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【超ショートショート】(253)~冷たい雨に流される恋の傘~☆CHAGE&ASKA『流恋情歌』☆

失恋ならしたことがある。
失恋しかしていない気もする。

だから、
成就からの失恋なんてものは
知らない、わからない。

そう話していた一人の少女が、
初めて高校2年生の時、
恋人ができた。

少女は恋に夢を抱いていたが、
恋人は同じ高校2年生の男子。
少女が抱いた恋の夢は、
いつまでたっても叶えられずにいた。

「あのね!手、つなぎたい!ダメ?」
「えーと、それはちょっと・・・」
「やっぱりダメ?」
「うん」
「何で?」
「ほら、人が見てるから」
「見られたらダメなの?」
「そりゃあ、恥ずかしいっていうか・・・」
「恥ずかしいって何が?私が?」
「いや~、そうじゃないけど、そうかも・・・」
「もういい!一人で帰る!」

これが少女の恋人との最初のケンカ。
少女は、恋人の態度が許せなかった。
やっぱり自分は嫌われているのか?
恋人に無理をさせているのか?
私たちは本当に付き合っているのだろうか?

付き合って、まだ3ヶ月。
最初の恋人なんて、
たいてい3ヶ月続けばいいくらいなもの。

だが少女にとっては
一生分の恋をしているつもりでいた。

最初のケンカから、
少し距離ができた少女と恋人。
久しぶりに恋人がデートしたいと誘ってきた。

「この前のこと謝りたいんだ!ごめん」

少女はこの謝罪に、
心が反応しないことに気づいた。

「あのさ、手、つなご」

差し出された恋人の手を少女は見つめた。
そして、
沸き上がる今の思いを話してしまう。

「私たち、もう別れよう!」
「えっ?何で?今、謝ったじゃんか!」
「今頃謝られても・・・」
「何だよ!それ」

二人はしばらく沈黙し、

「やっぱり別れよう」
「何で?他に好きな人でも?」
「違う。他に好きな人はいないわ。ただ・・・」
「ただ?」
「今差し出されたあなたの手を見て思ったの。
好きじゃないかもって」
「俺のこと?」
「うん」
「でも好きだって告白したのはそっちだろう」
「うん、そうだけど・・・」
「そうだけど?」
「恋人としではなかったみたい」
「恋人じゃなかったら?」
「友だち?同級生?かな?」
「本当に別れるのか?」
「うん!」

こうして二人は別れた。

少女は初めての恋人との失恋に
もっと悲しくなるのかと思っていた。
でも実際にはホッとしている自分がいることを
この時初めて気づいた。

「恋なんていくらでもあるから!
だってまだ高校生ですもの!」

少女の心の声とは裏腹に、
大人になった少女は仕事に追われ、
恋どころではなかった。

雨の降る29歳の誕生日の夜。
傘を忘れた大人になった少女。
職場から駅まで傘もささずに、
走っていると、
横断歩道の信号が赤になってしまう。

そんな待たされている間、
雨は激しく少女を濡らした。

信号が青に変わると走り始めた少女の
目の前に立ちはだかる人影。

「もし良かったら、この傘を・・・」

少女は差し出された傘に守られ、
雨で見えなかった人影を、
顔をゆっくりと上げ見た。

「へっ?!」
「いや~、久しぶり!」

目の前の人影は、
手をつないでくれなかった最初の恋人だった。

「どっ!どうして?」
「君がずっと気づかないんたよ」
「気づかないって?」
「僕らこの横断歩道で毎日すれ違っていたこと」
「へぇ?」
「ハッハッハ、こんな濡れてウケるな(笑)」
「うるさい!ほら信号変わるわ!」

このあと二人は、
高校生の時と同じように、
お互いが住む同じ駅で下車。
かつての恋人の彼が、
ずぶ濡れの大人になった少女に
コートをかけた。
駅を降りるとあの激しい雨は降り止んで、
夜空にはお月様が現れていた。
その月明かりの下を、
二人は冷たい雨に流された失恋の思い出に、
笑いを一つ互いにしてみた。

それから、
ふたりは見つめ合うと確信する。
互いの心に流れる新しい恋のときめきを。

彼が無言で差し出した手に、
ようやく少女が手をつないだ。

この時ふたりの上空を、
国際線の旅客機が、
祝福のスモークを残した

そんなことにも気づかないふたり、
月明かりに照らされたふたりのシルエットは、
隙間なく一つになっていた。

今日の予報に、
雨が降るなんて、
誰も言っていなかった。

(制作日 2022.2.21(月))
※この物語はフィクションです。

1980年2月25日発売 シングル
CHAGE&ASKA『流恋情歌』
「るれんじょうか」と読みます。
まもなく発売から「42周年」になります。

今日のお話は、
この曲を参考に失恋から新しい恋へ
それも同じ人?!
というお話を書いてみました。

歌詞にもあります
「この先恋なんて いくらでもあるから」

意外にそんなことないって
大人になると思うものかもしれません。

そんな人は、
恋はしても本当の恋はできないんじゃないか?

心からの恋なんて、
一生に一人かもしれませんね。

それくらい人を愛せた、
どんな結末になっても、
成就からの失恋でも、
心が通えただけしあわせなのかもしれません。

って、本当にそうなのかは、
私にもわかりませんが(笑)

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

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参考にした曲
CHAGE&ASKA
『流恋情歌』
作詞作曲 ASKA 編曲 瀬尾一三
(1980.2.25発売 シングル)

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