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⑧お山座りの犯行『人生を掛けた抵抗』

学校に行くと

お腹が痛くなった。

朝礼が終わると

保健室に行く。

1時間目寝て、

2時間目教室に行って

途中でまた

保健室に行く。

母が迎えに来て帰る。

次の日は休む。

朝は頭が痛い。

熱はない。

でも仕事を抜けると

迷惑がかかるから

休ませる。

小学生で

貧血と

心雑音があった。

母が、

腹痛や頭痛の事を

病院で話した。

ストレス。ノイローゼ。


母は、電話で

誰かに話していた。

障子を隔てた隣の部屋で

「娘がノイローゼなのよ。どうしたらいいのか。もう分からなくなったわ…」

私はノイローゼなのか。

小学6年生。

保健室に行くと、

木の絵を描いて

と先生に言われた。


窓から見える

桜の木を描いた。


兄が就職をして

家を出て

姉が兄の

一人部屋に移った。

もう

しりとりをする相手は

いない。

母は、夜仕事に出る。

私は

内線で

父に呼ばれ

茶の間の片付けの手伝いをする。

片付くまでの間

お酒を作ってこいと言われる。

私は

いつも

お酒の中に

漂白剤を

入れていた。

11歳の犯罪。

酔った父を

階段から落とす

計画もたてた。

それは未遂に終わった。

でも、

真剣に

タイミングを

見計らった事もある。

漂白剤は

泡立たないし

お酒を

沢山入れて

梅干しと

麦茶で割る。

匂いは

分からない。

そもそも

酔ってるから

何でも飲む。


高校生になった姉は、

こっそり抜け出して

夜遊びをするようになった。

私は協力者。

トイレに行くふりをして、

一緒に

足音を揃えて

階段を降りる。

立て付けの悪いトイレの戸を

ガタガタとわざと鳴らして

玄関のドアの音を消す。

朝は帰らず

高校に行く。


ある日、

姉が

行方不明になり

捜索届を出した。

一週間後

隣の県で

発見された。


妊娠していた。


安定期に入っていた。

16歳で妊娠し、17歳で産んだ。

12歳で叔母さんになった。

とても可愛い甥っ子が出来た。


姉には

考えがあった。

身篭る前から。

物心着いた時から

普通じゃない環境にいた

子供達。

もうとっくに壊れていたのに

父に従って

続けて来た家族。

グチャグチャに

壊れればいいと

思っていた。

誰も傷付けない

壊し方で、

姉は

高校生の自分を

犠牲にしたのだ。


命を授かる事は、

それ程の事だと

高校生の子供が

判断したのだ。


命の尊さを

理解していた。

だから、

自分の子供を

産む事で

守るべきものを

手に入れたのだ。

生きなければいけない。

姉の腕には

沢山の傷があった。

リストカット。

根性焼き。

家にいる期間

妊娠していても

分からないくらい

痩せてもいた。


姉がした

父への

最大限の

精一杯の

初めての

抵抗。


やり方が合っていたかは

分からない。

でも、

姉には

感謝してもしきれない。


私にとっても

守るべきものが

出来たから。


この子の成長が楽しみで

この子に恥じない

生き方を

しようと思えるから。


私も

生きようと

思えるから。






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