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【超ショートショート】(119)~ときどき父娘(おやこ)~☆Chage『トウキョータワー』☆

私は、父に会うために東京にやって来た。

両親は、もう私が小さい時に離婚。
父は東京、
私と母は母の実家の北海道とバラバラに暮らしている。

今日父に会うのは半年ぶり。

いつもの待ち合わせ場所の羽田空港。
到着ロビーで父は待っている。

毎回そうなるんだけど、
親子でありながら、
一緒に生活していないから、
どこかで他人。
だから、よそよそしい再会のシーンとなる。

「おっ!元気だったか?」

「うっ、うん(苦笑)」

そして、
お決まりのコース。

父の家に変えるまでに、
ランチを空港のレストランで食べる。

いつも同じレストラン?

ではなく、父はこう見えてグルメ。
だから、毎回事前調査をして、
星3つ以上の評判の店で食事をする。

そして、帰りの電車でこう自慢げに話すの。

「いや~我ながら良い店をまた発掘したな!
なっ?そう思わないか?(笑)」

私はいつものこととして、
適当に相づちをうつ。

父の家の最寄り駅に着くと、
スーパーで夕食の買い出し。
父は一人の毎日では、
あまり自炊しないらしいが、
料理の腕には自信があった。

だから、私が東京に来る夕食は、
いつも気合いたっぷりのごちそうメニューになる。

さっき、あんなにランチを食べたばかりなのにね。

夕食後、
ふたりの距離がやっと親子の距離に戻った頃、
明日の予定を話し合う。

「明日は東京タワーに行かないか?」

「どうして?」

「お父さん、
まだ一度も登ったことがないんだよ!」

「そうなんだ。」

「それに、
明日は階段から登っていい日みたいなんだ!
お散歩ついでに一緒に登ってみないか?」

「うん、わかった!いいよ!」

すると父は、新品のスニーカーを準備。
娘に内緒で同じスニーカーを買っていた。

「ダメか?」という表情をする父。
娘に向けられた視線は、
「一緒に履いてくれ!」と察し、
仕方なく履くことを無言で了承。

翌朝、
お揃いのスニーカーで出かける父は、
とっても上機嫌!
いつになく写真を取り放題だった。

ふたりで東京タワーの階段を登ると、
時々気持ちの良い秋風が吹いてくる。

すると父がこんな話をした。

「お前が生まれる前な、父さんと母さんは、
ここ東京タワーの下で出会ったんだ。
それで、すぐお前が出来て結婚した。
でも、俺の不甲斐ない生活が嫌になってな、
母さんが。それで出ていってしまった。
まだお前が1歳の頃だったな。
お前に寂しい思いさせてごめんな。」

「うん。」

東京タワーの展望フロアーに到着すると、
より父ははしゃいで記念撮影の嵐。

秋の涼しくなる夕方、
スーパーの帰りに、
父がくしゃみをした。

「お父さん、風邪ひいたんじゃないの?
たくさん汗かいていたからね。」

その夜、父はやっぱり風邪をひいた。
翌日は病院に連れていき、
はじめてのお粥作りに挑戦。

「味がないな!塩とか入れたか?(笑)」

「入れたよ!まずいなら食べないで!(怒)」

「ハッハッハ!食べるよ!
娘の初めての手料理だからな!(笑)」

翌日、父の風邪も快方に向かう中、
私は北海道に帰る日になった。

「一人で大丈夫?」

「大丈夫!大丈夫!(笑)」

「本当に?(疑)」

「本当に!(苦笑)」

出発カウンターで荷物を預け、
そのまま出発ゲートの列に並んだ。

「今度は半年後か?」

「でも、冬休みがあるよ!」

「そうだな、どこか行くか?」

「うん、でも無理しなくていいよ!」

「何がだよ!」

「そんなお金使わなくていいから。」

「そんなに使ってないよ!
何、心配してるんだよ!(笑)」

「だって・・・」

「だってなんだよ?」

「お父さん、ちゃんとごはん食べてる?
いつもスーパーの割引弁当やお惣菜じゃあ、
栄養が偏るよ!揚げ物ばっかり。」

「何で知ってるんだよ!」

「ゴミ箱見たらわかるでしょう!」

「そうか。
この前の会社の健康診断でも言われたよ!
医者に、〈もっと野菜を食べてください〉って。」

「どこが悪いの?」

「いや~ちょっと~」

「ハッキリ言ってよ!(怒)」

「コレステロールと血圧がな・・・」

「もう~(怒)」

「まだ治療する一方手前って言ってたから、
今ちゃんとしたら大丈夫だよ!
父さんはな。だからそんなに心配するな!な?」

「もう・・・(涙)」

父の身体の心配と、
もう離ればなれになる寂しさから、
やっぱりいつも泣いてしまう私。

出発ゲートの列から離れ、
父の元に戻る。

そして、いつもの別れの儀式。
近くのベンチに座り、
私の涙が落ち着くまで背中をさすり、
苦笑いしながら、
私の顔をのぞく父。
飛行機の出発が迫る頃、
ふたりで「ここ!」と決めたように、
ベンチから立ち上がり、
出発ゲートの前に来る。
そして、無言でどちからでもなくバグをする。
時間が許すまでバグをしたあと、
また無言のまま父が私の頭を撫で、
無言のまま私の背中を押して見送る。

なぜ無言かは、
一言でも話したら、
お互いに離れられなくなると知っているから。

私たちは、
ふつうの家族や親子ではないけど、
毎日会えない分、
父との想い出は、
何よりも憶えているし、
大切な想い出。

あと何回、大人になるまで会えるのだろうか?

それまで父には元気でいてもらわないと困る?

たぶん困ると思っている私。

この日の帰りの飛行機で、
父が私のバッグにこっそり隠して入れていた
東京タワーでのたくさんの写真。

特に父がお気に入りの一枚の裏面に
こう書いてある。

~~~~~
今回も会えて嬉しかったよ!
身体に気をつけて、
また冬休みに会おうな!

父さん、北海道でスキーしたいんだが、
行っちゃダメか?

母さんと相談しておいてくれな。

家に着いたら、
必ず電話してな!

それじゃあ、またな。

父より
~~~~~


(制作日 2021.9.30(木))
※この物語はフィクションです。

今日は、
1998年9月30日発売
Chage『トウキョータワー』
発売から今日で「23周年」になります。

今日のお話は、
その『トウキョータワー』を参考にしていますが、
設定を恋人ではなく、
親子にしてみました。
いろんな事情を抱えた恋人もいるように、
いろんな事情を抱えた親子も
世の中にはたくさんいるものです。
そんな設定で書いてみました。

 (ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

~~~~~~

参考にした曲
Chage
『トウキョータワー』
作詞作曲 Chage 
編曲 十川知司
(1998.9.30発売)

YouTube
【Chage Official Channel】
『トウキョータワー』Music Video
https://m.youtube.com/watch?v=bh3RULp4eG4

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