス(科学的根拠)に基づいてまとめています。

その「ワクチネーションガイドライン」では、「コアワクチン」「ノンコアワクチン」という2つのグループに分けられています:

WSAVA-vaccination-guidelines-2015-Japanese_ページ_01

■コアワクチン:死につながる病気を防ぐため世界中で接種を推奨
ウイルスの感染力が強いとともに、もし発症してしまうと命に関わる病気があります。そうした怖い病気からワンコを守るために、必ず接種すべきとされるものを「コアワクチン」と呼びます。「コア」と言うのは「核になる」という意味ですね。犬の場合は3種類の病気を予防するモノです:

・ジステンパー
・アデノウイルス(2型)感染症
・パルボウイルス感染症

これらのワクチンは、愛犬の命を守るために打つのが推奨されています。ただし、その頻度は慎重に判断する必要があります。これについては、次の章でご紹介します。

なお、狂犬病ワクチンもコアワクチンに含まれますが、少々やっかいな事情がありそうなので、コイツは別の機会にご紹介したいと思います。

■ノンコアワクチン: 状況によって選択
それ以外の病気を予防するワクチンは「ノンコア」に分類されます。関係する病気は、居住地域や飼い主さんのライフスタイルなどで感染のリスクが変わるモノや、あまり重篤化する傾向にないモノがあります。

ワンコの場合、「パラインフルエンザ」、「レプトスピラ感染症」、「ボルデデラ」などを予防するワクチンがノンコアに分類されます。

接種の要否を判断するポイントは:

1.その病気にかかりやすい環境で生活しているか?
2.かかった場合その感染症がどの程度危険なのか?
3.ワクチンを接種した場合の(有害)副反応リスクがどの位か?

です。こうした「リスク・ベネフィット評価」に基づいて接種の要否を判断するワクチンだそうです。また、ノンコアワクチンの多くは効果が続く期間も比較的短くまちまちなので、接種のタイミングにも注意が必要です。

なお、WSAVAは犬コロナウイルス感染症ワクチンをノンコアではなく「非推奨」、つまりおススメしない、としています。ひめりんごが注射した「6種」にも入っていたヤツです。これについても、色々ある様です…。

ノンコアを接種しないことを選択
ひめりんごと平蔵には、
ノンコアワクチン接種は不要と判断しています。なお、今後の考え方は全て成犬への(定期的な)混合ワクチン接種を前提とします。後で少し触れますが、子犬の場合は少し事情が異なります

例えば、ノンコアに分類されているパラインフルエンザですが、俗に言う「ケンネルコフ」などの原因にもなる感染力のかなり強い病気です。子犬では予防しておいた方が安心な場合もあると思います。いずれにしても、「リスク・ベネフィット評価」に基づいて判断すべきワクチンです。

もうちょっと詳しく見てみると…

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風邪と胃腸炎
「あえてシンプルに言えば」
ですが、パラインフルエンザは風邪、コロナウイルス感染症は胃腸炎。もちろん、こうした病気を予防することに意味はあるので、ワクチン接種は飼い主さんの判断次第だと思います。

パラインフルエンザは基本的に上気道にトラブルを引き起こす病気なので、注射よりも経鼻の方が効果的と言われています。また、犬コロナウイルスは感染してもほとんどの場合が無症状であるとともに、ワクチンから十分な効果を得られるエビデンスが得られていないそうです。

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こうしたメリットと100%否定できない副作用のリスクとを検討して、うちでは不要と判断しています(混合ワクチンには入ってしまっているので取り除くことはできませんが…)。

レプトスピラ感染症
住んでいる地域や環境、飼い主さんのライフスタイルなどにより感染するリスクがかなり違います。また、接種後に病気を予防できる期間(免疫持続期間:DOI)が短い場合が多いそうです。ですので、注射を打つかどうかの判断に加え、接種する場合はタイミングも獣医さんと充分に相談するのが安心だと思います。

例えばネズミなどの動物が多く生息している地域(=菌への感染リスクがある場所)にキャンプや川遊びのために出かける機会が多い場合、お出かけの少し前に注射を打って免疫を付けておくのが安心かも知れません。

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一方で、都会での生活がほとんどの場合、予防しない選択肢もありだと思います。

レプトスピラ感染症はどこから?
「レプトスピラ」は何と250を超えるとても種類の多い細菌です。野生のねずみなどの膀胱にいて、オシッコを通して排出されます。そして、その菌に汚染された土や水を介して感染します。

