ペットショップというビジネス第3章:すべてはお客さん負担
7年前にひめりんごをお迎えしたペットショップが、今は理解しがたい売り方をしていることを2回にわたってご紹介しました。子犬や子猫の基本的な健康チェックや病気予防の費用が、強制的に別料金で追加されます。先天性疾患に対する補償は、条件を付けた上で高額なオプションとして販売されています。
考え方は様々かも知れませんが、これらは本来、事業者が負担すべきでは?
ちなみにこの会社、かなり業績が良いようです。2011年度から2020年度までの10年で売上高が約6倍に成長し、昨年度の売上高は135億円だそうです。もちろん他の数字も見ないと判断できませんが、ビジネスとして成功しているようです。(以下、データは同社「事業概要」より)
「標準でお付けする」有料パック
さて、不信感の募る商売のやり方ですが、今の生体販売業界では一般的なようです。今回は、別のお店を見てみました。"巨大なショッピングモール" でよく見るペットショップも、同じ売り方です。
安心パック ¥58,000(税込み)
「すべてのワンちゃん・ネコちゃんに標準でお付けしています(原文ママ)」
「標準でお付けしている」
何だか親切そうな響きですが、
もちろん有料
内容は、色々書いてあります:
普通に事業者の業務では?
前回ご紹介したペットショップと、お値段も内容も、企業としての姿勢もほぼ同じ。主にお腹の中と体の表面の寄生虫を駆除するお薬の投与と健康診断。個人的には、
当たり前のこととして
売る側が行う
「製品」の基本品質チェック
じゃないかなと思います。その費用を、お客さんに負担させるシステム…。それが、この会社の年間売上高114億円(2020年度)に含まれているわけです。
FIP対応は評価できるかな
唯一、ネコがFIPを発症した場合の補償は評価できる気がします。「猫伝染性腹膜炎」は、ネコのお腹の中に割と普通にいて、ほとんど悪さをしないウイルスが突然変異を起こして発症します。有効な治療法は確立されておらず、短期間で死に至る怖い病気です。
突然変異の原因は判明していないので、販売時には分からないと思います。もちろん、代金の返却や別のネコで代わりになるわけではありませんが、補償する姿勢は正しいと思います。
それ以外、価値を感じられる項目はこちらのペットショップにもありません。「24時間電話相談受付サービス」…メリットがゼロとは思いませんが、アニコムさんの販売促進活動のサポートですね。
それ、売る!?
「遺伝子病」検査は誰のため?
以前のシリーズで、遺伝性疾患についてご紹介しました。すべてではありませんが、遺伝子検査で病気のリスクが分かるようになっています。この会社が、もれなく検査していることは自体は他の事業者よりも評価できます。
ただ、これも健康診断などと同様に、本来は事業者が仕入れの段階で当たり前に行うべき検査。お客さんが(安心パックとして)費用を負担するものではないはずです。今の時代、遺伝子検査を
「やっていない事業者があり得ない」だけで、
「やっているから良心的」
ではないと思います。
事業者のリスク回避
さらに、
「検査した遺伝子に関わらない原因による発症の有無については保証しておりません」(原文ママ)
との注記もあります。
全頭に遺伝子検査を行っているといっても、特定の遺伝性疾患とその好発犬種だけです。要するに、チワワだったら「進行性網膜萎縮症(PRA)」とか、犬種ごとに "よくある" 遺伝性疾患しか検査はしません。で、例えば
「チワワがPRA以外を発症しても責任とりません」
という宣言をしています。
お客さんに対して「補償する」という意味合いよりも、事業者が「しない」ことを担保する内容になっていることにお気づきでしょうか?
なお、このペットショップ運営会社が遺伝子検査をことさら他の会社よりも強調するようになったのは、あるきっかけがあります。過去の大きな過ちから学び、力を入れ始めたと思っていた遺伝子検査でしたが、彼らが得たのは違う学びだったのかも知れません。
犬や猫の幸せのためよりも、
お客さんのためよりも、
自分たちのリスクを回避するため
の施策に感じます。そして、その費用がお客さん負担…
「当店起因による病死」もお客さんの負担
このペットショップにも高額なオプションが用意されています。この内容を見て、その
不信感
はさらに高まりました。
「プラス安心保障」は生体価格(税込)の10%だそうです。ひめりんごの「お里」の約2割に比べればお安いですが、どんな「安心」なのか:
代替犬・猫の補償:「販売したワンちゃん・ネコちゃんが当店起因による病死・先天性障害で死亡した場合に、代替犬・猫をご提供する保障です。」(カッコ内、本文ママ)
…
…
…
かなり変なの、分かりますか?
かなり、変です…
「当店起因による」病死や先天性障害による死亡の補償(<= ちなみに、「保障」と書かれていますが、こちらの漢字を使用すべきだと思います)を受けるための費用がお客さん負担です。あまりにも酷いので突っ込む気力がなくなりました…
気持ちがすさむ…
コロナ禍の影響もあって、生体価格が高騰している昨今、この「プラス安心保障」もなかなかの高額になります。でも、それ以上に、これをお客さんに負担させるというのは、理解できない感覚です。
みなさんは、どう感じますか?
私の感覚が一般的でないのかも…
「電気製品などの『延長保証』と同じ」
という感覚なのかも知れませんが…
そのほかの項目や別のオプションもありましたが、この会社の姿勢はよく理解できたと感じます。気持ちがすさむので、この辺でやめます…。
企業の社会責任とは?
これらのペットショップ運営企業は、年間売上高が100億円を超えます。この数字だけから業績は判断できません。でも、社会的な影響力の大きさは充分です。
中小企業庁が毎年発表している「中小企業実態基本調査」によると、2020年度に調査対象となった中小企業は300万社超(3,339,598社)。その中で売上が10億を超えた会社はわずか2.9%です。小売業に限定すると、1.7%しかありません。つまり、
大手のペットショップ運営企業は、
トップ数%のさらに上位
に入る規模を誇っているわけです
「中小企業」というくくりではありますが、社会的影響は少なくないと言えるのではないでしょうか?おっきな会社です。
「あそこも、ここも」問題を感じる業界
繰り返しますが、この会社、遺伝子検査を積極的にアピールしています。同時に、補償対象外となる条件も「キチンと」明記しています。そうなったきっかけは、いずれ改めてご紹介したいと思います。(以前、少しだけ触れさせて頂きました。)
それから別の事業者のケースですが、「何かあった時」の対応という面でも、この業界には問題が少なくないようです。次回はそんな事例をご紹介します。こちらも同様に「超大手」ですが、評判も色々聞く "あそこ"。
今回のキーメッセージ:ペットショップという形での生体販売そのものが、100%ダメだとは思いません。個人的には、良い面もゼロではないと思います。とはいえ、かなり明らかなサプライチェーンの課題以外を見ただけでも、ビジネスのやり方や姿勢には疑問を感じました。その巨大な規模を見ると、社会的影響力の大きい企業としては間違っていると思います。法律には違反していないでしょうけど、企業には社会的責任も問われる時代。