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生活のルールをみんなで作る

教育者だけで考えたルールは飽くまで草案

ヒロックでは、開校前に有識者を招聘して、スクール憲法を作るプロジェクトを行いました。
その中で生まれたのが「ヒロック宣言」です。
とはいえ、開校前の段階では飽くまで「草案」。
メンバーが決定し、学校が始まってから子どもたちや保護者とみんなで正式決定したいという思いからです。
これまでの経緯はこちら。

保護者とは開校前にヴィジョンの共有ができましたが、一番大事な子どもたちとは開校後にすり合わせる必要がありました。
難解な言葉や概念をかみ砕きながら、それでも本質は共有したい。
誰かに押し付けられた決まりではなく、「それって大切だよね」とみんなが思えるような共通了解。
開校翌日から、1条ずつ丁寧に語り合う時間をとってきました。
教科の枠はSEL、世界と自己を知る大切な学びです。

1.(場の定義)HILLOCKはコゥ・ラーナーそれぞれの福利を未来に向けて拡張し続けるための場である。

ヒロック宣言のいきさつに簡単に触れたうえで、早速第1条の話をしました。
HILLOCKとはなんのための場か。ヒロック宣言の中でも最も大切な条項です。
今回は「福利」をひとまず「しあわせ」と言い換え、
「みんなは今しあわせ?」
と問いかけてみました。ほとんどの子が幸せだと答えます。
「じゃあ、なんでしあわせって感じるの?」
すると、家族がいるからしあわせ、お金があるからしあわせ、健康だからしあわせ、好きなことできるからしあわせ、知識があるからしあわせなど、コゥ・ラーナーたちは予想以上に多くのしあわせを教えてくれました。

「この中で、同じって思うものもあれば、私はこれはいらないって思うものもあると思うんだよね」
と話すと、うんうんと反応あり。
幸せの感じ方は人それぞれ違うことに触れました。その上で、
「じゃあそのしあわせって、これからもずっと続くのかな?」
と聞くと、みんな「うーん…」と考えこんじゃいました。
今は、いろんな人たちが自分のことをしあわせにしてくれている。
でも、これから先も自分のために居続けてくれるとは限らない。
今のしあわせはもちろん大事。
でも、だんだんしあわせがなくなっていくんじゃつらいよね。
しあわせを感じられる力ーそれは心だったり、コミュニケーションだったり、お金だったり、知識だったりするかもしれない。
どんなところにいても、自分で自分をしあわせにできる力をつけていってほしい、そんな場がヒロックだよと話しました。
そして、昨日より今日、今日より明日。
「しあわせになる力がついてきてるな、しあわせの幅が広がってきたな」と思える毎日を送っていこうね。
そんな話をしました。
毎日の帰りのサークルタイムでも、
「今日は昨日よりしあわせになる力はついた?」
と聞いて、瞑想しながら一日を振り返るようにしています。

2.(個の定義)シェルパ、コゥ・ラーナーはそれぞれかけがえのない個人として対等であり、公正に扱われる。

「みんなは『ずるい!』って感じたことある?」
子どもたちの日常から話を始めました。
子どもたちからは以下のような意見が。

その上で、TEENSさんのこちらの画像を使って「公正」についてみんなで考えました。

みんな一緒にすればいいわけじゃなく、それぞれが必要なだけの助けを受けられていること。
必要ないのに欲張らないこと。
開校から数日ですが、ヒロックでの場面にも触れながら、一人一人がよく考えていました。
午後に砧公園で、ある子が「え、それズル…」と、言いかけてとどまっているシーンも。笑。
押し付けられるルールではなく、必要な約束をみんなで学びながら決めているからこそ、生活に生きてくるのかもしれませんね。

3.(関わりの定義①)シェルパ、コゥ・ラーナーは1・2を実現するためにそれぞれ自由を与え合い、高めあい、ともにつくりあう。

まずは自由についての印象を話し合いました。
「うれしいこと!」と思う反面、「よくないこと」「我慢すべきもの」ととらえている印象もありました。
きっとこれまでの生活の中で、注意を受けたり、全体に合わせるように言われてきたんだと思います。
今回の肝は「与えあう」という部分。
自由を与えるって、どういうことだろう?
一つは、自由は誰かに許可されるものではなく、作れるということ。
みんなが協力すれば、楽しい時間やできることも増えていくよね。
そしてそれは、我慢とはちょっと違うということ。
みんなにはそれぞれ大切にしたい「自由」があって、嫌なことは伝えあいながら、譲り合うことで「我慢」が「自由を与える」って広い心をもてたらいいよねという話になりました。
私たちが大切にしている4Cの一つ、Contribution(貢献)もここで説明。
子どもたちからは「こないだのCaringとつながっているね」と言っていました。その通り!