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ワンコに関しては、農林水産省によって7種類が「届出伝染病」に指定されています。発熱、食欲不振、嘔吐などの症状が見られますが、重症化すると腎臓や肝臓の機能不全に発展することもあるそうです。

種類に関する情報が不足
やっかいなのは、どの地域でどの型が流行しているかの情報が十分得られていないところです。感染の主流だと思われていた「カニコーラ」と「イクテロヘモラジー」と言いう種類のレプストピラ菌に対応するお薬が、普通は混合ワクチンに入っています。

「思われていた」と表現しましたが…。2016年に国立感染症研究所が行った調査では、この2種類以外による発症が多かったことが判明したそうです。

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5種類のレプストピラ菌に対応はできるけど…
ワクチンは、予防する菌やウイルスが一致しなければ効果はないですよね。インフルエンザの場合も、「流行しそうな型」を予想して予防注射を打ちますが、外れたら効きせん。それとおんなじです。

混合ワクチンの場合、「何種」という数字が増えるごとに「ヘブドマディス」、「オータムナリス」、「オーストラリス」と言う種類のレプストピラ菌にも対応するワクチンが追加されます。「11種混合」ワクチンを接種すれば、合計5種類のレプトスピラ感染症も予防できることにはなりますね。(あとの2種類は、現在のところ予防できません。)

でも、この病気は熱帯から亜熱帯地方に多いものです。日本では西日本地域でワンコの感染例が報告されていますが、甲信越・東北地方ではあまり発生していないそうです。関東でもごく少数で、例えば神奈川県では過去10年で3件が報告されているのみとのことです。

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ひめりんごと平蔵の場合の判断
首都圏在住で、飼い主が決してアウトドア派ではないので、ひめりんごと平蔵にはレプトスピラ感染症ワクチンも不要と判断しています。でも、感染リスクだけでなく、飼い主さんの健康管理に対する考え方も人それぞれです。ワクチンでの予防が大切、という判断もあるかと思います。

また、地震や水害といった災害時、ペットは「同行避難」が原則です。そうした環境では、他のワンコから感染するリスクもゼロではありません。さらに、水害後に水のひいた場所ではレプトスピラ菌に感染することも絶対にないとは言えません。

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私も、「何が何でもワクチン接種に反対」というわけではありません。コアワクチンはきちんと打たせています。自分でもインフルエンザワクチンの接種を受けることもあります。

ただ、ひめりんごと平蔵の場合、これらの病気に対してはワクチン以外の健康管理がベターだと考えています

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第3章:コアワクチンは抗体検査で要否判断

ワクチン接種を繰り返すことによって、 個々の動物に『より高度の』免疫を誘導することは絶対に不可能である。すなわち、コアMLV(弱毒)ワクチンを3年毎に接種されている犬は、同じワク チンを毎年1回接種されている犬と等しい防御効果を獲得する」(原文ママ;かっこ内は筆者追記)
「犬と猫のワクチネーションに関する2つ目の重要な概念は、ワクチン製剤に対する有害反応の可能性を最小限に抑え、また根拠のない獣医療行為のために飼い主と獣医師にかかる時間と経済的負担を減らすために、個体に対する『ワクチン負荷』の軽減を目指すべきである、ということであった。(原文ママ;強調は筆者)

これは、WSAVAの「ワクチネーションガイドライン」序文に書かれている文章です。

久しぶりだった混合ワクチン
さて、実はひめりんご、混合ワクチン接種は久しぶりでした。前年とその前の年は打っていないので、まる3年あいています。ちなみに平蔵が最後の接種を受けたのは子犬の時なので、4年以上経過しています。

ノンコアワクチンは今のところ打たないと決めていますが、コアワクチンが対応する病気は命に関わる場合もあるので予防は大切です。では、どうしているのかというと:

「必要な時に必要なものを」
=> リスクの最小化と効果の最大化

混合ワクチンに含まれるコアワクチンについては、毎年「抗体検査」をしています。免疫が残っているかどうかをチェックして、打った方が良いかどうかの診断をお願いします。接種の頻度を最小限に抑えることで、その分、副反応のリスクは減らせるわけですから。

それから、少なくとも犬の場合はコアワクチン3種すべてについて「免疫」が保たれる期間*が3年を超えるというエビデンス(科学的根拠)が示されています。ワクチン接種の効果は1年以上あるわけです。

で、ここで重要なのは:

