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あだち充の名作クロスゲームの伏線というか布石

 クロスゲームはあだち充による長編野球漫画であり、全17巻、TVアニメ化もされたそれなりの人気作品です。
 にもかかわらずネットで語ってる場所を覗くと、みんな「青葉かわいい」って言って僕の好きなシーンへの言及がなかったので書こうと思います。
ちなみにTOKYOMXでアニメ再放送中です。

 さてこの漫画なんですが全体を通してみたときには他のあだち充の野球漫画も比べるとあんまり面白くないです(個人の感想)。恋愛面でも野球面でもライバルキャラに魅力がないからだとは思いますが。でも、ラブコメのカタルシスでは全作品の中でもトップです。それだけでも十分読む価値あります。

 こっから先はネタバレまくりなのでそれを許せる方のみお願いします。漫画版準拠。あと記事の中の画像は自分のしょぼいスキャナーで単行本をスキャンしたので粗いです。

1. 3年地方大会決勝でのホームラン

 3年夏甲子園へのきっぷを争う決勝戦、光たちの星秀学園は甲子園春夏2連覇の強豪である竜旺学園との試合に望みます。延長12回表、星秀学園の攻撃にて5番赤石の併殺打のあと、樹多村光はソロホームランを打ちます。その際、光は審判に月島バッティングセンターのコインを渡してから打席に立ち、幼い頃の月島家との回想が流れます。

 さて、このシーン。このメダルは一体なんなのか。答えは物語の始まり、第一話です。いつものように月島バッティングセンターに家の手伝いで荷物を届けに来た光はついでにバッティングセンターに入りコインを入れます。ですが、若葉にプールの送り迎えをたのまれバットは振らず出ていきます。
 ここ!!

 必要以上に強調されたただ飛んでくるボール。このシーンは「こんくらい速い球も平気で打てるんだぞ!」っていう小学生時代の光のバッティング能力を暗に示すシーンですが、同時に布石となっています。このシーンで光が打つはずだったホームランが先述のホームランになるんです。
 ホームランを打つ前の回想シーンのチョイス的にも確実だと思います。

 では、このシーンはなんのためのものなのか。それはあだち充しかわかりませんが一読者なりに考えると、光と青葉にとっての若葉とのけじめがついたということなんじゃないかなと考えました。若葉によって中断されていたものがここで復活したということは、比喩的に光と青葉の関係を示していて、光と青葉がくっつくことに対しての障害であった若葉との思い出(光と若葉が両思いであったこと)を二人が乗り越えたことを表現したんじゃないかなーと思います。
 あと、このあとのシーンで青葉が「打つと思ってたらほんとに打っちゃうんだもん…」 というセリフがあるんですけど、この根拠のない光への信頼は若葉が持っていたものと似てます。若葉のように光を信じられるようになったということなのかな?

2. 世界中で一番

今度は最終回のタイトルにもなったセリフ。最終回の一話前の第159回でも印象的な使われ方をしています。

第159話「知ってるよ」
 光、突然青葉を抱きしめる。青葉、光を平手打ちする。
青葉「あんたのことは大嫌いだって言ったでしょ!」
光「ああ、知ってるよ。たぶん、世界中で一番――」
 青葉、光の胸にもたれかかる。
青葉「ずっとずっと、大っ嫌いだったんだから!」
光「知ってるよ」
 青葉、泣き出す。

最終話「世界中で一番」(最終ページの一つ前)
 青葉のラスト独白
青葉「やっぱり嫌なやつだ。世界中で一番――、嫌なやつだ…」

さて、このセリフなのですが実は第一巻ですでに布石があります。それは第1話と第8話。第8話では若葉に最後にあった日の若葉の横顔を見ての光の独白。

 この「…たぶん。」で独白は途切れます。では何が続くのか。
クラス→学年→学校→…→世界中で一番、と続くでしょこれ!

 まあ正直これはただの言葉あそびかなーとも思いますが、これに気づいたとき僕はめちゃくちゃテンション上がりました。あのセリフにはこんな仕掛があったのか、と。
 強いて意味付けするとしたら幼い光の若葉への思いとおんなじ思いを光が青葉にも抱いているということでしょうか。

 いずれにしてもこのセリフは嫌いの形容詞にして光青葉の関係のひねくれた感じとか、多分と冒頭につくことで光と青葉の関係の不確定さを表したりとか個人的にかなり好きなセリフです。

3. 嘘ついてもいいか?

 先程も言及した3年夏の地方大会決勝戦、その日の早朝のことです。まだ他の皆が寝ている時間、合宿所のロビーで光と青葉は会い、光がフォームチェックしてくれと青葉に頼み、グラウンドに向かいます。その後の会話。

青葉「好きなんだよね、あかねさんのこと。」
光「ああ。」
青葉「ワカちゃんとどっちが?」
光「亡くなっちゃったやつとは比べられねえよ。」
青葉「じゃ、 わたしとは?」
光「嘘ついてもいいか?」
青葉「いいよ。」

ここでシーンは途切れ次のシーンではもう甲子園に向かうバスの中です。このあとの光の発言が明かされるのは決勝戦の一番最後。ラストバッター相手に光が三振を取るシーンです。

甲子園に行く! 160km出す! そして――

 わかりますか!? このセリフは試合前に言われたということが大事です。この試合、光は甲子園行きを決め、(明言はされていませんが)160kmの球を投げました。つまりですね、言った3つのことのうち2つを本当のこととすることで、3つ目の言葉も本当だと証明したんです! まどろっこしい! でも好き。

 さてこのセリフはもうちょっとポイントがあってですね、試合中青葉は光が160kmをみせてやると言っていたと発言します。つまり青葉は光のこの3つの発言が全て本当だと信じていたということです。青葉の「いいよ。」というセリフは嘘かホントかはわかるから嘘ついてもいいよってことだったんですね~。 本当にまどろっこしいですね。でもその直接言わない感じがあだち充の良さを象徴しています。

4. まとめ?

 ただシーンを羅列しただけな気がするのでまとめもクソもないですが、まとめます。クロスゲームを読んでるとあだち充はやっぱちゃんと考えて作ってるんだな―とも思います。まあめちゃくちゃ短編も面白いですから考えてお話を作れる人じゃないと短編は厳しいですよね。あだち充の短編集のショートプログラムというのがあるので気になる人は読んでみてください。個人的には2がおすすめです。あと「ラフ」! 読んでない人は読んでください。あだち充最高傑作です。

 できれb修正とか自分との解釈違いとかのコメントがほしいです。ぜひコメントしてください。

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