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平蔵とお姉ちゃんからの贈り物

- 「ふたり」が教えてくれた、たいせつなこと -

3回目の「うちの子記念日」をむかえて

11月に平蔵が「うちの子記念日」を迎えました。アッという間に3年。手のひらにかる~く乗っちゃった仔犬が、今では2キロちょっと。決して大きくはないけれど、しっかりした身体つきに成長してくれました。

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でも、健康優良児の先住犬「ひめりんご」とは違い、平蔵にはこれまで色々ありました。うちに来てまだ1か月の頃、全身に原因不明の湿疹ができちゃって、年末年始はシャンプーの毎日。1歳ちょっとの頃には、急性胃腸炎のひどい下血で、身動きできないくらいぐったりしたこともありました。

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お散歩デビューしたばっかりは何にでも興味津々で、ちょっと目を離したすきに、小石を飲み込んじゃったり…^_^;  そんなこんながありながらも、獣医さんや看護師さん、トリマーさんにトレーナーさん。いっぱいの愛情に包まれて元気なHappy Boyに育ちました。

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ガラス細工の首

最近はすっかりやんちゃ坊主になりましたが、平蔵にはたぶんパパから受け継いじゃった、リスクの高い潜在的な疾患があります。「環軸椎不安定症」(かんじくついふあんていしょう)。聞きなれない病名かも知れませんが、生まれつき第一頸椎(けいつい=「環椎」とよばれます)と第二頸椎(けいつい=軸椎)がきちんと繋がっていないんです。だから、ちょっとした衝撃や力がかかると骨がズレ、中を通っている神経(せきずい)が傷つく危険性がとても高いんです。

環軸椎

そうなると、首の痛みや脚のしびれ・麻痺が出ちゃうわけです。運が悪いと呼吸や循環系の機能不全に陥って、「即、死につながることもあり得る」と言われています。いわば、ガラス細工のような首…。骨同士をネジで留める外科手術以外に根本的な治療法はありません。でもこの手術、かなりのリスクを伴います。症状のない状態では、経過観察という判断に至りました。

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幸い今のところ症状は出ておらず、元気に過ごせる一日一日を「贈り物」だと思って、大切に過ごしています。

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遺伝的体質:靭帯のゆるみ

犬の背骨は7個の頸椎(首の骨)、13個の胸椎、7個の腰椎、3個の仙椎(骨盤あたりの背骨)と6~23個の尾椎(尻尾)から構成されています。

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それぞれが、クッション性の高い組織によってつながり、背骨にかかる力を吸収したり柔軟な動きを可能にしたりしています。いわゆる椎間板というやつですね。

ヘルニア

でも、環椎と軸椎だけは、頭をぐるぐる動かしやすい様に、椎間板ではなく靭帯が、軸椎から伸びる「歯突起」というでっぱりと環椎を繋げているんです。人間もおなじです。

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平蔵は、生まれつき身体の色んなところの靭帯が伸び過ぎちゃうらしく、首だけじゃなくて両肩も緩いことが分かっています。一時期、前脚に矯正用の装具(ブレース)を着けていました。肩関節の可動域が広すぎる(つまり、靭帯が緩くて外に広がり過ぎちゃう)ため、ちょっとしたところから飛び降りた時などに、前脚に無理な角度で力がかかり、肩関節を痛めることがあったんです。両腕が外側に開き過ぎないように制限する装具でした。

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装具を着けての半年

かかりつけの先生と動物理学療法の第一人者である獣医さん、それから平蔵もひめりんごも大好きな看護師さんのおかげで、ぴったりの装具が出来上がりました。

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この頃、平蔵はまだ1歳のお誕生日を過ぎたばかり。両腕を中心に上半身を拘束されて、初日はすご~く落ち込んでました…

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それから半年、寝る時以外はブレースを着けての生活。動きを制限される不自由さにぐずる時もあったし、装具が擦れて毛玉になることもあったけど、だんだん慣れてくれました。おかげさまで、その後は肩を痛めることはなく元気に過ごすことができました。

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先生からお許しが出て、装具なしでお散歩に出かけた時の「ルンルン♪」って感じの足取りは目に焼き付いています。今でもベッドやソファには上がらないように注意していますが、本人は「へっちゃらさ〜!」って感じで、時々ママや父ちゃんの目を盗んでピョンピョンやっています。

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頑丈に成長した身体と心がガラスの首をサポート?

