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9月HILLOCK ART LAB

______________________________________________________________◎今日のきっかけはじゃんけんぽん

◎出来事があること、その連座が"面白い"に作用する

◎ルーブゴールドバーグという漫画家とルーブゴールドバーグマシーン

◎ピタゴラスイッチ!

◎ペーター・フィッシュリ、ダヴィッド・ヴァイスによる”事の次第”の作品(部分)を鑑賞

◎自分達の頭と心と身体をつかってつくり出す

◎うまくいかないから面白い工夫するから面白い(失敗を面白がる)

◎次回も絶対のリクエストをうけて

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ヒロックへと向かう角を曲がる。ヒロックのビルの前に小さなひとたち。ランチを砧公園でとるかれらが、校舎に帰ってきたところに遭遇した。

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◎今日のきっかけはじゃんけんぽん

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ミロとゆにおの姿をとらえたY君が

「わー!ミロさんだー!ねぇじゃんけんしよう!」と大きな声と笑顔と一緒にグーをこちらに向ける。


「最初はグーね!じゃんけんぽんっ!」

ミロの負け。

もういっかい、じゃんけんぽんっ!じゃんけんぽんっ!

ミロがY君に勝った5回目、Y君が


「ミロさんの勝ちだよ!階段上がっていいんだよー」と笑顔。


HILLOCKの教室への階段を上がる順番をじゃんけんで決めていたのだと理解する。

それから、Y君が4回自分が勝っているのにミロが勝つまで勝負を続けて、ミロを先に上がらせようとしてくれる。

優しさに溢れていることも合わせて理解する。


「優しくて楽しい」じゃんけんに賦活されて、階段を上がりながら、今日のプロジェクトの導入のヴィジョンが見えてくる。その素敵なきかっけが小さいひとからプレゼントされていることに感謝する。


教室に輪になって座る。


「ねぇ〜校舎に上がる時に階段の下でじゃんけんするのはどうゆうところからなの?」と問いを投げる。


「順番決めるんだよ!」「そうそう!勝った人から階段上がれるの!」と間髪あけずに声が返ってくる。

「階段を上がる順番をじゃんけんで決めるのはどうゆうところからなの?」

「だって、みんなが一斉に上がると、上で詰まっちゃうの!どうせ入れないで待つから、下でじゃんけんするの」

「なるほど。そうなんだね。じゃんけんすると、どんなことが起きるの?」

「上で詰まらないの。玄関広くないから、靴脱ぐとこで詰まっちゃうの。それが詰まらなくなるの」

「なるほど、詰まらなくなるのか。それをじゃんけんで決めるのはどういうところからなの?」

「じゃんけんするのは楽しいからだよ!」

「なるほど、そうなんだね。他には?」

「じゃんけんだと順番が決められる」

「なるほど。機能的なのか。他にもある?」

「じゃんけん、負けても別に嫌じゃないから」

「なるほど。嫌じゃないんだね」


少し問いを変える。


「じゃんけんするのは、階段上がる順番を決めるための手段で、そのことが楽しくて、負けても嫌じゃないんだね。じゃんけんするっていう事が、みんなにどんな事を起こすのかなぁ?」

「えー。楽しいじゃん!ただ待ってるのつまんない」

「なるほど。つまんないが、楽しいに変わるってことかな?」

「そう!それに負けても嫌じゃないよ」

「嫌じゃないってさっきも言ってくれてたひといたね。嫌じゃないっていうのは、どういう感じなのかな」

「じゃんけん面白い。勝つことは別に大事じゃない。そうやって待ってた方が面白いじゃん」

「なろほど。面白いんだね。方がいい?方がいいっていうのは、何かと比べてじゃんけんする方がいいっていうことかな?」

「そう!ただ待ってても順番決まらないし、ただ待ってるより楽しい」

「そう!ただ待つのは暇」

「それに、勝つと嬉しい。でも負けても楽しいよ!」


「じゃんけんは、何もしないの対局(ジェスチャーを交えて)のこっち側に置かれて、楽しいとか面白いとかっていう感じをみんなの中につくる出来事なんだね。そうだなぁアート的にいうと『装置』っていうことかな。そういう理解でよさそう?」と確認する。


