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第4章:健康でも殺処分、不健康でもOKな「犬種標準」

前回は、ドッグショーで「ベスト」に選ばれたジャーマン・シェパードが、身体障害を負っていると批判を浴びたエピソードをご紹介しました。鼻ぺちゃ犬たちが呼吸にトラブルを抱える「短頭種気道症候群(BOAS)」も含め、個性的な見た目を「売り物」にするために行われるブリーディングが引き起こしている問題です。意図的な繫殖が、病気をまん延させてしまった例はほかにもたくさんあります。

人間が生み出した遺伝性疾患

犬の多様化を生み出した品種「改良 (?)」では、人間にとって好ましい特徴を残し、強化しようと選択的な交配が続けられました。その結果、引き継がれてしまった様々な病気があります。軽いものから、強化されて重い病気になったモノ、完全に固定してしまったりした疾患があります。

人間と「101匹わんちゃん」の共通点

例えば、ディズニー映画で有名なダルメシアンは、尿酸を分解できない唯一の犬種です。すべての子犬が、尿路結石痛風にかかるリスクをもって生まれてきます。この体質も、くっきりした丸い斑点を出すこと(のみ)に集中して行われた選択的な交配の結果、どこかで固定されてしまった遺伝性の体質と考えられています。結石は膀胱の破裂を引き起こして死に至ることもあり、軽視できない病気です。

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ちなみに、地球上には数えきれないほどの哺乳動物がいますよね。ネズミ、リス、ビーバー、イルカ、象、キリン…。体の大きさから生活圏や食生活まで、実に様々です。でもその中で、ダルメシアン以外に尿酸を代謝できない体質なのは、人間のほかゴリラやチンパンジーなど大型類人猿だけだそうです。

ってことで、人間同様、
ダルメシアンも痛風に悩まされそうです
ビールの飲みすぎでもないのに…

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健康体でも標準外は殺処分する「犬種標準」

ジャパンケネルクラブ(JKC)によると、

「犬種標準(スタンダードとも呼ばれる)とは、各犬種の理想像を文章で書き表したものです」

ですが、世界中の畜犬団体が採用している「犬種標準」には、とても疑問を感じます。人間が決めた「標準」の定義には、体の大きさや体型、目や耳、頭蓋骨などの「形」を含め単純な「見た目」に関して非常に細かく定められています。

例えば「ローデシアン・リッジバック」という犬種は、毛の一部が盛り上がった「リッジ」と呼ぶラインが背中にあることが絶対条件とされています。前回ご紹介したBBCのドキュメンタリーでは、リッジを持たずに生まれた健康な子犬をブリーダーが殺処分する場合があることも報じられています。一部の人間が作った「標準」に合わないという理由で…(現在は改善されているかもしれませんが、いずれにしても一般には理解できない考えでしょう)

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以下は、この犬種の「標準」をJKCが日本語にしたものです。違和感溢れる一部を、以下にコピペします。

(略)この犬種の特徴は背中のリッジであり、これは被毛が逆方向に伸びることによって形成される。リッジはこの犬種の紋章である。リッジは明瞭でなくてはならず、左右対称で、尻に向かって先細りになる。肩のちょうど後ろから始まり、寛骨の辺りまで続いていく。リッジは2つのクラウンを有し、同一で正反対に位置する。クラウンの下端はリッジ全体の長さの3分の1以上に伸びてはならない。リッジの平均的な幅は5cmである。

どうやら、
畜犬団体というのは
「神」のようです

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遺伝性疾患のリスクがあっても「標準」

逆に遺伝性疾患のリスクが明らかでも、「標準」と認められるケースもあります。ダックスフント(ダックス)やシェットランド・シープドッグ(シェルティ)などいくつかの犬種に、「マール」(ダックスの場合は「ダップル」)という色があります。グレーもしくはレッドに、大理石の模様に似た濃淡がある毛色です。

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この色は、皮膚や被毛の色素合成に影響を与える遺伝子の変異によるものです。この遺伝子は、目や耳の発達にも深く関わっています。なので、マールやダップルの場合、視覚や聴覚に障害を抱える可能性が高くなることが分かっています。マール同士を交配させた場合の「ダブルマール」(ダックスは「ダブルダップル」)には、そのリスクがとても高いそうです。要は、

目が見えない子犬、
耳が聞こえない子犬が
生まれる可能性が高いのです

もちろん、あくまで「可能性」でマールの犬がすべて病気を発症するわけではないそうです。でも、遺伝性疾患の可能性が高いのが分かっている毛色を「標準」としているのにはいかがなものか…。

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犬種標準を読むと、ダックスの「ダブルダップル」は除外されていますが、シングルの「ダップル」は正式に認められています。また、シェルティの「ブルーマール」(黒にグレーの模様がある色)も標準色として書かれています。

JKCは、
「各犬種の理想像」が
犬種標準だといいます…

畜犬団体の「理想」に、
犬たちの健康は含まれないようです

次回は面白い話題を

ネガな話が続きましたので、次回はちょっと楽しい話をご紹介します。ボルゾイという独特な体形の大型犬がいますよね。あの体形、どんな意味があるか知っていますか?空港で、スーツケースを受け取るターンテーブルの周りで見るのは「ビーグル」ですよね?何でビーグルなのか、知ってますか?

第4章のキーメッセージ:遺伝に関してあまり知られていなかった時代には、遺伝性疾患を生み出す「品種改良 (?)」があったのも仕方ないことです。でも、今、明らかになっているリスクはたくさんあります。犬のゲノム解析が終わってから既に10年以上。畜犬団体さん、いいかげん、犬たちの健康を最優先させた「犬種標準」に「改良」しませんか?