大学の長いオンライン期間を抜けると卒業であった。

履歴書が白くなった。

本当にそうなりそうだ。川端康成もびっくりだろう。一年の春休みを最後に大学に通う事はなく、そしてオンライン授業が始まり、僕は無収入無単位になり、そして20歳になった。

ついでに、スマホ中毒が加速した。最近、人の話が聞きとれないときは無意識にスマホの音量ボタンを押してしまうし、もし街頭インタビューで
「あなたにとって家とは何ですか?」と聞かれたら今の僕ははっきり

「スマホを充電するデカい箱です」と答えると思う。

さて、そんなスマホを充電するデカい箱こと某アパート205号室の1階にある自分の部屋から僕は全然出ず、基本なにもせず暮らしているのだ。

スマホ中毒、というかネット中毒が加速するのも当然だ。本を読んだりするときもあるけど、基本的にはインターネットをやっている。
Twitterを開き、Youtubeを確認し、Youtubeに欲しい動画が無ければ哩(ビリビリ)動画を確認する。(2chまとめサイトは、20歳の誕生日に10年代への決別の意を込めスマホのお気に入りから泣く泣く消した。)

哔哩哔哩動画というのは、要するに中国のニコニコ動画みたいなもので、ここに延々とアクセスしているおかげで僕は中華圏オタク用語に造詣が深くなった。官遍同死(公式が最大手)、周指活(来週のアニメを観るまで死ぬな)、粉切黒(ピンク髪のキャラクターは腹黒)。

さて、そんな家里蹲……もとい引きこもりの僕だが、先日インターンを始めた……それはまぁいいや、もうすぐリモートワークに切り替わるし。

とにかく僕はネットばかりやっていた。20歳ともなれば企業してるやつなんかもざらにいるのである。社長である。タイムラインにも回ってくる。学生企業などどうせサークルノリで始めてサークルノリで崩壊するのだ。崩壊しろ!
幸い僕にも仲間がいっぱい集まるはずなのだ。占い師がそう言ったのだから間違いない。こないだ金をとられて延々自分語りをしてきた高名占い師・原宿の母もそう言ってくれたし、Twitterで仲良くなった四柱推命が出来る人もそう言っていた。20代から30代まで、異様に周りに人が集まるそうだ。やった!

しかし20代に入ったものの、その気配はない。それどころか去年唯一わりかし遊んでいた人も恋人が出来てなんとなく誘いにくくなってしまった。僕にそういう兆しは無い。家から出ないのだから当然だ。それに占い師も「仲間は多いが恋人はいない」と言っていた。恋愛の運気が来たのは2013年と2017年らしい。未来は!?未来に希望はないのである。占いは常に正しい。

最近僕と交流しようという奴といえば、常に喧嘩腰の二浪生だけだ。突然僕に電話をしてきて、世のしきたり、社会常識、両親、過去の同級生、教師、はてはバーチャルユーチューバー、そしてそのファンへの怒りを語ってくる。怒りすぎだ。昔から受験期になると僕のところには妙な奴が来る。僕が現役だったちょうど今ごろもそうだった。

すべてが終わり、家でぼーっとしていた僕(当時18歳)のところに突如、近所に住む男・カミキ(仮名)が突然やってきた。カミキは中学時代の同級生だ。突然家にやってきたカミキは両手に大量の袋を下げていた。そして僕の家のリビングでその中身を次々と取り出し、綺麗に並べていった。

僕「全部ラブライブのグッズじゃないか」

カミキ「そこのローソンの一番くじを全て買い占めた。ほら、これがラストワンだ……ところで、今からカラオケに行かないか」

僕「別にいいけど、お前受験は済んだのか」

カミキ「明日が早稲田の本番なんだ」

カミキ「だから、カラオケに行きたいんだ」

読んでいる人もそうだろうが、僕は「だから」の意味がわからなかった。こいつ何を言っているんだ……と思いつつ理由を聞くと、一言カミキは言った。

カミキ「お前には前田敦子になって欲しいんだ」

前田敦子。選抜総選挙。そして僕。僕に前田敦子になって欲しいカミキ。
その後も「カラオケ」「本番前日」「前田敦子」「早稲田」「大島優子」と関連性の不明瞭な単語を繰り返すカミキに僕は質問を繰り返し、ようやく主張の大枠を理解した。曰く、こういうことらしい。

