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幸せな「犬生」のために:無秩序な繁殖と遺伝性疾患

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大切な家族の一員である愛犬たちには、できるだけ健康で幸せに過ごして欲しいと願うのが愛犬家でしょう。モラルに欠ける繁殖業者の無秩序な繁殖によって、その願いが打ち砕かれることが少なく…
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#ブリーダー

繁殖を禁止されたブリーダー③:遺伝子検査は何のため?

前回は、ノルウェーでイングリッシュ・ブルドッグ(ブルドッグ)とキャバリア・キングチャールズ・スパニエル(キャバリア)の繁殖が違法とされた裁判の続報をご紹介しました。9月に行われる第2審の結果に注目です。 今回は、ノルウェーの件をきっかけに、日本における犬の繁殖を改めて考えます。これまで何度も色々な角度からご紹介していますが、このnoteを始めたきっかけでもあるので、ねちっこく…^_^; 遺伝子検査はごく一部 日本でも、ワンコの健全な繁殖に意識が高まっているかのように見え

繁殖を禁止されたブリーダー②:裁判は第2審へ

今年1月、犬の福祉に関する画期的な判決が北欧のノルウェーで出たことを以前ご紹介しました。 首都オスロの地方裁判所は、この国で行われているイングリッシュ・ブルドッグ(ブルドッグ)とキャバリア・キングチャールズ・スパニエル(キャバリア)の繁殖を違法と判断。ブリーダーには繁殖の禁止が言い渡されました。 先日、この判決を不服とするノルウェー・ケネルクラブ(NKC)などが、高等裁判所に控訴しました。第2審は9月に行われ、早ければ数週間後には判決が出る見込みのようです。まず、ここま

繁殖を禁止されたブリーダー

遺伝性疾患と繁殖に関して、ちょっとだけ、本当にチョットだけですが、明かりが見えた気がするニュースがありました。遠いヨーロッパの出来事ですが、こんな流れが「どんどん広がってくれるといいな!」と思います。 ブリーダーに繁殖を禁じる判決ノルウェーで行われた裁判で、遺伝性疾患をもたらすような犬の繁殖が明確に違法とされました。ある特定のブリーダー(個人名は非開示)に対しては、 繁殖を行うことを禁止する判決 が下されました。私権を制限するもので、ものすごく画期的な出来事だと思います

最終章:飼い主の責任

前回まで、犬の繁殖(業界)が抱えるたくさんの問題点の1つを、10回にわたってご紹介しました。長~い話にお付き合いくださった方(もしいらっしゃったら)、本当にありがとうございました。 4年前、平蔵の首に「時限爆弾」が見つかりました。それが生まれつきであること、きょうだい犬たちに同じ/似た疾患が多いことから疑問を感じ、遺伝についての勉強を始めました。論文や医学書を読んだり、時には学者の先生にお話を聞いたり…。 基礎的な知識を得た上で、改めて何人かのブリーダーさん( <= こだ

第10章:「受け入れがたい状況にNOと言おう」

第2章から第4章では、イギリスで様々な犬種が無秩序な繁殖で遺伝性疾患に苦しんでいる例をご紹介しました。日本では、トイプードルを中心に(超)小型犬の「標準仕様」になってしまう程に「膝蓋骨脱臼(俗に言うパテラ)」がまん延しています。それも同様に、繁殖による遺伝性疾患であることをお知らせしました。平蔵の「ガラス細工の首」も(おそらく)お父さんから引き継いでしまったものです。 平蔵と同じ病気に悩んだおねえちゃん平蔵には、たくさんの異母きょうだいがいます。SNSを通して、一部の飼い主

第8章:遺伝性疾患は無くせるのに

前回は、繁殖業者やペットショップが徐々に始めた遺伝子検査についてご紹介しました。その一方で、分かっていながら放置され、まん延している遺伝性疾患の代表として膝蓋骨脱臼、俗に言うパテラを例として挙げました。 念のため、少し「遺伝性疾患」について調べてみました。誤解も多いようなので… パテラなどの骨格の形成不全も 遺伝による病気 で良いんですよね? ↑平蔵は首やひざだけでなく、肩にも問題があり「肩関節不安定症」の治療のため、子犬時代の半年間、装具(ブレース)を着けて過ごしまし

