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【超ショートショート】(122)~ぼくの明日を救うひと~☆CHAGE&ASKA『tomorrow』☆

ぼくは、お母さんと一緒に暮らしていた。
毎日お母さんは畑仕事に行く。
ぼくも一緒に、
お母さんが背負うかごに入れられ畑まで行く。

そんなある日、
いつものようにお母さんのかごに入れられた。
でも、この日は畑と反対の町へ。
ぼくは、いろんなお店の前を通って行く。
うどん屋さんに、お魚屋さんに、
洋服屋さんに・・・。

ぼくが少しうとうとしていると、
ぼくの町から離れた遠くの町へ、
お母さんは歩いていた。

その町を抜けた奥にある森の中を入るお母さん。

森の木がなくなった
広い空が見える田んぼに来ると、
ぼくを田んぼの横のお地蔵さんの所で下ろした。
そして、お母さんがこう言った。

「あのね、お母さん、これから用事があるから、
ここで待っててくれる?」

お母さんは、ぼくの返事も聞かずに、
ぼくの荷物を置いて、
また、ぼくが入れられたあのかごを背負って、
来た道を戻って行った。

「お母~さ~ん!(涙)」

ぼくは何度もお母さんと呼んだけど、
お母さんは一度も振り返ることなく、
駆(か)けていってしまった。

ぼくは、
建物1つもない田んぼと森の中に
ひとりぼっちにさせられて、
急に怖くなり、
お母さんがいない寂しさと一緒になって、
大きな声で泣いた。

すると、
夕陽に照らされたお地蔵さんが、
突然話しかけてきた。

「いつまで泣いてるんだい?(笑)」

「何で話してるの?
お地蔵さんは石じゃないの?(涙)」

「この時間になると、
人間の姿に戻れるんだよ!(笑)」

「へぇ~。(涙)」

お地蔵さんは、
ぼくがまだ3歳なのに、
とてもひどい話を教えてくれた。

「お前がいくら泣いても、
お母さんと呼んでも、
もうお前のお母さんはお前を迎えには来ないぞ!」

「どうして?(涙)」

「それはな、お前は捨てられたんだよ!」

「捨てられた?」

「そうだ!お前のお母さんはな、
新しい旦那が出来てな、
その旦那と結婚するには、
お前が邪魔だったんだよ!」

「ぼくが邪魔?(涙)」

「その旦那はいいところ息子で、
結婚相手のお前のお母さんが子持ちだと、
家族の反対に合うから、どうしても
お前を捨てなくちゃいけなくなったんだよ!」

「お母さ~ん!(涙)」

「もう諦めろ!ここには2度と、
お前のお母さんは来んから。」

ぼくは本当にひとりぼっちになったんだと思った。

「でもな、お前には、
新しいお母さんが出来るから」

「新しいお母さん?」

「そうだ!新しいお母さんだ!
お前はそのお母さんを助けるために、
ここに捨てられたんだ。」

「助ける?」

「まだ小さいからわからないと思うが、
お前は新しいお母さんの子供として、
たくさんの愛情の中、何不自由なく成長する。
新しいお母さんはな、もともと身体が悪くて、
子供がずっと出来なかった。
でも、子供がずっと欲しかったんだ。」

「かわいそうだね。」

「あぁ~、でもな、
お前がそのお母さんの子供になる。
それでな・・・新しいお母さんはな、
お前が大人になると、
大きな病気になる。
今の世の中には治療法がないから、
お母さんは苦しいまま死ぬことになる。」

「どうしたらいいの?」

「そこでお前がお母さんを助けるんだ!
お前はお母さんのためにお医者さんになって、
新しい治療法を見つける。」

お地蔵さんが難しいお話をしていると、
すっかり夜になり、
ぼくのおなかが鳴り出した!

「今日はもう寝なさい!
ごはんはお供えのおむすびがあるから、
食べなさい!」

「うん!」

ぼくはお供えのおむすびを2つ食べると、
急に眠くなり、お地蔵さんの腕の中で眠った。

翌朝、遠くで鳴く鶏の声に起こされた。
まわりを見回すと、
やっぱりお母さんに置いていかれた
田んぼと森の中、横にはお地蔵さん。

「おはよう!お地蔵さん!」

そう、ぼくがあいさつしたのに、
お地蔵さんは石になって話さなくなった。

ぼくがまたおなかを鳴らしていると、
遠くから女の人が歩いてきた。
そして、
ぼくを気にしながら、田んぼに入り、
お仕事をはじめた。

お日様がぼくの頭の上に来た頃、
女の人が仕事を止めて、
おむすびを出した。

「坊やも食べるかい?」

「・・・うん!(嬉)」

ぼくは、
全部で4つあったおむすびを3つ食べた。

女の人は残りのおむすび1つを半分にして、
お地蔵さんにお供えした。

「半分じゃあ、おなか空かないの?」

「空くけど大丈夫!
夜食べればいいんだから。(笑)」

ぼくは、
おむすびのお礼に田んぼのお仕事を手伝った。

いつもぼくは、
お母さんの畑仕事をお手伝いしていたから、
田んぼのお仕事もすぐに出来た。

夕方になると、
女の人がぼくを連れて家に帰った。

(ぼくの心の声)
「お地蔵さんが話していた新しいお母さんは
この人だ!」

そして、
ぼくはこの新しいお母さんのお家で
何不自由なく育てられた。

家族みんなが、
ぼくを可愛がってくれた。

新しい育てのお母さんが、
お地蔵さんが言う病気になった頃、
ぼくは、お医者さんになっていた。
すぐにお母さんを治療して、
病気を治すことが出来た。

でも、
また再発、また再発と、
何度も繰り返し、
とうとうお母さんは帰らぬ人になった。

ぼくは、
育てのお母さんと最初に会った、
そしてぼくが捨てられたあの田んぼと森の中へ、
育てのお母さんが亡くなったと
お地蔵さんに伝えに行くために、
やって来た。