カミキ「かつてAKB48において前田に次ぐ2番手とされていた大島優子。そんな彼女がAKB48選抜総選挙にて10万8837票を獲得し、華々しく1位を獲得した年があった。今から7年前の2012年、第4回総選挙のことである。
そして彼女はその総選挙前日、前田敦子ら数人のメンバーとひたすらカラオケを楽しんだのだという。だから、」

カミキ「俺とカラオケに行こう」


僕「しかし、総選挙当日ってのは結果を待つだけなんだし、それに従うなら合格発表前日にカラオケに行くべきなんじゃ……」

カミキ「いやいいんだ。前日にカラオケをするのが大事なんだ」

違う、と思ったがカミキは真剣だった。その眼はどこか狂気を孕んでいた。
よく考えると常日頃から狂気を孕んでいた気もするが、それはともかくその眼は有無を言わさぬ圧を放射し……僕はもはや何も聞くまい、何も問うまいと自分に言い聞かせ、そして20分後、カラオケボックスにいた。
何を歌ったか。それは書くまでもないだろう。

…………アイタカッタ~♪アイタカッタ~♪

そんな思い出も今では懐かしい。あぁそういえばカミキは僕のnoteを以前全部読んだらしい。ありがとう。勝手に書いてごめん。許してくれるはずだ。

お互いもう20歳、良い大人である。しかし良い大人なのにこんなに何もしないでどうしよう。ゼロだ。いやゼロどころかマイナスばかり溜まっていくのである。
僕には資格も免許も無い。大学生らしくアカデミックな営みに勤しむこともないので単位も無ければ、大学生らしく盛んなコミュニケーションを育んだわけでもないので恋人も特にいない。
ここまでがゼロだ。
運動もしないのでなんだか太ってきた。そして対人能力と外出する気力が落ちている。最近病院に電話をかけ、予約まで取ったが家を出るのが面倒で結局どの病院も行かなかった。
はぁ、これがマイナスである。

これをなんとか持ち直すにはプラスなことが必要だ……なにか新しい発見をしたり、生産的な思考にふけっただろうか。

最近、発見した事。

「トイプードル飼う人って自分のペットの動画撮ってSNSとかによくあげてそうだよな……確かに「動物映像100連発!」みたいな番組でもやたらトイプードルって出てくるしな……」

最近、思考した事。

「米のトランプ支持者は「貧困層は不当に優遇され、まじめに努力してる私たちは不当に虐げられてる!」という考えの中流層が多いらしい。コロナ禍において感染者の危機管理能力を問題視し「私たちはこんな我慢してるのに……」と考えがちという例から考えても、日本の中流層と発想が似ているのではないか、トランプ現象は他人事ではないのである」

まったく生産的ではない。トイプードル好きがどんな人間だろうと、トランプ旋風が巻き起ころうと、僕に出来ることはほぼ無いからである。
そもそも僕は、この文字の入力すら右手一本でやっているのだ。二本ならもっと早く打てる。しかしそれも億劫だ。生産性のかけらもないじゃないか!
そんな人間には何も出来ない……あぁ片手を使うのも面倒になってきた。
今音声入力している。ちゃんと打ち込まれるよう、ゆっくりはっきり喋ると眠くなってくる。ダメだ、もうnoteすら書けない……。

いや。思い出した!僕は自動車免許も、あらゆる資格も、まともな職歴も無いし、履歴書には「英検三級」と書くべきか迷っているが、そんな僕も今、なんと一つスキルを獲得しているのだ!それは

「アイプチで二重を作る」

という技術である。無収入、無単位、無交流、無資格の学生がなぜ突然己の瞼の皺を捏造し出したのか、それを説明するには数ヶ月時を遡らなければならない。

さて、遡ったところで状況は現在(2月初旬)と変わらない。昼夜逆転、無収入、以下無無無だ。当時の僕は両親に対する申し訳なさを抱えていた。
一人息子が授業も受けずに学費を食い潰し、しかし通常の食事は摂らず、夜中に家から這い出してドン・キホーテなどで68円のカップ麺を買っている。

