藤壺の困惑
『源氏物語』の中で一番好きな女性は、藤壺である。なぜなら、とんでもなく理不尽な目に遭わされていながら、その状況に対して、きちんと対応し、自分の気持ちを律し、自立し強く生きていくから。
義理の息子とは言え、光源氏と幾つも変わらず、共に美しい2人。源氏のような男性に慕われ、心惹かれないはずがない。でも、帝の寵妃。自分で身動き取れない立場にありながら、源氏に犯され、源氏の子を身籠ってしまう。どれほどの苦悩か?しかも、子どもが生まれたら、帝は、源氏に似ている、美しいものは似通っているのかもしれない、などと呑気なことを言ってるし、源氏は源氏で、こんな子が生まれるのだから、私は私をもっと大事にしなければならない、などととぼけたことを言っている。
絶対に周りに知られてはならない秘密を抱え、彼女を強くさせたのは、我が子冷泉帝と、愛する源氏を守りたい一心だった。どれほどの緊張と、どれほどの張り詰めた思いをもち続けたことだろう?しかも源氏は、隙あらば関係をもとうとする。
源氏を愛する気持ちと、拒絶しなければならない葛藤。おっとりとした皇女が、そんな葛藤の中で、強くなっていく。
私は、藤壺が好き。そして、やはり、『源氏物語』の中で、源氏との関係性において、一番しあわせだったのは、藤壺だと思う。なぜなら、たくさんの女性のなかで、実際に関係をもった、という点では、ほかの女性ほどではないにせよ、愛する男性の子どもを産み、そして、誰より愛されていたという自信も実感もあると思うから。
私は、実らせない恋が好き。わざと実らせない。藤壺は、桐壺院が亡くなった後、すぐに出家しなくてもよかった。おそらくは、ほかの誰か、つまりは源氏とだって、男女の仲になることもありえたかもしれない。でも、我が子冷泉帝が、源氏の子だと知られてはならないが故に、出家する。源氏は、出家した女性には、手を出さないから。でも、実らせないからこその、二人で冷泉帝を守っていこうという絆がある。誰より心がつながっていて、誰より愛しあってるという誇りがあったと思う。
ちょっと逃げてる感もあるかもしれないけれど、私は、実らせない恋が好き。美しいまま封印して、でも完結しないから、逆に想いはいつまでももち続けるような。
ほかの人は知らない。どうであるかはわからない。でも、私は、実らない恋、むしろ、わざと実らせない恋が素敵に思える。
藤壺の凛として譲らない美しさ。でも、源氏の想いも、全く受け止めていないわけでもない。そういう意味で気高く、自立した、男性の意のままにはならない、藤壺に、つい憧れてしまう。
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