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第3章:「純血種」という病気

前回、極端な顔かたちを求める繁殖によってフレンチ・ブルドッグ(フレブル)などの短頭種(= 鼻ぺちゃ犬)が健康に問題を抱える傾向があることをご紹介しました。今回は、そのほかの犬種についてイギリスで指摘されている繁殖の問題をご紹介します。普通に歩けない犬が、世界一に選ばれたことがあったそうです…。

「純血種」のブリーディングが犬を苦しめる

イギリスでは、「優秀な犬」を輩出しているとされる繁殖業者が不幸な犬たちを生み出しているとの批判があります。以前ご紹介した「パピーファーム」で生まれたり、海外から密輸されたりした犬ではないのです。有名なブリーダーが、「無秩序な繁殖」を行っているというのです…。

世界一のドッグショーに向けられた批判

「THE KENNNEL CLUB(ザ・ケネルクラブ)」は、1873年に設立された世界で最も古い畜犬団体です。犬種ごとに求められる特徴(=「犬種標準」)の作成や血統証の発行など、いわゆる「純血種」の犬籍管理を行っています。

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ドッグショー(コンテスト)の開催も行っています。1891年から続く「クラフツ(Crufts)」も主催しており、毎年2万頭を超える犬が「出品」されるそうです。海外からも40を超える国と地域から3000頭以上が持ち込まれ、4日間で16万人以上の観客を集めるビッグイベントです。ということで、

クラフツで賞を取ると、
世界で最も「優秀」な犬と
「考えられる」わけです

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正常に歩けない犬が世界一?

なんですが…、2016年に、このクラフツがイギリス国内で批判されました。「犬種の中のベスト(Best of Breed)」に選ばれたジャーマン・シェパード(シェパード)が、極端なブリーディングによって体に障害を負っていると指摘されたのです。最近、シェパードは首から尾に向けて背中が傾斜するような体型が好まれているらしいです。

で、優勝した3歳のメスは、この傾斜があまりにも極端で後ろ肢を正常に動かせず、「まともに歩けていない」とのコメントが相次いだそうです。

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専門家もクラフツとザ・ケネルクラブを非難

「王立動物虐待防止協会(RSPCA)」も、「自由に動くことが出来ない状態(の犬)がベストに選ばれたことは非常に衝撃的」と公式にコメントを出す事態になりました。さらに、

”クラフツに出た多くの犬が(ブリーディングによる)極端な身体的形状によって健康状態に問題を抱えている様子が見られた”(筆者訳;カッコ内は筆者追記)

とも言っています。「トイグループ」で優勝した鼻ぺちゃ犬のペキニーズも、まともに息ができない状態だったと言います。あくまで噂ですが、速めに歩くと酸欠で気を失っちゃったとか。

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ちなみに、RSPCAは1824年に設立され、1840年には当時のビクトリア女王から「王立(Royal)」を名前に付けることを許された、これまた歴史と伝統のある組織です。1824年と言えば、日本は江戸時代…。

ザ・ケネルクラブが改善を約束

純血種の行き過ぎたブリーディングが犬に苦痛をもたらしているとして、「犬種標準」の内容とショーでの審査基準を「緊急に見直す必要がある」とRSPCAが強い懸念を表明したとも報じられています(2016年3月14日付け「インディペンデント」紙)。

多くの批判を受けたザ・ケネルクラブは、公式YouTubeチャンネルから当該犬の動画を削除しました。また、シェパードの健康を改善するための施策を検討すると発表したそうです。

BBCとザ・ケネルクラブが絶交(?)

イギリスにおける犬のブリーディングについて衝撃的なのは、国営放送のBBCが2008年と2012年に放送したドキュメンタリー番組です。「Pedigree Dogs Exposed」(「犬たちの悲鳴~ブリーディングが引き起こす遺伝病~」のタイトルでNHKも放送しました)と同「Three Years On」(「続・犬たちの悲鳴 告発から3年」)の2本。

極端なブリーディングが、多くの犬種に深刻な遺伝性疾患を生じさせていることが報じられました。これは、ヨーロッパでも大きな議論を起こしたそうです。

てんかんの発作で七転八倒するキャバリア・キング・チャールズ・スパニエル(キャバリア)や、パグが長時間にわたって鼻の穴や鼻腔を広げる外科手術を受ける様子は、トラウマを生じさせる程の光景でした。

きゃば

で、この番組によって、ザ・ケネルクラブとBBCとの間に軋轢が生じたみたいです。番組の中では、記者がクラブの幹部とやり合う様子も観られました。BBCは、40年以上にわたってクラフツを中継してきたそうですが、最初の番組が放送された翌年の2009年から放送していません

犬の健康よりもお金が大切?

呼吸困難をきたす程のマズルの低さや正常に歩けないほど傾斜した背中など、極端な形状を生み出す繁殖手法がドッグショーで賞を獲る戦略になっているのかも知れません。手っ取り早いやり方?

あくまで、素人の想像にすぎませんが…。

要は、目立てばいい

そこには、「チャンピオン犬」の血をひく子犬たちが、高額で取引されるという事情もあるんだろうなと思います。

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番組では、「脊髄空洞症」という遺伝性疾患の遺伝子をもった「チャンピオン犬」のキャバリアが繁殖に使用され続けていることが紹介されています。当時の情報では、この犬の血を受け継いだ34頭の子犬のうち26頭に脊髄空洞症が見つかっていたそうです。チャンピオン犬の血を引く子犬は

高額なんだろうな…

歪んでいる「世界一」の基準

極端な形状やサイズで目立つより、健康面で勝負すればいいのに。シェパードなら、脚も背中も逞しくて堂々と歩くことが評価されないのは不思議じゃないですか?

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歪んでる…

次回は、そんな「犬種標準」が、もっと多くの犬たちに苦痛をもたらしている例をご紹介します。

健康なのに殺処分
不健康でも「優秀」

という、状況もあるみたいです。

ウチのコが世界一

ドッグショーって、私には縁がありません。他人に評価されなくたって、「ウチのコが世界一」(笑) まぁ、それは「家族」として見ているからですが。そもそも、MIXのひめりんごは「ビューティーコンテスト」に出られないし ^_^;

ちなみに、ウチのコンテストで同率の「世界一」に選ばれたのは↓

首と肩と膝にトラブルのあるトイプーと、
「犬種標準」ではNGな雑種犬↓でした(笑)

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で、多くの(すべてでないのもよく分かってますが)繁殖業者にとって犬は商品。でも、だったら、なおさら「品質」を大切にしませんか?

トイプーなら、ケガを気にせず無邪気に思いっきり遊びまわってくれた方が嬉しくないですか?平蔵がオモチャを取り合って、ひめりんごと遊んでいた光景が懐かしい…。

咥えて引っ張りっこ。犬なら普通の遊びですよね。力のない平蔵に、マッチョのひめりんごが手加減しながら本当に楽しそうにしていました。

でも、
「ガラスの首」が分かってから
絶対させられません…

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第3章のキーメッセージ:人間が "勝手に" 決めた「純血種」や「犬種標準」。それ自体の是非を議論することに意味はないと思います。価値観はそれぞれ。それから、「大切に育てた犬を評価して欲しい」というドッグショーへの出場自体も理解できます。高額で売りやすい「デザイン」に注力して子犬を創る…。それもありでしょう(これについては、理解は不可能ですが)。でも、すべてにおいて、犬たちの健康が最優先されていることが大前提であるべきでしょう。