虚弱だった平蔵、最近は気に入らいない事があると、「鬼嫁」ひめりんごにケンカを挑むようにもなりました。3歳っていうと、人間でいえば20代。気持ちも体力も、「男子力(?)」全開のおとしごろかも。ただ、二枚くらい上手のひめりんごは、「は〜?」って感じでスルーしてますけど(笑)

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基本的には、お互い手加減している様子もあるので、多少は激しめのじゃれ合いやプロレスごっこも自由にさせています。でも、仔犬時代に大好きだったおもちゃの引っ張り合いはNG。「がうがう」言いながら、ひめりんごも平蔵も目を輝かせながらしっぽフリフリで本当に楽しそうに遊んでいただけに、かわいそうです。でも、命には代えられない…。

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そんな感じで、高さのある場所への上り下りや引っ張りっこ遊び、それから、ほかのワンコと衝突の危険があるドッグランでの遊びはできなくなりましたが、なかなかヤンチャで元気な男の子に成長してくれました。

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最後に肩を痛めてからはもう2年以上。靭帯そのものが強くなることはないらしいけれど、骨や筋肉が頑丈になったんでしょうかね。

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スポーツ選手が靭帯を痛めると移植手術をする場合があるように、靭帯は筋肉や骨とは違って強くすることはできないそうです。肩の方は問題無く過ごしているので忘れちゃうことがありますが、平蔵の首はいつ壊れちゃうのか分からない「ガラス細工」。肩を含め、成長とともに強くなった身体が支えてくれることを祈りつつ、首に負担のかからない生活を続けています。

お姉ちゃんの訃報と止まらない流れ

そんな中、とても悲しいお知らせが届きました。平蔵のお姉ちゃんが、亡くなったそうです。お母さんは違いますが、お父さんが同じで平蔵の1日前に生まれたお姉ちゃん。いつまでも赤ちゃんのような童顔と、小さなお耳が可愛い天使でした。

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お姉ちゃんは、まだ1歳になる前に首の痛みが発症し、数か月間、首にバンデージを巻いて過ごしていました。パピーにとっては、とってもストレスだったと思います。その間、トリミングはもちろんシャンプーもダメ。でも、それ以降はとっても元気な様子だったのですが…。突然倒れ、意識が戻ることはなかったそうです。

はっきりした原因は分からないそうですが、首を起因とする何らかのトラブルが考えられるようです。お姉ちゃんと平蔵、同じお父さんの血を引く「ふたり」が、環軸椎不安定症という同じ疾患をもって生まれてきました。まだ詳しい調査は行っていませんが、その他にも生まれつきの身体的課題を抱える血縁犬が複数いるようです。

そうした情報は、平蔵やお姉ちゃんの「お里」に、かなり以前に伝わっており、ブリーディング方針を再考する旨、連絡があったそうです。しかし、SNSやウェブサイトを通し、平蔵とお父さんを同じくする「おとうと」や「いもうと」と今も継続的に知り合っているのが実情です。つまり、いまだに、「少なくとも」ですが、平蔵やお姉ちゃんと同じfatal(<=あえて英語で伏せて?おきます)な遺伝子をもつ可能性のある仔犬が誕生「させられている」。とても悲しい事ですが…、流れは止まりません。

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遺伝とは?「奇跡の血量18.75%」

話題は少し変わりますが、「ブリーダー」は犬や猫に限らず、またペットに限らず存在しています。ヘビやカメなどの爬虫類、カブトムシやクワガタなどの昆虫、熱帯魚などのお魚などなど。その中で、最も科学的にブリーディングを行っている分野の一つが競走馬の世界だと思います。優秀なサラブレッドは1頭の価格が数千万円から億を超える場合もあるそうです。ブリーディングは獣医学や遺伝学を考慮しながら慎重に行われているでしょう。

