見出し画像

【超ショートショート】(59)~今日のふたり~☆チャゲ&飛鳥『The 夏祭り '81』in 田園コロシアム(1981.8.1)☆

古いオーディオ機器のコレクターが集う、
創業70年の喫茶店、ひらがなで、
〈あばんぎゃるど〉。

ここのマスターが、
かなりの変わり者。

生まれは九州の小倉。
小倉には、
「小倉祇園太鼓」というお祭りがあるそうだ。

だから、いつもの上機嫌のとき、

♪♪♪♪♪♪♪♪
小倉名物太鼓の祇園太鼓打ち出せ元気出せ
ア、ヤッサヤレヤレヤレ
八坂祇園さんに揃うて詣れ揃い浴衣で皆詣れ
ア、ヤッサヤレヤレヤレ
♪♪♪♪♪♪♪♪

と、大きな鼻唄を歌うのだ!

喫茶店〈あばんぎゃるど〉のインテリアは、
今となればアンティークのオーディオ機器が並ぶ。

店を始めた頃は、
最先端のオーディオ機器を並べていたから、
よく電気屋さんと間違われて、
テレビや冷蔵庫を配達したり、
修理依頼も絶えずあり、
マスターが喫茶店に立つことはなかったという。


ドアのウィンドーチャイムが鳴る。

常連の男性が、娘を連れて、
マスターに相談に来た。

(常連の男性)
「マスター。お願いがあるんだけど。」

(マスター)
「どうしたんですか?」

(常連の男性)
「これ、娘なんだけど、
どうしても今日
見たいコンサートがあるっていうだ!
今から40年前の今日のコンサートを(苦笑)」

(マスター)
「う~ん、それは困ったなぁ~。
どうして、お嬢ちゃんは、
そのコンサートを見たいんだね?」

(娘)
「見たいから!だから浴衣で来たんです!」


喫茶店〈あばんぎゃるど〉には、
一般的なオーディオコレクションの他に、
マニアにより作られた
オーディオコレクションがある。
その中の1つに、
1979年7月に世の中に登場した
ソニーの〈ウォークマン〉がある。
当時の〈ウォークマン〉はカセットテープ。

(マスター)
「お嬢ちゃんの見たいコンサートはこれ?」

と、マスターは娘に一本のカセットテープを見せる。

(娘)
「そう!これです!」

(マスター)
「よし!わかった!(笑)」

マスターは、
ウォークマンに、そのカセットテープをセット。
娘を窓際のウォークマン専用席に座らせる。

(マスター)
「じゃあ、これを耳に!(笑)」

娘が言われた通りに耳にすると、
マスターは、温かいミルクと、
冷たいカルピスを運んできて、
こう話す。

(マスター)
「飲み物は、好きに飲んでいいから、
私からのサービス!(笑)。
でね?これからのことを説明するよ!
お嬢ちゃんが、好きなほうの飲み物を飲むで、
おじさんがウォークマンのスイッチを入れる。
すると、お嬢ちゃんは眠るように、
瞳を閉じる。」

(娘)
「何かされるのですか?」

(マスター)
「そうじゃないよ!(笑)
ウォークマンのカセットテープが、
お嬢ちゃんの見たいコンサートへ
連れていってくれる!
カセットテープが終われば、
この喫茶店に戻って来るからね!(笑)
じゃあ始めよう!(笑)」

娘は、
冷たいカルピスを一口飲むと、
すぐにウトウトと眠り込む。
心配そうに見つめる常連の男性を
マスターは肩を叩いて

「大丈夫!(笑)」

と、落ち着かせる。


娘は、
1981年の東京、
田園コロシアムの会場入り口に立つ。

入場口でチケットを求められると、
バッグの中にチケットを見つけ、
無事入場する。

会場までの広場には、
夏祭りのような屋台が並んでいる。

娘は、まだやったことがない、
金魚すくいとヨーヨーすくいに挑戦。

無事に
金魚もヨーヨーもサービスしてもらうと、
いよいよ客席に向かう。
その入り口には、
案内人がいて、

(案内人)
「やっと来られましたね!(笑)
お席までご案内致します!(笑)」

そう話すと、
チケットの座席へ案内。

(案内人)
「では、私はこれで。
また、お帰りの時にお迎えにあがりますので、
お席に居てください。(笑)
それから、これをコンサートが始まるまでに、
食べてみてください。(笑)」

