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搾取の構造?第2章:新しいビジネスモデル

前回は、繁殖を引退した犬や猫の引き取りを大手ペットショップ運営企業や関連団体が始めたことを紹介しました。背景にあるのは、「動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年6月19日法律第39号;以下、改正愛護法)」です。繁殖業者などが飼育できる頭数や出産回数に上限が設けられたことが大きな要因です。

今回は、石川県金沢市に「繁殖を引退した犬と猫」専門の「1号店」をオープンした会社のシステムを見てみます。子犬や子猫の販売システムでご紹介した姿勢は、ここにも如実に表れている印象です。

「安息と幸せに満ちたセカンドライフ」

この会社は、「ブリーディングを引退したワンちゃん・ネコちゃんたち」を、"感謝とねぎらいの気持ちを込めて"「パートナードッグ&キャット」と呼ぶそうです。

「感謝とねぎらいの気持ちを込めて…」ブリーディングを引退したワンちゃん・ネコちゃんをはじめ、すべてのワンちゃん・ネコちゃんたちに、安息と幸せに満ちたセカンドライフを送ってもらえるよう、一生を共にしていただけるご家族との出会いをお手伝いする取り組みです。(同社ウェブサイトより;原文ママ)

この「取り組み」の一環として始めたのがこの店舗でしょう。

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この少々ポエムっぽい文章に続くのは、企業としての当然の責務に関する決意表明(?)です:

…ブリーディングから引退した子犬・子猫のお父さん・お母さんをはじめ、すべてのワンちゃん・ネコちゃんの安息と幸せに満ちたセカンドライフのためのお手伝いをすることは、子犬・子猫を販売する企業として当然の責務である(同社ウェブサイトより;原文ママ)

と考えて、この取り組みを始めたそうです。

プロセスは好印象

里親探しに関する手続きは、キチンと考えられている印象です。「新しいご家族のもとへ行く前に行うこと」とあり、健康診断はもちろん、スタッフによる「ふれあい」などにも配慮されています。

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悪くないと思います。安心できそうです。

「お迎えの流れ」も詳しく具体的に書かれています。「住宅環境などの条件」をペットショップに「審査」されるのはチョット心外な気もしますが ^_^; 引取り後の犬・猫の幸せのためには正しい

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いずれにしても、犬や猫にとっても、お迎えする新しい飼い主さんにとっても安心できるシステムかなと思いました。

システム自体は…

「諸経費」が約10万円

次に書かれているのが「お迎えいただくための諸経費について」。ワンちゃんの「諸経費」が¥98,000、ネコちゃんは¥88,000:

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ボランティア団体さんなどから保護犬・猫をお迎えする場合、ある程度の費用を新しい飼い主さんが負担することは少なくないと思います。一瞬、読み飛ばしそうになりましたが、

何かが
おかしくはないでしょうか?
私の感覚が「また」
意地悪だからかな…?

保護団体さんの場合、潤沢な予算がないのが普通です。多くは寄付や持ち出しなどでまかなっていると思います。でも、獣医さんに診て頂いたり治療を受けたりすれば、お金はかかります。

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その費用を元の飼い主が払うことは考えられません。新しくお迎えするご家族が、ある程度負担することで保護団体が継続的に活動できることにつながります。それは、健全なシステムだと感じます。(この辺りにも「闇」はあるようですが、それは別の機会に…)

一方、この会社は以前ご紹介したように全産業の中でもトップクラスの規模を誇る企業。

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年間100億円を超える売り上げは、「この犬」や「あの猫」を使って繁殖業者と一緒に稼いだもの。

「ワンちゃん・ネコちゃんをお引き渡しするにあたって、私たちが健康面で必要だと考える検査・処置・管理などに掛かった費用の一部を「諸経費」として申し受けます。」

だそうです。

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どのような検査・処置・管理がなされるのでしょう?

健康診断は基本的なモノばかり

内訳は、記載のある健康診断(「検査・処置項目」)とスタッフとの触れ合いやお世話にかかるご飯やトイレなどの諸費用でしょう。主にコレ↓だと思います:

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「触れ合い」の人件費や餌代がかかるのは理解できます。それを、里親さんに請求するかどうかは別として。でも、「検査・処置項目」を見ると

「ブリーダー様から責任をもってお預かりした犬・猫」

改めて必要なこととは思えないのですが…。基本的なケア(のみ)だと思います。そもそも、この内容は、預けた「ブリーダー様」(事業者)が負担する費用ではないんでしょうか?

