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第7章:防げる遺伝性疾患がまん延

前回は、徐々に改善されている遺伝性疾患があることをご紹介しました。一方で、放置され、あり得ないレベルでまん延に向かっている病気もあるのが実情です。今回は、犬たちを苦しめている、そうした遺伝性疾患について触れます。

小型犬は膝が悪いのが「普通」?

特に小型犬で、「膝がゆるい」と言われる「膝蓋骨脱臼」が増えています。俗に「パテラ」と呼ばれ、膝の「お皿」がずれてしまうこの病気については、ペット保険の多くが補償の対象から外しています。明らかに頻発しているのが分かります。

パテラ

ある大手ペットショップチェーンは、インターネット上に子犬の健康チェック結果を公開しています(それ自体は評価できる姿勢ですが)。全国で販売されているトイプードル(トイプー)の子犬200頭の健康診断票を見たところ、145頭に膝蓋骨脱臼「あり」とチェックマークが付けられていました。実に7割以上…。

診断書

2019年に発表された理化学研究所らによる研究でも、パテラの発症率はトイプーが最も高く、およそ7頭に1頭の割合で発症しているそうです。きょうだい犬が発症している場合、リスクが12.6倍という研究結果も発表しています。

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これほど多ければ、
保険会社は補償対象から外す…
不思議はありませんね

簡単に診断できる遺伝性疾患なのに…

このパテラも遺伝性疾患の1つです。前回ご紹介した「変性性脊髄症(DM)」や「フォンビルブランド病 type1(VWD)」、「進行性網膜委縮症(PRA)」などは「単一遺伝子疾患」と呼ばれます。特定の遺伝子が病気を起こすことが分かっており、その遺伝子の場所も判明しています。遺伝子検査で、リスクを確認することができます。

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一方、パテラは複数の遺伝子が関係して発症する「多因子疾患」です。DMやPRAなどとは仕組みが違うので、遺伝子検査はできません。でも、ご存じの方も多いと思いますが、パテラは遺伝子検査をしなくても(できませんが)、獣医師でなくても、ある程度の知識があれば診断できます

「需要によって無秩序な生産(繁殖)が横行」

で、このパテラも罹患した犬を繁殖に使わないことで、世代を経れば徐々に減らしていくことが可能です。逆に、これだけ多くに疾患が見られるということは、埼玉県獣医師会の言うように「需要によって無秩序な生産(繁殖)が横行している」からに他なりません。トイプーが一番多い…。この調査結果が何を語っているか想像できますよね。

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アニコムが毎年発表している「人気犬種ランキング」の2021年版には、「トイプードルが不動の21連覇達成!」とあります。以前、イギリスでフレンチ・ブルドッグ(フレブル)ブームが健康に問題を抱える子犬の増加を招いているエピソードをご紹介しました。儲かる犬種の「無秩序な生産」が行われるのは、イギリスも日本も同じ…?

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もちろん儲けることが悪いわけではありません。誰でもたくさんお金が入れば嬉しいです。聞きたいのは、

簡単に儲けるために、
無秩序
生産していませんか?

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遺伝子検査の前に触診と倫理的な繁殖を

うちは「遺伝子検査をしてます」と素敵なウェブサイトで語る繁殖屋さんをよく拝見しますが、

膝に
遺伝性疾患を抱えたトイプーを
量産していませんか?

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もちろん、PRAもDMもVWDも、遺伝子検査をして発症リスクがないのを確認できているのは安心です。でも、膝が悪いかどうかは触れば分かります。そうした成犬は、繁殖から外していますか?

子犬の場合、「販売」する時にはわからないこともありますが、「我が家で生まれた子供たち」の様子は新しいご家族に聞けば分かります。子犬に疾患が出た場合、どの繁殖犬がリスクをもっているかは分かりますよね?

「PRA発症いたしません」

それは、あたり前ではないでしょうか?「物」に例えるのはイヤですが…、本当に嫌ですが、例えばクルマ屋さんの広告に、「故障いたしません」って敢えて書いてあるのを見たことはありません。あなた方にとっては「商品」ですから、品質に問題がないのは大前提だと思います。

遺伝って?

で、私だけかも知れませんが…。パテラとか環軸椎不安定症とか、それから何度もご紹介した鼻ぺちゃ犬の「短頭種気道症候群(BOAS)」だとか、骨の形や構造の異常が「遺伝性疾患」というのは、イマイチ素人にはピンと来ませんでした。なので、次回は遺伝について勉強したことを少しご紹介します。

誤解も多いようなので…

第7章のキーメッセージ:遺伝子検査が広まりつつあることは、とても明るい傾向ですね。その一方で、触ってわかる遺伝性疾患であるパテラをここまで放置、というか、増やしているのはなぜ?「遺伝子検査しています」って、マーケティングメッセージとしても効果的なんでしょうね。