第6章:愛犬たちにもリスクのある遺伝性疾患

前回まで、人間が手を加えたことで、犬が「種」として例外的に多様化してきたことをご紹介しました。いわゆる「品種改良」には良い面もありますが、健康を損なう負の側面も多いことが分かっています。これまでは、イギリスのエピソードが中心でした。今回からは、私たちが経験することもあり得る(というか、すでに経験している)遺伝性疾患についてご紹介します。 犬種ごとの傾向第4章で触れたダルメシアンの尿路結石(リンク参照)以外にも、犬種によって発症しやすい遺伝性疾患があります。埼玉県獣医師会のウ

第5章:犬の繁殖の歴史

前回までは、「純血種」のブリーディングがもたらしている遺伝性疾患についてご紹介しました。でも、当然ですが品種を創ることは悪い面だけはありません。今回は、色々な犬種がいることの興味深さというか、「こんな面もあるんですね」という少し楽しい話を。 様々な魅力をもつ犬たち現在、純血種だけでも400種類近くが存在します。それぞれの犬種には、それぞれの魅力があります。小型犬が好きな人もいれば、大きくて堂々とした犬に魅力を感じる人もいますよね。フレブルのような「鼻ぺちゃ」犬も人気ですが、

第4章:健康でも殺処分、不健康でもOKな「犬種標準」

前回は、ドッグショーで「ベスト」に選ばれたジャーマン・シェパードが、身体障害を負っていると批判を浴びたエピソードをご紹介しました。鼻ぺちゃ犬たちが呼吸にトラブルを抱える「短頭種気道症候群(BOAS)」も含め、個性的な見た目を「売り物」にするために行われるブリーディングが引き起こしている問題です。意図的な繫殖が、病気をまん延させてしまった例はほかにもたくさんあります。 人間が生み出した遺伝性疾患犬の多様化を生み出した品種「改良 (?)」では、人間にとって好ましい特徴を残し、強

第3章:「純血種」という病気

前回、極端な顔かたちを求める繁殖によってフレンチ・ブルドッグ(フレブル)などの短頭種(= 鼻ぺちゃ犬)が健康に問題を抱える傾向があることをご紹介しました。今回は、そのほかの犬種についてイギリスで指摘されている繁殖の問題をご紹介します。普通に歩けない犬が、世界一に選ばれたことがあったそうです…。 「純血種」のブリーディングが犬を苦しめるイギリスでは、「優秀な犬」を輩出しているとされる繁殖業者が不幸な犬たちを生み出しているとの批判があります。以前ご紹介した「パピーファーム」で生

第2章:人間がフレブルにもたらした苦しみ

前回、イギリスで起きているフレンチ・ブルドッグ(フレブル)人気の過熱をご紹介しました。「短頭種」(= 鼻ぺちゃ犬)の場合、特に健康面の問題が発生しやすいそうです。これは、「品種改良」によって人間がもたらした、遺伝性疾患といえるものです。 人間が「創り出した」愛らしさ人間の都合に合わせた「品種改良」や「犬種標準」のため、犬は選択的な繁殖が行われてきました。フレブル特有の姿かたちは人間が望んだもの…。平蔵を含め日本でよく見る小さなレッドのトイプードルも、イギリスのフレブル同様に

幸せな「犬生」のために①…無秩序な"生産"の横行

- 平蔵が5歳の誕生日を迎えて - 平蔵が5歳のお誕生日を迎えました。2回ほど胃腸炎にかかり、ビビりの父ちゃんがパニックになりましたが ^_^; それ以外は、ほとんど病気をしていません。よく食べ、よく寝て、よく遊ぶ、元気で手のかからないコです。 でも… 生まれもった「ガラス細工の首」が 治ることはありません 第1けい椎(「環椎(かんつい)」と呼びます)と第2けい椎(「軸椎(じくつい)」と呼びます)がキチンとつながっていません。ちょっとしたことで骨がズレちゃうリスクが高く