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第五十四話 やりがいのある仕事

『○○ー△△△△ー□□□□』先輩のベルを鳴らす。こういう時は固定電話あって便利だと感じる瞬間である。電話が鳴る。「はい、もしもし」「どうしたの、飲みの誘いか」と先輩が言う、「飲みにも行きたいんですけど先輩仕事辞めてこっち来ませんか」「なんだよいきなり」「給料も倍くらいもらえますし皆素人なんでやりやすいですよ」「そんなに給料良いの?」「日給15からで仕事覚えれば上がっていくみたいですよ」「いいね!今月で今の工場辞めるわ」「ほんとですか」「ホントホント来月からそっち行くよ」「ありがとうございます」「そうと決まったら少し飲みに行きますか」「いいね」そんなやり取りをして電話を切った。

着替えて待ち合わせ場所に向かう。駐車場に止まっている車に乗り込む。「草もコカインもほどほどにしましょうね」「俺はもともと程ほどだったよ」そうなのだ。先輩はもともと月に1~2回草をやるくらいで、私と出会ってからやる量も変わってきてしまったのだ。軽くマリファナを吸って居酒屋へ行く。夜も12時には解散した。

「おはようございます」「おはよー」「俺の知り合いが来月から来たいって言ってるんですけど良いですか?」「おぉー大歓迎だよ」「使えそうな子なの」「前の会社の先輩で動きは良いんで大丈夫だと思います」「そっかー仕事早く覚えてもらってそっちで一班作ってもらえると助かるなー」「頑張ります」班が増えれば仕事も多く取れるということなのだろう。

私の仕事は順調だった。床敷き、外壁の建て込みと暇さえあれば図面を読んで収まりを頭に叩き込む。2週間程度で流れと収まりは完璧に覚えられた。上手く収まらない部分の調整や補修作業も覚えた。「小さい現場なら二人でも出来るからその新しい子が使えるようだったら二班体制にしよう」「親方でやってみなよ」と笑いながら社長が言った。「そうすれば給料も上げてあげられるし」「ホントですか」「ホントだよ」

職人の世界は完全に実力主義であった。それが私には心地よかった。頑張る意味があるしモチベーションも上がるからだった。そのままの勢いで私は1ヵ月頑張った。仕事の要領もつかんできた。楽しみの給料日、手渡しで渡される封筒の中には35万入っていた。嬉しかった。やりがいのある仕事で金を稼げたことが嬉しかったし、自分を必要としてくれている場所で働けているのが嬉しかった。

『○○ー△△△△ー□□□□』家に帰るとすぐ先輩のポケベルを鳴らした。折り返しの電話がかかってくる。「辞めれたんですか」「辞めたよー明日からそっち行くよ」「車で行きますか」「二人で車で行こうか」「とりあえず飲みに行こうぜ」そんな会話をした。電話を切った後社長に電話をかけ明日から予定通り一人入ることを伝えた。車で行くことも伝えたがしばらくは一緒に行こうという事になった。先輩が私を迎えに来て、二人で社長の駐車場まで行きそこで車を乗り換えてワゴン車に全員で乗って現場まで向かう事にした。待ち合わせをして軽くマリファナをキメて居酒屋に行く。「明日が初日だから飲み過ぎないようにしましょうね」「そうだね、今日はほどほどにしよう」その日は飲みながら仕事の講習会のような感じになっていた。

朝になって待ち合わせの時間に外に出ると先輩はもう来ていた。車に乗り込み社長の駐車場に向かう。「おはようございます」「よろしくお願いします」と先輩が挨拶すると「おはよー期待してるから頑張ってね」と返してくれた。現場に着いて基本的な説明からしていくと先輩も飲み込みが早く、やる内容は大体理解したようだ。床を敷き始めるととても息が合ってスムーズな作業だった。それを見ていた社長も「息が合ってるね」「床敷きはお前たちのコンビにはかなわないな」等と言った。「これなら二班にして床敷きだけの仕事も取れるな」社長は考えながら言った。

積水の低層の2階建て住宅は床材はALCを使っているのだ。壁材はサイディング材なので私たちがやることはないが床敷きだけの仕事は取れるのだと言う。「やらせてください」私と先輩は言った。先輩も覚えれば給料も上がるからやる気が出ている。

一週間ほど経ったころ「明日床敷き入ったから行ってくれる」と社長から言われた。「はい行きます」かぶせ気味に答えた。仕事が終わり駐車場に着くと先輩の車に必要な道具類を載せ替え、社長の家に行って図面と地図を受け取った。「自分たちの班だから頑張ろうぜ」先輩と私はお互いに言った。

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