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【超ショートショート】(111)~愛しい君の願い事~☆KAN『Moon』(歌 ASKA)☆

札幌にあった東京病院。
なぜ札幌なのに「東京」と名付けたのか?
それは、
この病院の創設者夫婦にヒントがあった。

東京病院を創設した浅野夫婦。
夫は医者で病院の院長の浅野忠夫(ただお)
妻は専業主婦の小雪。

病院を創設してから2年後、
妻、小雪に病気が見つかる。
忠夫が大きな病院に付き添い検査をすると、
脳腫瘍が見つかった。

手術は?

という話になったが、
多くの医者が不可能と診断。
その理由は、
脳幹部にあり、
手術中に大量の出血が予想されるほか、
神経を傷つけるとして、
手術を可能と診断する医者は、
夫の浅野以外にはいなかった。

浅野は無理を承知で、
手術することを決めた。

妻の小雪は夫の浅野を信じた。

そんなある日、
妻が看護婦に連れられ、
病院の庭をお散歩中、
浅野が小雪の書いていた日記を
たまたま見てしまった。

そこには、
自宅の間取りがあり、
どこに何が入っているか?
例えば体温計なら、
リビングのチェストの右から2番目の、
上から1番目の引き出しに入っているとか。

それから、
掃除について。
例えばトイレ掃除はせめて1週間に1回とか、
でも、毎日簡単に床だけでも拭いておくと楽よ、
とか。

洗濯も洗濯機の使い方から、
洗濯の干し方、畳み方、
どの引き出しに何をしまうのか?
とか。

最後には、こう書いてあった。
~~~~~
忠夫さんへ

もしあなたがこれを読んでいるならば、
私はもう口もきけない寝たきりかもしれませんね。
大変なご迷惑をかけて、
あなたの妻として申し訳ありません。
もし、延命などなさるようでしたら、
それはお止めください。
私はあなたの苦しみになりたくないのです。
私の事を気にせず、
健康な方を再びお嫁にもらってください。
それが東京病院のためですから。

忠夫さん。
長い間、私のような者を妻にして頂き、
本当にありがとうございました。
私はいつまでも忠夫さんを愛しています。
お許しくださいね。
浅野小雪
~~~~~~

浅野は日記を読み終えると、
両手で顔を拭(ぬぐ)った。

それから手術までの1週間、
浅野と小雪は、
まるで恋人の頃に戻ったように、
仲良くした。

何年ぶりかの浅野からのキスに、
小雪は赤ら顔をして、
とても嬉しそうに笑って見せた。
おまけに嬉し涙をこぼしながら。

浅野は小雪が寝付くまで
手をつなぐことが日課だった。
でも、手術が近づく頃には、
朝まで小雪の手をつなぎ続けた。

家にも帰らず三日三晩、
それを続けた朝、
浅野が小雪の寝顔を見つめながら、
泣いていた。
この時小雪は起きていた。
ただ浅野の涙の意味を受け入れるように、
寝た振りを続けた。

男だって、夫だって、医者だって、
弱気になることもあるのだと、
小雪は、ちょっとだけ笑った。
「可愛い男(ひと)」だと。

手術前日、
手術についての説明を浅野と他の医者とで
小雪に話した。

そのとき、
「もしかしたら?」という他の医者の話に、
浅野が小雪の様子の変化を見て、
他の医者を怒ってしまった。

「何でそんな事を言うのかね!」と。

だが小雪は微笑みながら、

「あなたを信じています。
すべて浅野先生にお任せします。」

そう話した。

小雪の手術は無事に終わったのだが、
術後の回復が思うようにはいかなかった。

なぜだろうと、
どの医者も口を揃えるのだが、
原因は見つからなかった。

そして、
手術からの3年後、
小雪は天国へと旅立った。

この札幌にありながら、
なぜ東京病院となったのかは、
小雪の願いであったから。

浅野は札幌出身。
小雪は東京出身。

小雪はどうしても浅野に見せたいという
東京の風景があった。

それは、1958年に東京タワーが登場した、
その東京タワーから見る中秋の名月を
一緒に見たいということだった。

小雪はその願いを叶えるために、
病院の名前を決めるときに、
「東京」と言って譲らなかった。

なぜ小雪はそんなに
東京タワーと中秋の名月にこだわったのか?

