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【超ショートショート】(187)~ときどき父娘(おやこ)第2話「風邪の日の電話」~☆MULTI MAX『Milky Way Blues』☆

電話が鳴った。

「もしもし?」
「・・・」
「大丈夫か?」
「・・・うん」
「お母さんから今日、電話もらって聞いたぞ。」
「・・・うん」
「インフルエンザなんだってな。」
「うん」
「今、熱は?」
「薬飲んだら下がったよ、でも・・・」
「でも、何だ?」
「まだ身体がだるくて具合が悪い。」
「あまり無理しないで、今日は早く寝ろ!」
「うん」
「お前が元気にならないと、
お父さん、そっちに遊びに行けないだろう。」
「うん」
「お前はスノボーしたいんだっけ?」
「はぁ、お父さんより私のほうがうまいのよ!」
「それはスノボーがか?」
「スキーもよ!」
「スキーはお父さんのほうが絶対、
まだうまいはずだ!」
「じゃあ、冬休みに勝負だからね!」
「あぁ~(笑)」
「北海道育ちをなめちゃいかんよ!(笑)」
「・・・(笑)」

この父娘(おやこ)は、
父と母の離婚をきっかけに、
離ればなれに暮らしている。
娘は母のふるさとの北海道で生活をしていた。

そのため、
父娘の再会は年に1度あればいいほど。
それ以外は、こうして電話で近況報告している。

「お父さんは?」
「何だ?お父さんはって?」
「だから、風邪ひいてないの?」
「ひいてないよ!お前と違うからな(笑)」
「違うって何が?(怒)」
「学級閉鎖したその日に
インフルエンザにならないってこと(笑)」
「あーひどい!お父さんのいじわる!(怒)」
「ハッハッハ(笑)」
「もう~(怒)」

娘は怒ってはいるが、
ヒステリックになって電話を切ろうとはしなかった。

「ほら、もう電話切るぞ!
早くインフルエンザ治せよ!」
「まっ!まっ、待って!」
「うん?」
「待って!まだ電話切らないで!」
「うん、どうした?」
「うん・・・」
「怖いのか?」
「うん」
「今日、お母さんは夜勤か?」
「うん」
「そうか・・・」

父娘はしばらくそのまま電話をつないで、
次の言葉を互いに待った。

「あのね。」「あのさ。」
「何?」「何でもない。お前から話せ。」
「うん」
「・・・」
「あのね。夜中に熱がまた上がったら、
お父さんに電話してもいい?」
「あぁ~いいよ!」
「あのね。夜中に気持ち悪くなったら、
どうしたらいいの?」
「気持ち悪いのか?今?」
「ううん、今は平気。
でもインフルエンザになった最初は、
ずっと気持ち悪くて怖かったの」
「そうか」
「だから、また気持ち悪くなったら、
お父さんに電話すればいい?」
「そうだな。
でもお父さんよりお母さんのほうがいいな。」
「でもお母さんお仕事中。」
「そうだけど、お父さんは東京にいるから
お前のうちにはすぐに助けに行けないんだぞ!」
「うん(涙)」
「・・・なんだよ(苦笑)泣くなよ!」
「(涙)」
「・・・」

娘には、
まだ家族であった頃、
夫婦の不仲で寂しい思いをたくさん、
知らず知らずのうちにさせていた。
そのときの寂しさが、
インフルエンザでぶり返してしまったと
父は思った。

「ごめんな」
「うん・・・(涙)」
「・・・」
「お父さん!」
「何?」
「あのね、ちゃんとご飯食べてる?」
「食べてるよ!」
「じゃあ、今日、朝から何食べたの?」
「朝?・・・何だっけ?パンかな?」
「じゃあ、夜は?」
「夜はコンビニの・・・」
「ほら!またコンビニのご飯!」
「・・・」
「ちゃんと栄養のあるものを、
野菜とかサラダとか食べないと・・・」
「あっハッハッハ、野菜もサラダも一緒だろう(笑)」
「もう~いいの!野菜は野菜!
サラダはサラダでしょう!(怒)」
「(笑)」
「だから、お父さんも健康に気をつけないと、
冬休みに会えなくなるから、
風邪ひかないでね!」
「・・・(驚)」
「ねっ!聞いてる?」
「あぁ~聞いてるよ!」
「うん。」
「お父さんなら大丈夫だ!
必ず冬休みに会いに行くから心配するな!」
「うん」
「それまでにインフルエンザから元気になっておくんだぞ!」
「うん」
「お前が元気じゃないとお母さんが
スキー場に遊びに行くのを
許してくれなくなっちゃうからさ」
「うん」
「じゃあ、そろそろ電話切るか?」
「・・・うん」
「眠れなかったら電話してもいいから」
「うん」
「今は電話切るぞ!」
「・・・うん」
「何だ?まだダメか?」
「・・・」
「あのさ!」
「うん」
「お父さん、お風呂のお湯入れっぱなしでさ」
「うん(笑)」
「溢れちゃうんだけど」
「うん(笑)」
「だから・・・」
「うん、お風呂にちゃんと入ってね!」
「あぁ、わかってるよ!」
「じゃあね!」
「あぁ、またな」

父は言葉通り、風呂に入った。
その頃、娘は、
電話に向かって、
父の電話番号を出しては消し、
また出しては消しを繰り返し、
部屋の明かりも付けたまま
電話を握りしめたまま
朝まで眠りについた。

母が家に戻ると、
まだ眠る娘の枕に、
涙のシミのあとを見つける。
そして握りしめたままの電話も。

娘の手から電話を
母が取ると、
画面が光り、
東京の父親の電話番号があるのを見る。

母は、父にメールをする。
~~~~~
きのう娘と電話したの?
あなたも忙しいのに、
迷惑かけてごめんなさい。
~~~~~

すぐに父が返信。
~~~~~
娘の電話は迷惑じゃないぞ!
早く元気になるように、
世話を頼むな!
それから、娘に内緒で、
クリスマスにプレゼントを送るから、
宅急便で。
お前からクリスマスに渡してくれるか?
~~~~~

母の返信。
~~~~~
はい。わかりました。
~~~~~

(制作日 2021.12.7(火))
※この物語はフィクションです。

今日のお話は、
9月30日書いた『ときどき父親(おやこ)』の第2話。

そして今日の選曲は、
MULTI MAX『Milky Way Blues』
ブルースという単語からもわかるように、
曲はブルース。

ブルースと言えば、
綾瀬はるかさんのドラマ
『義母と娘のブルース』が
来春にスペシャルで戻るとか?
楽しみですね!

このドラマのように、
一般的なふつうの家族や親子ではないと、
どんな設定のときどき親子になると、
過ぎて行く日々は、
いつもブルースになる。

お話の父娘は、離ればなれに生活している分、
会えないことで、
ふたりが会えることも、電話で話せることも、
いつか貴重な思い出になる。

その思い出を噛み締めるように
大切に築いているようにも感じる。

この後、
父娘は無事に冬休みに再会できるのかどうか?

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

~~~~~

参考にした曲
MULTI MAX
『Milky Way Blues』
作詞作曲 CHAGE
☆収録アルバム
MULTI MAX
『STILL』
(1991.4.12発売)

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