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サラブレッドのブリーディングにおいては、「奇跡の血量18.75%」という言葉があるそうです。優秀な、つまり速い競走馬の血統を残すことが優先される世界における「経験則的ないわれ」として、4世代前と3世代前の祖先が同じ場合、その祖先のもっていた優秀な才能を受け継ぐ名馬が誕生することが多いそうです。こうして生まれたサラブレッドは、計算上、もともとの種馬(=残したい優秀な要素を持った馬)の遺伝子を18.75%受け継いでいます。

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ある優秀な競走馬の遺伝子を残すため、その馬の次世代を生み出しても、交配を続けると「血」は薄まります。子(第2世代)は両親のDNAを半分ずつ、つまり50%受け継ぎます。これが、孫(第3世代)では25%、ひ孫(第4世代)では12.5%と世代を経るごとに減少していきます。そこで、種馬とする優秀な個体を、例えば、父方の「ひいひい」お爺さんと、母方の「ひい」お爺さんとなるような交配を行うと、その馬の玄孫であると同時にひ孫として誕生した馬が好ましい才能を受け継ぐ可能性が高いそうです。

遺伝学の基礎として、理科の時間に「メンデルの法則」を教わったことを覚えている方もいると思います。丸いエンドウ豆と皺のあるエンドウ豆を掛け合わせると、丸と皺のエンドウ豆がだいたい半分ずつできるという、アレです。つまり、親(第一世代)のDNAが半分ずつ子(第二世代)に伝わり、それぞれの親と同じ形質をもった子供が1/2の確率で生まれるわけです。

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これは、馬やエンドウ豆といった一つの「種」の中で多様性を拡大することにより、さまざまな環境の中で生き残っていく、もしくは繁栄していくために備えられた自然の摂理です。同時に、多様性の喪失やネガティブな形質の強化および発生につながり得る近親交配は、自然界でも本能的に避けられる傾向があります。

人工的に交配を行う競走馬においては、優秀な遺伝子を残すためのインブリーディング(=血統の濃い交配)が行われています。ですが、血の濃さは18.75%が限界だという経験則が「奇跡の血量」。優秀な遺伝子を残すために近親交配をしたとしても、これを超えると障害が発生しやすくなることが経験から分かっているのです。

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「ブリーダー」という名の繁殖ビジネス

これが犬の場合…

ちまたでは、犬や猫を中心に動物の生体販売や殺処分を禁止にすべきという声が高まっています。「命」に対する向き合い方は確実に変わりつつあります。

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ただ、個人的には根本的な課題についての議論が欠けている気がしてなりません。そもそも、ペットショップで販売されたり、殺処分される「生体」は主にどこから来るのか?答えは明らかです。そして、そこではあまり知られていない、残酷な行為が続けられています。

競走馬とちがい、走る速さを求められるケースは多くありませんよね。飼主さんによっていろいろですが、犬の場合は健康な身体、一緒に生活しやすい性格、顔かたちの可愛らしさなどが求められるかと思います。この中で、昨今の日本では小型犬に身体の小ささが過剰に訴求される印象を受けます。ちなみにアメリカでは、その時々に人気がある特定の「純血種」がブランド化される傾向が強いそうです。

純潔

このあたり、過去を振り返ればわたしも全く否定できる立場にはありません。ただ、実態を知るにつれ、深刻な問題を知るようになりました。

あえて「業界」と呼びますが、そこでは極小サイズのいわゆる「ティーカップ」を「つくり出す」ため、意図的に親子やきょうだい間の極端な近親交配をするのが珍しくは無いそうです。このような交配では、外見の可愛さや付き合いやすい性格などの好ましい特性が発生する数値的確率は高くなると想像します。ただ、こうした極近親交配の目的は、「とにかく小さい仔犬」を生ませるところにある様です。未熟児をあえて生ませるための交配です。当然、身体的な障害や発育不全の起きる可能性も高まります。

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また、近親交配ではなくても、平蔵やお姉ちゃんのように、遺伝的疾患の可能性を知りながら商業的に好ましい見た目の犬は交配が続けられるケースもあります。「純血種」が好まれるアメリカの場合、「犬種の特徴が際立つようなブリーディングが、犬たちに様々な苦痛を与えていることは、数々の研究の結果から明らかだ。癌、四肢の奇形、肌の異常、目や耳の感染症…」という状況だそうです。(「純血種という病」pp. 19)

