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占い師は「国家公務員」だった

占いの起源と移り変わり

世紀のロングセラー本が世に出された、推定年代を探っていくと紀元前5世紀の「孫氏」がもっとも古く、論語や易経がおさめられた「四書五経」(紀元前3世紀)がそれに続きます。

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紀元前11世紀に周王朝が建国されたときには、中国全土に800もの国々が群雄割拠して、血を血で洗う戦いが繰り返されていましたが、春秋時代を経て戦国時代(BC403~BC221)も終焉を迎えるころには、わずか一桁の7か国まで淘汰されました。

およそ900年も続いた熾烈なサバイバルゲームに勝ち残る、戦略戦術の書として「孫氏」が生まれ、戦乱で疲弊した戦国時代の終わりには、武力に変わって人徳で国を治める政治哲学を説いた、「四書五経」が尊ばれるようになりました。

1832年にプロセンの 軍人、クラウゼヴィッツが著した「戦争論」は、ナポレオン以後の近代戦争を、体系的に研究した名著とされています。しかし実際に世界の将軍たちが実戦的な教科書にしているのは、「孫氏の兵法」だといわれています。

四書五経のなかで「易経」が、最優先で採用されたわけ

儒家のバイブルでもあった四書五経のなかに、東洋占術のルーツでもある「易経」が、最優先で組み込まれているのは、殷王朝時代(BC17~BC11)から連綿と受け継がれてきた、陰陽五行説をベースにした中国古代の自然哲学、自然科学思想が、当時の中国の人たちの精神的支柱として、根付いていたことを物語っています。

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易とはトカゲを側面 ながめた象形文字です。十二時虫とも呼ばれていたトカゲは、カメレオンのような保護色で身を守り、1日に12回も体色を変えることから、周(あまねく)易(変化)を説く書という意味をもちます。

周易は当初、ひとの運勢を判断する言葉を集めた占いの書でしたが、後世になって周易が内包する、深遠な哲学や思想を解釈する理論構築が盛んになりました。現在でも多くのひとを束ねるリーダーの、仁徳をみがく帝王学として、政治家や財界人に読み継がれています。

太陰太陽暦と同時に渡来した占いの書

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未来を予言する占いの書、「奇門遁甲」が大陸から朝鮮半島を経て渡来したのは、西暦602年(推古天皇10年)のことです。この時に太陰太陽暦や天文、地理の書も献上されました。推古天皇は歴史上はじめての女性天皇ですが、聖徳太子を摂政にして海外から制度や文物を、積極的に導入しました。

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遁甲とは耳慣れないことばですが、広辞苑によると「人目を紛らわして体を隠す妖術・忍術」と記されています。天文や気象、地理に明るく、天変地異まで予測した作戦は、天地を自在にあやつる妖術と映ったのかも知れません。奇門遁甲の流れをくむ「九星気学」が、兵法と同等のレベルで論じられるのも、兵馬や戦塵にまみれて威力を実証した、歴史上の実績があるからこそです。

わが国に暦法が採用されたのも同じ年ですが、それから100年後に「古事記」が編纂され、その7年後に日本初の国史「日本書紀」が編まれたのです。占いが「陰陽道」(おんみょうどう)として、律令制度の中で法制化されたのも、古事記編纂と同時期でした。

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天皇の意志を表示する文書「詔勅」や、国史の監修をつかさどる「中務省」(なかつかさしょう)に、「陰陽寮」(おんみょうりょう)という部局が設けられました。現在の宮内庁に相当します。天文博士や暦博士が配属されて、後進の育成にも力が注がれました。占い師はれっきとした、国家公務員だったのです。

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陰陽道の達人として、ミステリアスな伝説に包まれた安倍晴明は、平安中期に天文を独占した、土御門家(つちみかどけ)の開祖で、陰陽師のエースとして実在した人物です。

「禍福は積み重ねの結果」

人生には災厄と幸せが、スパイラル状で組み込まれている様相を表して、「禍福はあざなえる縄のごとし」というコトワザがありますが、易経では「禍福は積み重ねの結果」と説かれています。

すべてのものごとは、自らが招き寄せた因果応報であって、原因や責任を他者に転嫁することは容認されていません。自助努力の心構えと行動がともなわなければ、運勢を拓くことなど叶わぬことが、次のように明記されています。

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ー 易経の占断は神の託宣(お告げ)ではない。易経に示される吉凶は、変えることのできない宿命として与えられるものではなく、従うべき法則を示すことによって、運命開拓の努力を促すものである。人間の努力を抜きにした運命などありえない。 ー

過去でも未来でもなく、現在の今を全力で生きた後に神命に託すことを、神道では「中今(なかいま)」と表現されていますが、自分に備わっている資質で勝負に挑み、足りないモノを補う努力をするのが、運勢を操縦する奥義とも言えます。


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