免疫がある状態でワクチンを打っても意味がない

ということです。この辺に詳しい都内の獣医さんによれば、「いくら頑張ってもテストで100点を越えられない」のと同じと例えていらっしゃいます。

* ワクチン接種後に体が病原体から守られている期間:「免疫持続期間」=DOI: Duration of Immunity

抗体検査の重要性
とはいえ、ワクチン反応には個体差があり、免疫が3年続かないケースも絶対にないとは言い切れません。なので、抗体検査で免疫があるかどうか(= 陽性か陰性か)を1年に1度チェックして、ワクチン接種が必要かどうかを判断して頂きます。

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副反応のリスクを減らすだけでなく、ワクチンの効果をキチンと得るためにも大切です。

それから、人間や犬など全ての動物にはワクチンに反応しない「ノンレスポンダー」と呼ばれる体質があることも分かっています。その場合、病原体に晒された場合にはワクチンを打っていても病気にかかってしまいます。こうした確認のためにも抗体検査は大切です。まとめると:

抗体検査で判断できること:
1.接種は必要か? => 副反応リスクの回避
2.効果があるか? => 免疫がある状態では無駄
3.免疫機能があるか? => ノンレスポンダーは別の健康管理が必要

手軽にできる抗体検査
抗体検査は、簡単に言うとその子に免疫があるかどうかを調べる検査です。検査キットを使えば、少量の採血で判明します。病院によって、結果を知らせてもらえるまでの時間は違うと思いますが、結果そのものは1時間ほどで出ます。どういう仕組みかと言うと…

免疫:身体に侵入した病原体を退治
ここで、免疫のしくみについて簡単にご紹介します。最近は新型コロナウイルス感染症に関連して「抗体」という言葉を聞くことが多いと思います。抗体は病気になるのを防いだり病気を治したりする機能、つまり免疫のもとになるものの1つです。

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ウイルスや細菌などの「病原体」が体の中に侵入し、増殖が進むと病気になります。体内では、その病原体をやっつける物質がつくられます。これが抗体です。その働きによって病原体を退治してしまうと病気が治る、というのが免疫のプロセスです。(ちなみに、免疫には抗体が働くもの以外もあるのですが、今回は割愛します。)

ワクチンは事前に抗体を作って病気に備える
ワクチンは、この抗体を前もって体の中に作っておくことで病原体と接触しても病気にかからないようにするものです。薬の中にはウイルスや細菌を加工したものが入っており、注射などで体に入れると免疫機能のスイッチが入り抗体が作られます。

で、実際にそのウイルスや細菌が体に入ってきた場合、あらかじめスタンバイしていた抗体がすぐに病原体を攻撃して発症を防ぐという仕組みです。もう1つ、ここで重要なのは、

血液中にこの抗体が十分あれば
病気から守られている
(=「防御能」がある)ということです。

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ひめりんごは3年経過して抗体値が低下
ひめりんごも過去2回は問題無かったのですが、今年はジステンパーウイルスとアデノウイルスに対する抗体値が不充分(陰性)という結果が出てしまいました。

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前回の混合ワクチン接種からは3年経っています。「最低3年」と言われるDOIからも納得できます。かかりつけの獣医さんと十分に話し合った上で、一般的に使われている大手製薬メーカーの混合ワクチンを注射しました。

そして、この後生きた心地がしない事件が起こったのでした…

なお、抗体価が低下しても、「免疫記憶」で防御能が発揮できると言われています。また、コアワクチンでは人間の「はしか」などと同様に「終生免疫(=死ぬまで防御能が持続する)」が得られるとも言われています。

でも、それを確認する方法はないので、「ワクチンを打った方が安心」と判断しました。

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第4章 安全で安心なワクチン接種

ワクチン接種は必要最低限に
この出来事を通して改めて考えたのが、「ワクチン接種は必要最低限に」というWSASAや「欧州愛玩動物獣医師会連合(FECAVA)」など、世界的な専門団体・専門家の意見でした。

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ワクチン接種後の免疫持続期間は最低3年
それ以内に再接種を行わない

というのが現在のエビデンスに基づいた専門家による指針です。そして、抗体検査で陽性が確認できれば、コアワクチンで予防する病気に関しては、免疫力が充分に備わっていることの証明になることも認められています。