もちろん、適切な知識・経験と誇りをもって活動している「ブリーダー」さんもたくさんいます。実際、当家も色々な面でお世話になるようになりました。一つ一つの「命」に丁寧に向き合い、お迎えするご家族のことも真剣に考えていらっしゃいます。一方で、そうした方々とは考えを異にする繁殖業者が世界的に横行しているのも事実なんです。

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競走馬の場合、血の濃さの限界は18.75%。親子やきょうだい間での近親交配の場合、それは遥かに高くなります。そしてそれは、好ましい個性を残すためではなく、より小さな個体を短期間に、手軽に創出するための手段。そして、運よく明らかな障害が(その時点では)発生していない仔犬たちが、驚くほど高価な値段で取引される…。(そうでなかった仔犬は?)

現在、「ペットショップ(の生体販売)は悪、ブリーダーはOK」、ともとり得る短絡的なイメージが流布している印象を受けます。日本人はカタカナに弱いとも言われますが…、「ブリーダー」という響きの良さげな言葉にひとくくりになっている「業者」の中には、高い「売上」を簡単に得るためにこうした所業を行っている「繁殖業者」が多くいることを知りました。

皮肉なことですが、(性格に多少難ありですが^_^;)  健康優良児のひめりんごはペットショップ出身です。 <↓お迎えの日の、ひめりんご>

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お友だちの中にも、ペットショップからお迎えした先住犬は性格も健康状態も良好な一方、「ブリーダー」から「購入」した妹犬は両ひざの膝蓋骨脱臼で手術とリハビリに苦労された方もいらっしゃいます。平蔵やお姉ちゃんも、評判の良いとされる「ブリーダー」からのお迎えだったんですけどね…

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平蔵とお姉ちゃんからの「贈り物」

さて閑話休題。肩の痛みで整形外科を受診した平蔵が、肩関節不安定症と同時に、突然死に至る危険性をはらんだ環軸椎の癒合不全と診断された約2年前。診察を終えて、すぐ、かかりつけの先生からお電話を頂きました:「へいちゃんの一生、できることは全力でサポートするので、一緒にがんばりましょう!」。本当に救われる気持ちでした。

平蔵環軸

とはいえ、帰り路ではいろんな考えがグルグルして頭の中が混乱し、景色にカスミがかかったように見えていたのを今でも覚えています。「かなり深刻なんだな」とか、「これからどうしたらいいのかな」。それから、「何で平蔵が!?」という思い、もちろん強かったです。

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愛犬を家族の一員として暮らしているみなさんにはご理解頂けると思いますが、犬たちは日々、本当にたくさんのことを私たちに教えてくれます。また、ステキな縁も繋いでくれます。この子たちの短い生涯の中で、こうした「贈り物」に、どれくらいお返しできるかな、と思うことがよくあります。

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時間が経つにつれて、平蔵の病気もまた、彼を通して飼い主である私たちに与えられた「贈り物」だと思えるようになりました。一日一日を当然のモノとしてとらえるのではなく、何事もなく終えられた今日を貴重な時間として感謝する。そして、毎日を無駄にすることなく大切に過ごす。

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また、無知やエゴによって「べからざる」命の創造が行われている犬の繁殖業界の実態を知ることもできました。そんなことを教えてくれるため、うちに来てくれた平蔵。それから、お姉ちゃんの早すぎる死を無駄にしないためにも、こうした繁殖業界の実態を取材・開示していこうと思いました。

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昔、アメリカ人の友人が何かあるごとに、「Everything has a reason. (= すべてには理由があるんだよ)」と言っていました。生きていれば、良いことも悪いことも、いろんなことが起こります。それをどう解釈して、どう生かすか(もしくは殺すか)は、自分次第ということ…

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最後にチョットだけ「ダークサイド」から本音を ^_^;

何をしても、どんなビジネスをしても、他人がとやかく言うことじゃありません。世の中、きれいごとだけじゃなし。みんな、好きなように生きてます。他人には迷惑をかけない範囲で。でも、あなたや、あなた達がわずかなお金の為にぞんざいに扱っているのは、「いのち」です。 文化的生活を営むことが充分可能な社会に暮らし、「心」をもった生き物として、恥ずかしさは…感じませんか…ね?

Shame on you👊

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