それは小雪の父親に原因があった。
小雪の父親は天文学者。
星についてのおとぎ話をたくさん知っていた。
小雪は幼い頃の読み聞かせの代わりに、
父親の星のおとぎ話を聞いていた。

そのお話の中に、
「中秋の名月」があった。
父親の話によれば、
ただの中秋の名月ではなく、
「中秋の名月」と「満月」が大切なんだと
聞いていた。

父親の話はこうだった。

「秋に浮かぶ満月が、
もし中秋の名月ならば、
こう祈りなさい!
〈愛する人に会わせてください〉と。
もし愛する人と見れたならば、
こう祈りなさい!
〈この愛が永遠になりますように〉と。
そうすれば二人は月の神様に守られ、
幸せになれる。」

小雪は幼い頃、
満月の中秋の名月に祈っていた。
だから小雪は、
浅野と一緒に中秋の名月を見たかったのだ。

では、なぜ東京タワー?

その理由は簡単だ!
東京タワーに登って見たかったのだ。
小雪は自分のふるさとの景色を
高い所から見てみたかったのだ。
小雪が札幌に来たのは1958年、
東京タワー開業の少し前。

東京病院の創設のために忙しくして、
夫婦で旅行など、
新婚旅行の登別温泉くらい。

だから、
いつか夫婦でふるさと東京へ行きたかったのだ。

小雪が亡くなるその1ヶ月の間に、
東京旅行の予定があった。
だが出発の3日前に、
小雪が高熱を出し倒れ、
そのまま東京病院に入院。
結局、小雪はその年の中秋の名月の日に、
亡くなった。

小雪が亡くなってから数年、
中秋の名月がやって来た。
その年は何年ぶりの満月だという。

浅野はひとり、
小雪の写真と
ほんのわずかな小雪の遺骨を入れた瓶を持ち、
遠路はるばる東京タワーまでやって来た。

その夜は、
月明かりが街の街灯になるほど、
夜空は快晴だった。

そして浅野は、
小雪に言われたように、
中秋の名月の満月に向かって、
こう祈った。

「小雪が元気でいますように!
小雪と僕の愛は永遠になりますように!
また来世、小雪と一緒になれますように!
だから小雪、僕はもう誰とも結婚したりしないよ!
心配しないでね!」

浅野は100歳の天寿を全うするまで、
独身をつらぬいた。

そう言えば、
2021年の中秋の名月は満月。
今頃浅野は小雪と天国で、
満月の中秋の名月を見ながら、
再びの恋の季節を楽しんでいるのか?

ふと見上げた東京タワーが、
その疑問に答えるように、
ウィンクの短さに似たライトアップが
一瞬消灯。

満月の中秋の名月の月明かりに浮かんだ、
遠くのカップルが浅野夫婦に見えたのは、
気のせいだったのだろうか?


(制作日 2021.9.22(水))
※この物語はフィクションです。

今日は、
2010年9月22日発売
KANさんのライブDVD
『ルックスだけでひっぱって』

発売から11年ですね。

実は、このライブDVDの中に、
当時飛び降りゲストだった
ASKAさんが収録されています。

その映像には3曲披露しています。
ASKA&KAN『予定どおりに偶然に』
ASKA『晴天を誉めるなら夕暮れを待て』
そして、最後に、
KAN作詞作曲、歌ASKA『Moon』

この『Moon』は、
ASKAさんの曲を研究し、
ASKAさんが歌う想定で作られたと言われています。
実際聴いてもらうと、
ASKAさんの歌のように、
錯覚するほどの名曲。

今日のお話は、
その『Moon』を参考に書いてみました。
この『Moon』の歌詞をどっちに解釈するかで、
いろんな設定が出来そうですが、
今日は、きのうの中秋の名月を受けて、
また歌詞の最後にある、
~~~~~
想い出の月の下で
~~~~~
に向かって書いてみました。

とても素敵な曲ですので、
ぜひどこかで聴いてみてください!


(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

~~~~~~

参考にした曲
KAN
『Moon』
作詞作曲 KAN
☆収録アルバム
『TOKYO MAN』
(1993.2.25発売)
☆収録 ライブDVD
KAN
『ルックスだけでひっぱって』
(2010.9.22発売)
※ASKAさん飛び降りゲスト出演した日の
ライブ映像を収録。
そしてKANさんの『Moon』を
ASKAさんが歌っています。

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