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第6章:愛犬たちにもリスクのある遺伝性疾患

前回まで、人間が手を加えたことで、犬が「種」として例外的に多様化してきたことをご紹介しました。いわゆる「品種改良」には良い面もありますが、健康を損なう負の側面も多いことが分かっています。これまでは、イギリスのエピソードが中心でした。今回からは、私たちが経験することもあり得る(というか、すでに経験している)遺伝性疾患についてご紹介します。

犬種ごとの傾向

第4章で触れたダルメシアンの尿路結石(リンク参照)以外にも、犬種によって発症しやすい遺伝性疾患があります。埼玉県獣医師会のウェブサイトには、日本で人気のTop 9犬種(ミックスを除く)によくみられる病気がまとめられています。人気犬種1位の座をキープしているトイプードルの場合、「膝蓋骨脱臼(パテラ)」や「進行性網膜萎縮症(PRA)」が挙げられています。そのほか、平蔵の悩みでもある「環軸関節不安定症」など合計21の病気が

遺伝性疾患として
明記されています
誤解も多いようですが…

平蔵環軸

ペット保険や動物病院など、色々なウェブサイトにも出ていますが、参考までに同獣医師会のリストをまとめました。それぞれの犬種がこれらの病気を必ず発症するわけではありませんし、これらの病気以外を発症しないということでもありません。あくまで傾向ですが、知っておくと参考になる場合もあると思います。

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一部の業者による取り組み

こうした遺伝性疾患に対し、少しずつ注意を払うようになった繁殖業者やペットショップがあります。インターネットやお店で、子犬の脇に「PRAは発症しません」と書かれているのを見たことがあると思います。PRAは「進行性網膜委縮症」という病気です。目のフィルムともいえる網膜が薄くなってしまい、視力低下の後、失明する遺伝性疾患です。

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PRAは原因となる遺伝子が判明しています。DNA検査で発症リスクの有無を確認できるため、「リスクなし」と判断された子犬にそうした表示がされています。トイプードルでは、後ろ脚から始まる麻痺が全身に及んで死に至る脊髄の病気「変性性脊髄症(DM)」や、血が止まりにくくなる「フォンヴィレブランド病 type1(VWD)」も少なくないそうです。一部のトイプードル・ブリーダーは、PRAに加えてこれら2種類の遺伝子検査も実施しているようです。

明るいニュース:撲滅が可能な遺伝性疾患

DMは、ウェルシュ・コーギー・ペンブローク(コーギー)に発症率が高いことでも知られています。

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2017年に放送されたNHKの「クローズアップ現代」では、「コーギーを無作為に調査したところ、その9割以上に遺伝子の異常があることが分かりました」というショッキングな話が紹介されました。

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↑「クローズアップ現代」ウェブサイトよりhttps://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3915/1.html

ペット保険のアニコムが2018年に行った調査でも、発症リスクのある個体の割合が42%だったとしています。

調査対象(サンプル)が違うため結果は異なりますが、いずれにしても極端に高い数値であることは間違いありません。対策として、アニコムは遺伝子検査を基にした適切なブリーディングの提案を行ったそうです。要するに、遺伝子異常のない親犬だけを繁殖に使ったということでしょう。その結果、2020年にはコーギーの子犬で発症リスクのある個体は16%に減少したそうです。

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まだまだ多いとは思いますが、確実に前進していることは数字が表していますね。

遺伝性疾患は避けられるのです

暗い現状:まん延している遺伝性疾患

こうした流れは、間違いなく良い傾向です。でも、お金儲けのビジネスであると同時に、「命」を扱う「専門家」である "はず" の繁殖業者やペットショップには、更なる知識と意識の向上が望まれます。と言うのは、遺伝性疾患にもその発生にはいくつかの種類があり、

DNA検査で調べられるのは、
ほんの一部に限られる

のです。

オーストラリアのシドニー大学が整備しているデータベース「OMIA」によると、現在、犬に関しては373(ネコは120)の「単一遺伝子疾患」が見つかっており、そのうち309(ネコは88)は原因と考えられる遺伝子変異が明らかになっています。もちろん、それらすべてを検査すると、費用も時間も膨大になります。仮にできたとしても、そこまでの検査を行う必要性はないでしょう。

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でも、お金や時間を掛けたり、先端科学を駆使したりしなくても簡単に分かる遺伝性疾患もあります。

そうした病気が放置され、
「あり得ない」レベルで
蔓延(まんえん)している

状況なのはご存じでしょうか?次回は、そんなことをご紹介します。

第6章のキーメッセージ:トイプーを含め、最近の(超)小型犬では「標準仕様」のようになっているパテラ。これも遺伝性疾患です。そしてそれは、「節度ある繁殖」で避けられる病気なのです。