必要な時に必要なワクチンを
ひめりんごの場合、抗体検査で必要と判断した上での接種です。いずれにしてもこの副反応は避けられませんでした。

ですが、前回の接種から3年が経っていてもあの症状だったわけです。抗体検査なしに毎年接種していたら、いつ、どんな症状が出ていたか分かりません。何もなかった可能性もありますが、「もしも」を想像すると怖くなります。

今後どうするかは、かかりつけの先生と相談して決めて行こうと思います。数年は免疫が続くはずです。その間に獣医療やワクチン製剤もさらに進歩するかもしれません。いずれにしても、ワクチンは必要なものを必要な時(だけ)に接種することが、愛犬の身体を守る上で安心・安全なことを再認識させられました。

インフォームドコンセントの大切さ
話は変わりますが、人間の医療では「インフォームドコンセント」という言葉を聞きますよね。直訳すると、「告知に基づく同意」といった感じでしょうか。「医療法」第一条の四・第二項を読むと、これは医療従事者の法的義務とされています。

「医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない」(原文ママ)

「やった方がいい」ことでなく「法的義務」なんです

獣医さんが「その他の医療の担い手」に含まれるかどうかの法的定義は調べていません。でも、少なくとも飼い主さんへの適切な説明と同意を得ることは、獣医療行為としても必要ですよね。

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成犬への1年1度のコアワクチン接種は「用法及び用量外」
お薬のテレビCMなどでは、「用量・用法は必ず守りましょう」とよく言っていますよね。飲み過ぎたらお薬も毒になり得ますから、これは大切ですよね。

例えばインフルエンザにかかって
「タミフル」を処方された時、
「念のために、お医者さんの指示よりも多く飲む」
という方はいませんよね

動物用のお薬もワクチンも、当然、量と使い方は決められています。

子犬に複数回のワクチン接種が必要なわけ
子犬の場合、生まれる時にお母さんから受け継いだ「移行抗体」による免疫でしばらくは病気から守られています。ワクチンを打って抗体を作る必要はありません。

また、「100点以上は取れない」の例えでご紹介したように、抗体が存在している間はワクチン接種を行っても効果が出ません

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この移行抗体は大きくなるにつれて消えていくため、ワクチンで免疫を付ける(つまり、抗体を作る)必要があります。ただ、移行抗体がなくなるタイミングは個体差が大きく、きょうだい同士でもかなり違うそうです。

これが、子犬には何回かワクチン接種を行う理由です。「基礎免疫」を確実に付ける必要があるわけです。(これも、抗体検査をすれば何度も接種する必要はなさそうですが。)

混合ワクチンの用法及び用量
で、その接種方法については、製薬メーカーが発行する「添付文書」に明記されています。1製品の例ですが、こんな表記です:

【用法及び用量】液状ワクチンを溶解溶液として、乾燥ワクチンを完全に溶解し、6週齢以上9週齢未満の犬には1mLを3週間隔で3回、9週齢以上12週齢未満の犬には、1mLを3週間隔で2回以上皮下注射する。

添付文書

用法及び用量が「明記」されているのは子犬だけで、成犬に対する接種方法に関しては記載がありません。ワクチンについて詳しくお話しをうかがった獣医さんによれば、(成犬に対する用法・用量の記載が無い場合は)「適応外用法」となるとのことでした。

農林水産省の管轄である動物医薬品検査所が公表している犬用ワクチンの「副作用情報データベース」にも、「用法・用量外」が多く見られます。

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獣医さんは「医療の担い手」?
以前、インスタグラムのストーリーズを使ってアンケートをしたことがあります。混合ワクチン接種に関して、こうした説明を受けているという回答は1割程度にとどまりました。またSNSなどを見ると、病気のリスクにはある程度言及しても、ワクチンの有害事象に十分な説明を行っているケースはあまりない印象を受けます。

医療法に「適切な説明」の定義はないし、何をもって「十分」とするかは絶対的な正解はありませんが…

ということで、簡便なアンケートの結果と、これまで見聞きしたことに基づく個人的な印象ではありますが。その他のあらゆる製品やサービスを選ぶのと同様、獣医さんを見る目を養うのも、飼い主の責任かなと思います。この子たちの命がかかっているんです。匿名のSNSで予防接種や不妊・去勢手術を受けさせない飼い主を、汚い言葉で誹謗する(自称)獣医師の多いこと…

ワクチンは不必要に接種すべきでない
それはさておき… 

WSAVAが公表している犬と猫用のワクチン接種に関するガイドラインを、過去の記事も含めて繰り返しご紹介してきました。カナダに本部があるWSAVAは、世界125ヵ国の115の団体が加盟し20万人以上が登録する世界的な専門家団体です。