すると、以前と違って、
新しい家がお地蔵を囲むように
たくさん並んでいた。

お地蔵さんはいつもの場所に、
いつもの石の姿で昔と変わらずいた。

「お地蔵さん。
お地蔵が話していた通りになりました。
お地蔵さんと話した翌日、
新しいお母さんができました。
でも、そのお母さんは、
ぼくが何度、治療しても、
結局助かりませんでした。
最期は少し苦しそうだったのが
とても可哀想で申し訳なかったと思っています。」

「そんなことはないぞ!
お前はちゃんと努力したじゃないか!
立派だったぞ!(笑)」

「おっ!おっ!おっ地蔵さん!」

「お前は相変わらず、変な声を出すな~(笑)
そんなに驚くことか?」

「いや~、突然話すから(笑)」

「お前!この時間を忘れたのか?
もう夕方だぞ!」

「そうですね!」

「お前、最近じゃあ、夕方になると、
音楽が流れるから、便利じゃな~(笑)」

「それを便利って言うんですかね(苦笑)」

「坊や?」

「はっ!?お母さん?」

「坊や!ここだよ!」

「お母さん!どうしてここに?」

「お地蔵さんがここに連れてきてくれたのよ!」

「お前に会わせてやりたかったんだ!
お前、さっき話しただろう、お母さんの最期が
苦しそうだったと。」

「坊や!あの時、
お母さんには意識はなかったのよ!
あの苦しい自分の姿をお地蔵さんと
一緒に見ていたのよ!
だからね、そんなに後悔しないでね!
お母さん苦しいことなんか
1つもなかったんだからね!
坊やがお母さんを何度も助けてくれた。
立派なお医者さんになってくれた。
それがとても嬉しかったし、
私の誇りよ!」

「お母さん!(涙)」

「それでな、お前に会わせたい人が、
もう一人居(お)るんだが・・・」

「はい・・・(考)」

「お前さん!
そんなに隠れていないで出ておいで!(笑)」

「はい・・・(涙)」

「お母さん?」

「ごめんなさい!(涙)」

「どうしてここに?」

「お前の産みのお母さんはな、
お前と別れたすぐあとに、
亡くなったんだよ!」

「どうしてですか?」

ぼくを捨てた産みのお母さんは、
ずっと泣いていて話が出来なかった。
変わりにお地蔵さんが教えてくれた。

「産みのお母さんはな、
新しい旦那さんと結婚したのだが、
仕事も忙しい、その上、
旦那さんの家族の世話もしてな。
うまく仕事や世話が出来ないと、
旦那さんがお母さんに暴力をふるってな。
ある日、頭に大きなケガをしてしまって、
それが元で亡くなってしまったんだよ!
お前の産みのお母さんはな、
お前を捨てた事をずっと後悔していた。
毎日お前に謝っていたんだぞ!」

「そうですか。あの~お母さん!
その額の傷は?」

産みのお母さんは、
額の傷は隠すが、
ぼくがお母さんの傷を見るために
顔を押さえるとおとなしくなった。

「この傷ですか?」

「うん(涙)」

「痛かったでしょう?」

「いいえ、お前の心の傷に比べたら痛くないよ!
これもお母さんがした罰なんだと思うのよ。(涙)」

「お母さん!
ぼくはお母さんを恨んではいません。
あなたがぼくを生んでくれた。
そして、事情があったにせよ、
あのお地蔵の所に置いてくれた。
そのお陰で、
ぼくは新しいお母さんに出会えたんです。
だから、お母さん!
ご自身を責めるのはもう止めてください!
ぼく、お母さんの笑顔がとっても好きでしたよ!
だからいつも、ぼく、ふざけていたでしょう?
お母さんはどんな事をしても、
1つも怒らず、全部笑ってくれた。
それが、ぼく、嬉しかったんですよ!
お母さん!さぁもう泣かないで、
笑ってくれませんか?
ぼくの好きなあなたの笑顔を
もう一度見せてくれませんか?」

そう話すと、
産みのお母さんは安心した様子になり、
額の傷も消えてしまった。
身なりも綺麗な着物に変わりに、
ぼくの知るいつもお母さんの笑顔になっていた。

ぼくは、
おむすびを3つお供えすると、
お地蔵さんと2人のお母さんに見送られ、
その場所をあとにした。

翌朝、
ぼくの妻がおむすびを3つ、
お弁当に入れてくれた。
産みのお母さんが好きだったおかかと、
育てのお母さんが好きだった鮭と、
お地蔵さんが好きだったごま塩を。


(制作日 2021.10.3(日))
※この物語はフィクションです。

今日は、
1991年10月10日発売
CHAGE&ASKAアルバム『TREE』
に収録されている曲『tomorrow』を選んでみました。

この曲を参考にしたのではなく、
今日はお話が先に思い付いたので、
それにしても合う曲を選んでみました。

どんな苦しい今でも、
明日に成れば良いことがあるようにと、
そんな思いです。

でも、『tomorrow』という曲は、
失恋を感じさせる歌詞もあるので、
今日のお話には合わないかもしれませんが、
「明日」というキーワードで、
この曲にしました。

私自身がお気に入りの曲です。(笑)。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

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参考にした曲
CHAGE&ASKA
『tomorrow』
作詞作曲 ASKA
編曲 佐藤準
☆収録アルバム
CHAGE&ASKA
『TREE』
(1991.10.10発売)

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