案内人は、
何処からか、突然、虹色のわたあめを手渡す。

娘は言われた通りに食べると、
コンサートがスタート。

無事コンサートを楽しむことができた。

終演後、
娘が言われた通りに客席で待って居ると、
お客さんが一斉に居なくなり、
ステージのライトが点灯する。

娘の大好きなふたりが、
またステージに登場すると、

(左の人)
「どこから来たの?」

(右の人)
「未来だよな?(笑)」

(左の人)
「未来の僕らは、今も歌っているかい?」

(娘)
「(声なく、頷(うなず)く。)」

(右の人)
「でも、どうしてここに来たの?
未来の僕らが今も歌っているなら、
わざわざここに来なくても・・・」

(左の人)
「そうだな!(笑)」

娘が返答に困って居ると、

(右の人)
「ほらっ!前においで!(笑)
何か歌ってほしい曲はあるかな?(笑)」

(娘)
「“SAY YES”(笑)」

(左の人)
「そんな曲はまだ無いぞ!」

(右の人)
「じゃあほかには?(笑)」

(娘)
「歌いつづける!」

(右の人)
「なんで?」

(娘)
「この曲を生で聴くのは、今日が初めてだから。」

(左の人)
「未来のコンサートでも歌うだろう?」

(娘)
「私の時には、もうなかったよ!
みんなこの曲を“伝説の曲”って言っていたの。」

(左の人)
「伝説か!(笑)」

ふたりは娘の願いを叶えるように、
そのリクエスト曲を歌う。

歌が終わると、
娘の横に案内人が立っている。

(案内人)
「もうそろそろ帰りましょうか?
カセットテープが終わってしまいます。」

(娘)
「嫌だ!まだここにいる!(涙)」

(右の人)
「ちょっと、待ってあげてもいいのでは?」

(案内人)
「それはできません!
カセットテープが終わる前に帰らなければ、
もう元の場所に戻ることができなくなります。」

(左の人)
「へぇ~!それじゃあ、このまま今に居なよ!」

(娘)
「うん!(笑)」

(右の人)
「でも、戻ったほうがいい!
未来の僕らのファンを
過去の僕らが奪っちゃまずいだろう?」

(娘)
「(悩む)」

(右の人)
「君さぁ!前にも過去に来たよね?
憶えてない?」

(娘)
「わからない。来てないと思う。」

(左の人)
「あっ!そうか!旅立ちコンサートの初日か?」

(右の人)
「そうだ!あのときは、浴衣じゃなくて、
白い洋服だったな。」

(左の人)
「おまえ好みのなぁ!(笑)」

(右の人)
「(笑)。」

(案内人)
「もう時間切れです!
どうしますか?戻りますか?残りますか?」

娘は、案内人の言うとおり、
未来へ戻ることにする。

(左の人)
「じゃあ、また過去においで!(笑)」

(右の人)
「じゃあ、また会おう!(笑)
未来の俺にヨロシクって!(笑)」

ウォークマンのカセットテープが止まると、
娘は、薄目を開け、まわりを確認。

(娘)
「ギャー!」

(常連の男性・父親)
「大丈夫か?お父さんだ!」

(娘)
「うん!(苦笑)」

(マスター)
「コンサートは楽しかったかい?(笑)」


娘が見た田園コロシアムは、
もう今はない! 

残るのは、
娘が毎日通勤する電車の線路と、
少し小さくなったテニスコートだけだ。

娘は、毎日、そのテニスコートを見ては、

「コンサートが見えるの!(笑)」

だから、
どうしても本物のコンサートを見たくなったのだ。

(マスター)
「でも、このコンサートって?(笑)」

(常連の男性)
「そう!嫁さんにプロポーズしたコンサート。(笑)」

(マスター)
「それで確か・・・(笑)」

(常連の男性)
「そう!マスターは何でも知ってるな!(笑)
娘がもうお腹に居たんだよ、この時に。(笑)」

(マスター)
「娘さんはそのことを?」

(常連の男性)
「まだ知らない。(笑)
恥ずかしくて、まだ言えないよ!(笑)
でも、産まれた時から、
ふたりの曲を聴かせると泣き止むし、
夜はよく寝たくれて、助かったよ!(笑)」

常連の男性の父親と、嬉しさ余って、
娘は腕を組み、
マスターに人生で一番の笑顔を見せて、
帰って行った。

それから、
数年後・・・・・

(娘)
「マスター~!お願いが~!(涙)」

(制作日 2021.8.1(日))
※この物語は、フィクションです。

今日は、
お話にも登場させました、
1981年の今日8月1日、土曜日に、
田園コロシアムで、
チャゲ&飛鳥が『The 夏祭り '81』
というコンサートを開催。
動員数は初の「6,000人」。

デビューから、まだ2年の頃の出来事です。

お話に登場したリクエスト曲
『歌いつづける』は、
伝説と言われるほど、
当時の思いが込められた曲。
チャゲアスの本 (1989年発売)
『PRIDE Ⅰ~10年の複雑~』に、
この曲を聴いたお客さんの、
すすり泣く声が、
どこからかしていたようです。
そして、
その泣き声を消すように、
客席から大合唱が沸き起こったそうです。

今日のお話は、
未来のファンのわがままな想いを書いたと思います。

私も、
見に行ったコンサートも、
見に行けなかったコンサートも、
その公演があった日に、
いつも戻りたい!
参加してみたいと、
おそらく毎日思っています。

だから、今日は、
1981年8月1日のチャゲアスに
会いに行ってるつもりの夢心地です(笑)。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

~~~~~~~

お話に登場したコンサートは
1981年8月1日(土)開催
チャゲ&飛鳥
『The 夏祭り '81』
会場/田園コロシアム(東京・田園調布)
☆ライブ音源アルバムレコード
『ライブ・イン・田園コロシアム』
(1981.9.10発売)
☆ライブ音源アルバムCD
(2009.10.21発売)

お話に登場した曲は
上記コンサートの披露曲
①喫茶店の名前
チャゲ&飛鳥
『あばんぎゃるど』
作詞作曲 飛鳥 涼
②マスターの出身地のお祭り
〈小倉祇園太鼓〉
ライブ1曲目のオープニング曲
チャゲ&飛鳥
『小倉祇園太鼓~THE 夏祭り '81』
(Introduction)
作曲 大平彰彦・チャゲ&飛鳥
③娘のリクエスト曲
チャゲ&飛鳥
『歌いつづける』
作詞作曲 飛鳥 涼


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?