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しつこいですが、そのガイドラインのポイントをまとめると:

・大前提:ワクチンは不必要に接種すべきではない
・コアワクチン再接種は3年以上の間隔を空ける
・免疫が残っている状態のワクチン再接種は無意味
・コアワクチンについては抗体検査が有効
・ノンコアワクチンはかかりつけの獣医さんと相談

というのが責任ある情報発信を行っている専門家の意見です。

10年以上免疫が続く場合もある
別の専門家団体も同様のスタンスです。「欧州愛玩動物獣医師会連合」(FECAVA)が2016年6月にオーストリアのウィーンで開催した「ユーロ・コングレス」(欧州会議)においても、ワクチンのDOIに関する様々な論文が紹介されています。

引用された論文には全て目を通しましたが、その多くが比較的長期にわたる免疫持続に触れています。

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例えば、ジステンパーウイルスとパルボウイルスについてはワクチン接種後のDOIが「少なくとも7年」という論文があるそうです。そのほかにも、ジステンパーとアデノ1型に対する抗体は14年、パルボに対する抗体もワクチン接種10年後に検出されたという研究もありました。

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これらのウイルスに関しては、ワクチン接種によって生涯免疫が続く(終生免疫が獲得できる)としているものもあります。

製薬メーカーも長期の免疫持続に言及
製薬会社自身が出している混合ワクチンに関する資料も同様です(海外のモノ)。その製品の「カギとなるメリット」の1つとして「血清学的研究(つまり抗体検査)の結果、長期にわたる効果を示した」ことが謳われています。

要するに、ワクチン接種後は抗体が長期間存在したということです。出典とされているアメリカ獣医師会の論文には次のような記述があります:

ほとんどの犬において、ワクチンによる(免疫)反応は全ての抗原に対して48ヶ月以上継続した。(中略)この結果から、伝統的な1年間隔での再接種よりも期間を空けた場合でもワクチンは十分な防御をもつと考えられる(筆者訳;カッコ内は筆者追記)

個人的に興味深かったのは、1年間隔の接種が「伝統的 = traditional」と表現されているトコロ…。ふぅ~ん

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これから:引き続き、毎年の抗体検査
=> 陰性になった時に接種を検討
ということで、今後もひめりんごと平蔵は1年に1度の抗体検査を行って混合ワクチン接種の要否を検討します。ただし、ひめりんごの場合は再接種によって重い副作用が予想されます。

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でも、前回と同じだとすると、陰性になるまでは3年の猶予があります。その間、今回の副作用を何が引き起こしたのか、別のワクチン製剤ではどうなのか、などについても勉強し、ひめりんごにとってベストな方法を考えたいと思います。

この子たちの健康と命は、ほぼ100%私たち次第です。最新の正確な情報を入手して、慎重な判断を続けて行こうと改めて思いました。

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あとがき

以上が、ひめりんごに与えてしまった苦痛から学んだことです。色々書きましたが、一番ありがたかったのは、かかりつけの獣医さんの存在でした。夜遅くまで頻繁に電話やメールで連絡をくださり、時間をやりくりして診察もして頂きました。

「重大なことにはならない」と分かってはいても不安は募ります。そんな時、信頼できる専門家の一言が、本当に大きな力になるな~と思いました。先生との出会いに感謝です!

ヤヤコシイ飼い主にも納得いくまで付き合ってくれます。で、いつでも最優先なのは、

「ひめちゃんに一番良いことをしましょう」^_^

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今回のワクチンに関する考え方は個人的な見解です。ただし、情報はすべて信頼できるソースから入手し、反証も踏まえて吟味しました。愛犬の健康管理に限らず、法律で規制されていること以外、あらゆる判断は人それぞれです。必ずしも理詰めで決められないこともあると思います。あくまで「ご参考になれば」、という意図で現在エビデンスが示されていることを改めてまとめてみました。
何度もご紹介した混合ワクチンですが、ひめりんごの災難をきっかけに再度掘り下げてみました。で、そもそもnoteを始めるきっかけになったのは、平蔵の遺伝性疾患と無秩序な繁殖の現状を一人でも多くの方に知っていただきたいという想いでした。最近、この繁殖と遺伝性の疾患について気になる意見を目にしたので、次回はその辺を改めて掘り下げたいと思っています