「そうそう!」などと返ってくる。

小さいひとひとは、つまらないを楽しいに変える装置を考えてつくり出す。何にもなさそうなささやかな日常を一気に豊かにする「装置」を即座につくりだす。鶴見俊輔さんの「限界芸術」の実践がここにある。そのことだけで、もう十分じゃないかと思うけれど、今日のラボはここから。


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◎出来事があること、その連座が"面白い"に作用する

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何もしないで待つことはつまらない。しかしそこに「出来事」を起こす、その出来事が次の出来事に作用して次々と「出来事」が起きていく。それを私たちの脳は「面白い」と感じる。

機械化され思考停止した状態で進む当たり前のルーチン。無駄で面倒で馬鹿馬鹿しい「出来事」の連鎖を風刺する「装置」を提案した人物がいる。ルーブゴールドバーグ。アメリカの漫画家。


「例えばね、ボールあるでしょー。これをね、ただ転がす(真っ直ぐ転がしてみる)んでもいいんだよね。ただ待ってるだけでもいいの。でもさ、みんながジャンケンっていう「出来事」をつくったみたいに、(椅子を使って障害をつくる)こうやって「出来事」をつくって転がすと・・・」

ポンっと跳ねたボールが、Mさんの頭にポンっと当たって跳ねて、さらに床に跳ねた。

どっと笑いが起こる。


「うん。今、みんなが笑ったのは何か起きていたのかな?」


「えーだって、面白い!ぽんってなって、こうなってこうなって〜」とボールの軌跡を身体で表現してくれながら笑顔。


「うん。そうなんだよね。出来事が連続して起きてくることって、わたしたちに「面白い」っていう感情をつくるんだよねー。他にもこういうの知ってる?」

ピンポン玉の転がる先に、いくつかの障害(出来事)を用意して、ピンポン玉を転がす。


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◎ピタゴラスイッチ!

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「ピタゴラでしょ!」「ピタゴラスイッチ!」「好き!作りたい!」「ピタゴラ!」

大きな声が飛び交う。

「ねぇ〜今日、ピタゴラでしょ!僕つくりたい」


もうみんなつくりたくてうずうずしている。


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◎ルーブゴールドバーグという漫画家とルーブゴールドバーグマシーン

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「そうそう!日本だとピタゴラスイッチっていう呼び方で知られているんだけどね。アートの分野だとピタゴラスイッチは「ルーブゴールドバーグ装置」っていうんだ。ルーブゴールドバーグっていうのは人の名前。漫画家。ゴールドバーグさんは漫画を描いていて、漫画っていろんな出来事が次々連鎖して起こるから面白いんじゃね?って気がついて、そのことについて研究して発表してくれたんだよね!」


「あ!!!だからワンピーにもゴールドバーグって出てくるのかな?それ知ってるのかな?」

「ピタゴラスは三平方の定理でしょ」

などと、お話がとまらない。

飛び交う言葉の中に、多々のヒントが散りばめられていて、ひとつひとつ拾いたい気持ちもありながら、クラスをすすめる。


つくりたくてはやる気持ちを抑えてもらいながら、ルーブゴールドバーグマシンの名作と言われる「アート作品」の例として、現代アート作品をひとつみんなで鑑賞。つくり手となるのも大事だけれど、同じくらい鑑賞者になることも大事という思いがある。アートを鑑賞することを自由に楽しめる術を携えてもらいたいという願いから、鑑賞の時間を設けている。


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◎ペーター・フィッシュリ、ダヴィッド・ヴァイスによる”事の次第”の作品(部分)を鑑賞