4.(関わりの定義②)シェルパ、コゥ・ラーナーは1・2を実現するためにそれぞれケアし合い、少数の声なき声を大切にし、居心地の良い関わりをともにつくりあう。

みんなは、嫌って言えない時ある?
子どもたちは、これまでの経験から「相手が年上」「はずかしい」「えんりょして」など、いろいろなことを教えてくれました。
「え、おれはだいじょうぶ!」
人によって、言えちゃう人も言えない人もいるよね。
そんなときに、みんなが我慢しないで言えるスクールを作りたい。
だから言える人がCaringを発揮して、言えない人の気持ちを考えて、代弁してあげる。
それが「声なき声を大切に」するってことなんだよと話しました。
自分と違う誰かの気持ちを考えることが、自分の力も高めてくれる。
助けたいと思える存在が、自分を成長させてくれるんですね。

5.(民主的学びの定義)シェルパ、コゥ・ラーナーは立場や人数、前例や常識のみにとらわれず、民主的な意思決定と判断、表現をする権利を持ち、そのために必要な物事を学ぶ権利をもつ。

みんなは何かを決めなきゃいけない時、どういう風に決めてきた?
「人数の多い方!」これは学校ではほとんどそうなんでしょう。
「誰かが決めちゃう」…偉い人だったり、声の大きい人だったり、おもしろい人だったり。
でもこれって、民主的かっていうとそんなことなくて。
ヒロックでは、民主的な感覚を学び取ってほしいと願っています。
そこで提案したのが「どうしても制度」!

一通り説明したうえで、どんな問題点がありそうか予想してもらいました。
「わがままな人がなんでも決めちゃいそう!」
「ゆずりすぎても、逆に決まらないんじゃない?」
このあたりの回答については、上記のリンクのように回答。
「それでも、言えない人がいそう…」
うんうん、これは昨日やった「声なき声」だよね!
ちゃんと考えて、つなげて考えられている。
自分たちのことだからこそ、真剣に考えて話し合えるんだよね。
「紙に書いてもらえばいけるんじゃない!?」
早速具体的な解決方法も提案されました。
どうしても制度、めでたく採用が決定。これから様々な場面で登場し、みんなで自由を考え合っていけるんだろうなぁ。

6.(自己調整の定義)シェルパ、コゥ・ラーナーは自身についての理解を深めつつ、学習の方法と内容を試行錯誤し、挑戦する権利をもつ。

みんなは苦手なことや得意なことってある?
そう聞くと、もう関係もかなり出来上がってきたので、どの子も安心して自己開示してくれました。
誰からも馬鹿にされない。誰からも否定されない。
そんな安心安全の場が、すでに出来上がってきているんだなぁ。
みんなそれぞれ違って、苦手の中には「いや」とか「弱い」とかが混ざってそうとか。
得意だったことが苦手になることもあるよね、とか。
それは人と比べちゃったり、無理しちゃったりしてるときかも、とか。
「わたしはまっすぐな線を引くのが苦手、だけど定規をつかえば大丈夫!」
なるほど、道具を使って工夫すれば克服できるものもあるんだね。
ここで3つ目のC、Creativityを紹介!
すごいものを作るという意味じゃなくて、工夫するとか初めてのことに挑戦するのがCreativityだよって話しました。
誰かにとっての当たり前も、誰かにとってはCreativity。
そんな視点をもった人に成長していってほしいと願いを込めて。
さらに、どうやってうまくなったかと質問しました。
「いっぱい練習した!」
「教えてもらった!」
この辺りがやっぱり多い。
でもそれ以外の戦略をもてた方が、福利は拡張できそう。さっきの定規を使った子みたいにね。
「知識をつける!」…おお、なるほど。知ることって、可能性だねぇ。
「いっぱい失敗したらできた」…うんうん、失敗って苦手な人多いけど。
失敗の数は、挑戦した数なんだよね。勇気とチャレンジ、Creativity!
「わからない」…そうだよね、いつの間にかできちゃうことってあるはず。
それを少しずつ分析することで、自分がより分かってくるよ。
なにより「わからない」って素直に言える子と、それを受け止められる仲間が素晴らしいなぁ!

7.(参加と選択の定義)シェルパ、コゥ・ラーナーは自身についての理解をもとに、活動への参加の有無や程度を自ら調整し、選択する権利をもつ。

8.(調整と対話の定義)シェルパはコゥ・ラーナーの心身の保護と成長のために必要なことを調整することがある。コゥ・ラーナーはその調整に対して説明を求める権利、話し合う権利をもつ。

9.(担い手の定義)1〜8の定義に立ち返りながら、学校文化を具体化していく担い手はHILLOCKで暮らす私たちであり、私たちがこの定義そのものを刷新していく担い手でもある。

最後は3条一気に紹介。
みんな全員違うのは、これまでも見てきたよね。そうそう。
だから、参加するかどうか、どれくらいやってみるかは自分で決めるもの。
でも、ヒロックは幸せになる力を高め合う場。
挑戦できそうなら、どんどんチャレンジしてほしいと願っていることをみんなに伝えました。
子どもたちの「成長したい!」というまっすぐな目が印象的。
そのために必要だとシェルパが感じたら、促すこともあれば禁止することだってある。
特に心と体の安全や成長については、シェルパの「どうしても」。
その上で、納得いかなかったら説明を求めたり、話し合ったりする権利はみんなにもしっかりあるからね。
「それはぼくたちの『どうしても』だね!」
言葉をすぐに取り込んで自分のものにできている発言!
そして最後に。
これまで見てきた9条を具体化していくのはここにいるみんなで、さらに新しいものにも変えていく可能性のあるものだよ、と締めくくりました。
子どもたちからは、
「憲法ってそういうものだったんだー!」
「学校のきまりってなんであんなに必要なんだろうね?」
そんな話題で盛り上がりました。

そして、5月6日。
子どもたちと保護者の承認を経て、晴れてヒロック宣言が制定されました。
ヒロック宣言記念日です。
そしてこの日はファウンダー、タクさんの誕生日!
毎年年度初めに、新たなメンバーとこの宣言をアップデートしながら、ヒロック宣言記念日をお祝いしていこうと思っています。

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