見出し画像

85.愛しき夏の「足長おじさん」

 暑くなってきました。カレンダーでは梅雨の頃だというのに、昼間、空を見上げると立派な入道雲。夕方からは、雷を伴った激しい雷雨と、夏本番のような天気が続いています。梅雨のジメジメした暑さより好きなのですが、さすがに今からこれだけの暑さだと、この先、体が耐えられるか心配です。

 暑くなってくると勝手に家に入ってくる者たちが多くなります。それは虫。田舎住まいなので、少々の虫が入ってくるのはやむをえないと思っているのですが、私以外の家族は虫がとても苦手。肉眼でやっと見えるような、なんの虫か分からない虫でも、家の中で飛んでいると大騒ぎです。

 その日も、会社から帰って家に入ると大騒ぎをしていました。玄関から部屋に通じる全てのドアが閉められています。どうやらこの空間に虫を閉じ込めているらしい。荷物を置いてスーツを脱いだら「すぐにやっつけてもらいたい」とのこと。疲れた体に鞭打って、再び玄関に。

 どこにいるのかと狭い玄関を眺めるとドアの上に特徴的な姿の虫がいました。「足長おじさん」です。珍しいと思うと同時に、少し嬉しくなりました。

 「足長おじさん」という通称で通じる人もいるでしょうか。この記事を書くために調べてみたら、正式にはガガンボというそうです。

夏の「足長おじさん」

 「足長おじさん」を見ると、この名前を教えてくれた祖母を思い出します。ずいぶん以前、自分が成人する前に亡くなっていますが、最後まで存命だった祖父母であるため印象深い。御盆の時期には毎年祖母の家で過ごすのが恒例となっていました。

 今、私が住んでいる地域も田舎ですが、祖母の家はそれよりもさらに田舎。近隣には小さな商店が一つあるだけで畑や田んぼ以外本当に何もありません。そのかわり、チョウやカブトムシなど子供に人気のある虫がたくさんいて、自由研究で昆虫採集もしました。

 そんな土地で、祖母から教えてもらった「足長おじさん」。祖母は「足長おじさんは蚊と違って刺さないからむやみに殺してはいけないよ。しばらくすると玄関から出ていくから。」と言いました。

 お盆の時期ということもあったかもしれませんが、「足長おじさん」以外の家に入ってきた虫も極力駆除せず、家の外に追い出していた祖母の姿。「足長おじさん」の名前と「むやみな殺生をしてはいけないよ」との言葉が、自分にはとても深く刻まれています。

 私の家の中にも、なんの虫か分からない小さな虫や蜘蛛などが入ってきますが、自分も極力殺さず捕まえて外に逃すようにしています。別に優しさとかではなく「なんとなく」。自分や家族に大きな害を与えたわけでもないし、ただ人間の家に迷い込んでしまっただけで悪気もない。可能な限りそっと捕まえて逃すようにしています。

 冒頭の「足長おじさん」も、しばらく観察していると低い位置まで降りてきたので、そっと捕まえました。そして、家の外に出て、家から少し離れた暗がりまで行き、そっとリリース(あまり家から近いと、光につられてまた我が家に入ってきてしまうので)。すると、闇夜にふわふわと消えていきました。

 御盆まではまだ日があるけれど、もしかしたら、あれはおばあちゃんの生まれ変わりかな?「足長おじさん」ではなく「足長おばさん」だったかな?などと、最後はくだらない冗談を一人思いながら、家に入りました。

 夏の入り口に出会えた、少し嬉しいひとときでした。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました♪

この記事が参加している募集

#夏の思い出

26,446件

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?