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そして、いざ、制作。もうみんなつくりたくてうずうず。

「アイデア(IDEA)見えてる?」と聞くと

あるあるー!見えてる!と返ってくる。

それぞれの心身の中にはどうやらIDEAが実在する。しかし他者はそれを見ることができない。

それを見せてもらいたくて、「そしたら、今、みんなの中に見えてるアイデア、スケッチブックに描いてもらっていいかな」

とお願いする。


それぞれに発表する。近しいアイデアもある。どうやってつくろうか。個人でつくろうか、グループでつくろうか。相談する。


結果、グループで取り組むひと、個人で取り組むひと、それぞれに「自分で決めて」制作がスタートした。

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◎自分達の頭と心と身体をつかってつくり出す

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それぞれに分かれたグループを見ていた蓑さんが、「こうやってアイデアで分かれるのも面白いですね。いつもと違うグループ構成になって、こういうのも面白い」と伝えにきてくれた。

いつもと違うひとと組むことで、いつもと違う脳の分野か活動するかもしれない。それが彼らに何をもたらすのか。


チームのひとも、個人のひとも、うまくいったりいかなかったり。

大抵はうまくいかない。時々うまく(思い通りに、時には思いがけず)いって歓声が上がる。


「ミロさん見て見て!ビデオ撮って!うまくいった!」と言うので、ビデオを撮る。と・・・全くうまくいかない。

何度も何度も繰り返す。

それでうまくいった時には歓声と一緒にジャンプが生まれる。ポジティブなエネルギーは重力に反比例する動きをつくる。


方や、さっきまでうまくいっていたのに、ボールの動きで装置がずれてしまった。地団駄を踏むひと。あー!!!っと叫んでいる。悔しさが全身に満ちていることが伝わる。うずくまって床を叩く。感情をおさえることなく表出するひと。

感情(パトス)は、皆が持っているものなのに、それをコントロールすることは難しい。

分別がついてくると、ある程度、感情というものは抑えコントロールすることが好ましいとされる私たちのこの社会において、感情を露わに表出する小さいひとを見ていると、むしろ清々しくて瑞々しさを感じる。


壁際で拳をグッと握りしめてじっと固くなって動かずに床を見つめているひとに「さっき、コロコロって転がってたね!ゆにお、それ見てたよ〜」と、クルー(ミロアートラボでは創造航海に寄り添う大人のことをこう呼んでいます)のゆにおちゃんが声をかけると、顔を上げて彼女をじっと見て、それから奥の別の部屋へと出ていった。涙はとまっていた。


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◎うまくいかないから面白い工夫するから面白い(失敗を面白がる)

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あっという間にお仕舞いの時間。

「え〜!全然まだできてない!」

「ここだけしかできてない!」

「材料が足りない!」

「もっとやりたい!ここ(装置の部分を指差して)もうちょっとでうまくいきそう!」

という声が四方八方を飛び交う。


「ねぇ、次のアートも続きやりたい!」とひとりが言うと、ほぼ全員が満場一致でそれに賛成した。


それで、今日やったことと、次回までに用意してもらいたい材料をそれぞれに発表して、今日のアートを締めくくることに。


「失敗したところ、もっと工夫したい」

「ここがうまくいかなかったから次回はここをやる」

と、もうすでに未来を見ているひとたち。


さっき、お部屋を出ていった彼も、発表の時には戻ってきて、みんなの発表を聞いていた。

そして

「これ、来月までとっといて」と伝えてくれた。


「うん、また実験しよう」と返すと、「うん」と大きく頷いた。


うまくいって笑うあなたも、うまくいかなさへの悔しさを十全に露わにするあなたも、ひとしくあなた。


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◎次回も絶対のリクエストをうけて

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次回も絶対ルーブゴールドバーグと決まって、9月のヒロックを後にした。

また来月も楽しみです!



https://photos.app.goo.gl/fFXoxPdnaWVE2Miu5


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