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【(超)ショートショート】(8)☆シナリオ☆~ほほえみをもう一度~

甘い香りが口の中に広がっていく。

「皮も食べられるのよ!」

海に面した、とある田舎の駅。

中1の夏休みのある日、
ホームを照らす陽射しの中に、
白いワンピースと帽子の君が舞い降りた。

偶然、瞳(め)があった僕に、
君はほほえみをくれた。
そのとき、僕は何も出来ずに、
佐治川石になった。
結局、上り電車に乗り損ねた。

僕らは、
まだ名前も知らない者同士なのに、
ほほえみをくれた翌日から、
この駅で、
時間も決めない、約束もしない、
そんなふうに毎日待ち合わせして、
僕らは1日中一緒に遊んだ。

中1の僕にとって、
まだこれが恋だとは気づいていなかった。
ただ、
君のほほえみが見たいと、
ほほえみ顔にしたいと、
笑わせるために必死だった。

「どこから来たの?」
「都会から。」
「引っ越して来たの?」
「夏休みの間だけ、おばあちゃん家に」
「じゃあ、帰っちゃうんだ?」
「(無言でうなずく)」

8月の暑い晴れの日、
君に会いに、いつもの駅に向かった。

でも、君は現れなかった。

「(心の声)何故だろう?嫌われた?」

僕は、翌日も、その翌日も・・・
1週間待ってみた。

だけど君は現れなかった。

「(心の声)あっ!
おばあちゃん家に来てるって言ってたな?
とりあえず、理由を聞きに行こう。」

「あの~。」
「はい。あっ!帰っちゃたのよ!」
「えっ!どうしたんですか?
僕、何かしましたか?」
「いやいや、ちがうのよ!
あの子のお母さんが具合が悪くなってね。
急だったけど帰ることになったのよ。」
「もう今年は戻らないのですか?」
「そうね。(苦笑)」
「・・・・・。」

僕はペコリと頭を下げて帰ろうとした。

「あっ!ちょっと待って!これ~!」

振り返ると、
おばあちゃんが手紙を手渡した。

「それとコレも、
渡すように言われてたのよ!(笑)」
「ありがとうございます。」

君の手紙には、
君の自己紹介が書いてあった。
はじめて君の名前を知ったよ。
そうなると、僕の名前は、
君は知らないままだね?

君のくれた口に広がる甘い香りのソレを
ほほ張りながら、手紙を何度も何度も読んだ。


僕と君のたった2週間の出来事が、
こんなにも僕自身、引きずるとは思わなかった。

高3の受験生の夏。
意外や意外に、僕はモテモテの毎日を、
君と会えなくなってから、過ごしたんだ。

でも、君に敵(かな)う人は誰もいなかった。

今日は、塾の予定だった。
電車に乗るなり、メールが来た。

~今日の授業開始は2時間遅れます。~

もう電車に乗ってしまった時に、
連絡するなって、
その日の緊張の糸が切れてしまった。

「(心の声)じゃあ、あの駅に降りてみるか?」

何度も何度も、その心の声の問いかけに、
Yes、Noの返事をしながら、
あの駅に到着してしまった。

「(心の声)エイや~!」

僕は自分の背中を押すように、
ドアが閉まる寸前、駅に飛び降りた。
車掌さんに、少しにらまれたけど。

相変わらず、夏の陽射しでホームは真っ白。
きらめく海からの光がまぶしくて、
僕は瞳(め)が眩(くら)んでしまった。

ゆっくり、眩(まぶ)しさに、
瞳をならすように開くと、
陽射しの中に、あの日の君が居た。

僕は、

「(心の声)まぼろしだ!
勉強のし過ぎで瞳が馬鹿になっただけだな(苦笑)」

でも、そのあの日の君のまぼろしが、
どんどん僕の方へ歩いて来る。

そして、
ほほえみと一緒に、
甘い香りのエメラルドグリーンの
シャインマスカットを、
今日の君が、僕の口に入れた。


(制作日 2021.6.12(土))

今日6月12日は、
「恋人の日」だそうです。

それを狙ったわけではなく、
第1話のラブラブなお話以来の
ラブラブなお話を書こうと、
きのう決めていました。

今日のショートショートは、
CHAGE&ASKA『シナリオ』という曲の歌詞にある

「さあ あの頃のほほえみをもう一度」

それから、
いつ頃かのCM、
木造の駅舎と中学生くらいの男子と女子、
引っ越し屋さんのCMだった、
その映像を参考に書いてみました。

恋か恋じゃないのか、
この心の痛みは何かもわからない頃って、
ただまっすぐなだけで、
一緒に居れるだけで、
瞳が合うだけで、
恥ずかしいけど、
とってもしあわせになる。

年齢に関係ないけれど、
一生懸命に誰かを想える気持ちって、
やっぱり良いものですね?

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

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参考にした楽曲は、
CHAGE&ASKA
『シナリオ』(1984年)
作詞 松井五郎 作曲 飛鳥涼
★収録アルバム『INSIDE』

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