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彼女はただ泣きたかっただけ

長女について書こう。

彼女はもう間もなく、小学校を卒業する。
私にとって、初めての子ども。
最近は、イヤフォンで音楽ばかり聴いていて、机に向かう時間が多い。あいみょんとNiziuが好き。
髪を伸ばし出したのは、3年生くらいからだったか。今は肩あたりまでの豊かな黒髪を、ドライヤーとブラシで整え、結わえ、きっちりとピンを刺して後れ毛を留めている。
背は小さいけれど、ここ一年でぐっと伸びてきたところ。

彼女は、ちいさな頃から人を観察するのが好きで、電車に乗ると眺めるのは外の景色ではなく、中の人間模様に目をクルクルさせていた。
子どもたちが遊んでいる間、大人が立ち話していると、時々寄ってきて、大人の話を聞くのを好んだ。
幼稚園では泥だんごを作るのが彼女の日課で、じっと座って励んでいた。どこの土で、どの順番で作ると良い出来の泥だんごが作れるのかを熟知していた。

自分の世界を持つ彼女からいつも私が学ぶのは「忍耐」だった。
こちらの思うようにはいかない。遊ぶにも、散歩するにも、食べるにも、気持ちにスイッチが入るのをとにかく待っていた。
それしか出来なかったとも言えるけれど、第一子のその時は、待つ時間があった。

泣いてるときってどんな気持ちなの?
ある泣き終わりを散々待った後に、ふと聞いた。
「いい気持ち」
淡々としたその答え。先ほどまでの惨劇のような泣きわめきとのギャップに内心、驚愕した。
泣かれることは辛い、と思っていた。どうして泣くの。なんでわからないの。いつまで続くの。
その大人からの見方が、子どもにとってまったく見当違いだったことがわかった。
泣き終えたあと、妙にスッキリした娘の顔。すんなり進むものごと。
そうか、彼女はただ、泣きたかっただけなんだ。泣きたくて泣いている。
それでいいんだ。
その気づきは、私の子育てをとても楽にした。

小学校に入ってからも「弟の代わりに母を鬼連続ビンタ事件」とか「旅行先の別荘から裸足で雨の中、怒りの大脱走事件」とか、「母の友達にガチで喧嘩を売る事件」とか、彼女のハガネの意志とその発散により様々な波乱が起こっては収まっていったわけであるが、最近では、とても落ち着いているお嬢さんですね、とお褒めの言葉をいただき素知らぬ様子の彼女である。

私は今も、ただ待つ。
彼女が自分の道を見つけるのを。
あの頃、ただ泣きたくて泣く、永遠のような時間をともにしたから、私はいつまでも君を信じる。







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