そんなことが露見するのは時間の問題であり、また露見せずともその現状を僕は当事者として知っているのだから、申し訳なさを抱えるのも当然だ。ストレスで麺も進む。顎に肉がたまる。

ある日、親が動物番組を観ていた。動物番組といっても野生動物に密着してその生態系を学ぶような製作費のかかる番組ではない。
ネットにいくらでも転がっていそうな可愛い猫だの犬だのの動画を流す安い番組だ。
しかし、テレビに映っている動物たちにはずいぶん金がかかってそうだ。ワイプの芸能人が「可愛い〜」と言っている。
親も「可愛い〜」と言っている。猫は何もしない。猫は鳴いているだけだ。もはや現代の猫はネズミも取らない。ニートだ。中国語で言うと尼特。発音するとニーテェ゛ア。高くない金をかけられているにも関わらず、である。

………いや、実はそうではない。猫はネズミを取らない代わりの仕事をしているのだ。
「可愛い〜」つまり、癒しを提供している。Instagramなどが流行る前から、猫と人間の間では評価経済社会が成り立っていたのである。
猫は「可愛さ」を提供し人間はそれに金を払う。そこではきちんとした交換が為され、両者は対等となる。僕より偉いじゃないか!

金をかければかけるだけ可愛くなっていく猫を飼う飼い主はさぞ幸せだろう………僕の親も僕に金をこれでもかというほどかけている………食費、教育費、もちろん寝具や家具もただではない、おまけに僕は外出ないくせに風呂を浴び、人と喋らないくせに歯を磨く……。

僕も勉学に励み、バイト先で認められ、20年育てて良かったと思われたい……しかし、そう考えてそう出来ればこんな事にはなってはいないのだ……そうだ、僕も猫になれば良いのではないか……そうだ、僕も可愛くなろう……そして
「こいつは何もしないが、可愛いから良いか……」というプラスなのかマイナスなのかわからない評価を手にするのである……!この天才的アイデアがひらめいた時、思わず天を仰いだ!そのうえ、可愛くなれば世間も何か色々なことを容認してくれそうじゃないか。

近くに住んでいる人「え?あそこのお子さん仕事してないの?そう……でも可愛いからねぇ

高校の先生「あいつ今大学行ってないんだって?まぁ、可愛いし良いんじゃないか?

同級生「あいつ誰とも会おうとしないんだって……でも可愛いからなぁ

同級生2「まぁな!あれ……?でもなんで誰も会って無いのに可愛いってわかるんだ?」

同級生1「え、それはあいつがnoteに書いてたから……」

同級生2「じゃあわかんないじゃん!妄想かもよ!キモ!

同級生1「あのnoteも自意識丸出しでキモイしな~!」

……まずい!妄想は妄想でも被害妄想だ。しかし人間は2人いると例え妄想の中でも悪口を言い出すのだな。孤独であれ!孤独に部屋にこもれ!

そして手始めに、僕はアイプチを購入したのである。それではその成果を見てもらおう……。









ドン!

before


after


フリーメイソンか?それはともかくえらい違いじゃないか!

補導中の栄養失調児のようなbeforeに比べてafterの目の輝き!もう二重だの一重だのより目の輝きの差が気になってくる。それから僕は毎日アイプチを使い、そのスキルもどんどん研鑽されていった。
外に出る気も沸いてきた!素晴らしい気分だ。二重が出来るようになる……というか、だんだん積み重ねで上達していくのが目に見えてわかるのが楽しいのである。最早世間の目などどうでもいい!今はとにかく、一番綺麗な二重が作りたい……!精神的な健康にも繋がる。美容は福祉である。

ともかく、僕には何もないが二重まぶたなら作れる、ということだ。
ここから社会への快進撃が始まるのである!太陽は照っている、人は笑っている!もちろん僕を笑っているのではない!鳩も鳴いている!鳩?まぁいいや、とにかくひたすら内向きになった自己をどんどん開いていくのである。

かつて全共闘の時代を生き、自らの切実な葛藤や苦痛を書き綴った日記が死後に刊行され同世代からの圧倒的支持を得た女性・高野悦子(享年20)が、成人式の日に書いた一節にはこうある。

「独りであること、未熟であること、これが私の二十歳の原点である」

さて……じゃあ僕の「二十歳の原点」はどうあるべきだろうか?

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