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庄内の風と土と祈り 10月

「見える」ということは不思議なことである。

いま、この紙面を開き見つめているあなたの2つの眼玉が、あなたの視界を邪魔することは絶対にない。目玉が視界から姿を消してくれているからこそ、この夕焼けの写真を見ることができる。

自分の後頭部を直接に見ることはできないように「見える」ということが起こるには、「見えない視界の外側」があってはじめて可能となっているようなのだ。

視界が360度見渡せないからこそ、目の前の光景に注目することができる。 「見る」ということは、「これ以外を見ない」ということであり、「これ以外を見ない」ということが「見る」ということである。

私たちはつい眼に見えているもの、形あるものを重要視してしまうが、賢い先人たちは、目に見えるものの背後や、存在の外側にまで深い洞察を巡らせた。

それを誰かは「無」と言った。または「空(くう)」と言った。
「見える力」の背後には、非対称的に「見えなさの力」が深く大きく潜在している。 この胸に迫る夕焼けを、グッと見据える事ができるのは、表舞台に現れない世界の裏側にさりげなく支えてもらっているからなのだ。

今ここだけに与えられた限りある狭い視界。
その外側の遥かな広がりも含めて、世界を見つめ直してみると、目の前の風景がさらに奥ゆかしく、そして有り難く見えてくる。

今日もまた庄内の美しい風景が「見える」ことに感謝をしたい。

※こちらの文章は庄内の無料地域情報誌「BLOOM」2022年10月号に掲載されました。


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