まぁ、色々な事情があるのかも知れません。でも、やっぱり何だか高い気がするので、相場を調べてみました。

病院でもMAX8万円台

日本獣医師会が「家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査」結果を公表しています。全国1,365名の小動物臨床獣医師へのアンケートに基づくものです。

獣医師会

チョット古めの2015年のデータですが、1つの目安にはなるでしょう。関連する項目の中央値を多めに加算してみました。で、

最大限に見積もって
89,520円
で収まります(詳細は欄外に)

繰り返しますが、大まかな目安ではあります。でも、私たち一般の飼い主が動物病院で同じ処置をお願いする時に「かかりそうな」費用です。

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一方、このペットショップ運営企業には、少なくない数の獣医師が在籍しています。社員さんですから、残業代は別として、基本的に診察や処置に追加費用はかかりません。

ワクチンや駆虫薬、遺伝子検査などの発注数は、日本中でも最も多い企業(の1つ)でしょう。私たちが動物病院にお支払いするよりも、仕入れ価格もかなり安価なはずです。

新しいビジネスモデルの誕生?

そもそも、費用の一部であっても「彼らのような大手企業が」 "諸経費" として里親側に要求すること自体が、論理的かつ倫理的にもいかがなものかと思います。また、これは本当に費用の「一部」なのでしょうか?

さらに、移動に関わるコストは別だそうです:

ワンちゃん・ネコちゃんをご希望の○○○○○○の店舗に移送する際の費用は、上記「諸経費」とは別途申し受けます

なお、「ブリーダー様からお預かり」する際の費用は書かれていませんが、まったくゼロということは考えにくいと思います。まぁ、どちらだとしても、諸々を考えると、

「子犬・子猫を販売する企業として当然の責務」

としての取り組みと言うよりも、

「新しいビジネスモデル」

という印象を持ってしまいます。みなさんは、どう思いますか?遺伝子検査が「犬の健康と家族の幸せにため」というよりも「将来の責任を回避する手段」に感じられたのと同じ印象を受けます。

垣間見える姿勢

「1号店」を紹介した地元のラジオ局「MRO北陸放送」が、お店の担当者のコメントを紹介しています:

「ペットショップとは違い、販売を目的とするわけではない。従来の店舗とは異なりお客さんと直接深く話せることが魅力。」(原文ママ;強調は筆者)

「従来の店舗」というのは、文脈から「1号店」以外の同社のペットショップと考えられます。この発言から、子犬・子猫の販売における姿勢がうかがえる様に感じます。どう思いますか?

子犬や子猫の販売においては、「お客さん(= 飼い主)と深く話をしていない」ことを、現場の方が語っています。メディアのインタビューを受けたのですから、お店の中でも上のポジションにいる方でしょう。

血統書は渡さない

あと、

「血統証明書等はお渡しできません。」

血統書はNG

これの意味するところ、お判りでしょうか?次回はそうした点も含め、もう1つ大手ペットショップ運営企業が関わっている(と思われる)団体の仕組みを見てみます。

こちらには、もう1つ、もっと深刻な別の闇を感じます…。月齢の低い、子犬たちが多いのです。で、出自を明かさない。これが意味するトコロ…

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欄外:費用試算

動物病院で同様の診察・処置を受ける場合の費用の試算は、以下の前提:

健康診断(一日ドック):14,021円 <日本獣医師会データより>
 => 同社のウェブサイトには「視診・触診により」とあるので、これよりもかなり安価と考えられるが、上限値として算入
遺伝子検査:5,000円
=> 参考値として、一般の飼い主が業者に依頼する場合の概算
血液検査:5,352円 獣医師会データ>
=> 同社のサイトに明記がないので、比較的費用のかかる生化学検査の金額
・生化学検査: 4,625円
・採血料:727円
予防接種:10,757円 獣医師会データ>
=> 「その子の状況に応じて」実施とあるがすべて算入
・狂犬病ワクチン:2,944円
・5~6種混合ワクチン:6,388円
・皮下注射技術料:1,425円
内部寄生虫・外部寄生虫の予防投薬:約3,000円
=> ノミ・ダニ & フィラリア駆虫経口薬を処方される場合の概算
・薬代:3,000円
・経口投与料:192円
不妊・去勢手術:37,433円 (不妊); 26,695円 (去勢) 獣医師会データ>
=> 全身麻酔と、高額な方の不妊手術を算入
・全身麻酔:10,020円
・不妊手術:27,413円
・去勢手術:17,675円
スケーリングなど:12,340円 獣医師会データ>
=> 不妊・去勢手術と同時に行う前提で全身麻酔費用は不算入
=> 抜歯は複数本に及ぶことがあるが、1本と仮定し「健康診断」費用で相殺
・歯石除去(スケーリング):8,849円
・抜歯:3,491円/本(歯の状態による)

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