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Design Futures / 未来設計 〜私たちが明日デザインすべきものとは?〜

日本では、一般的にデザインとは、主に「見た目」を指す言葉として使われますが、実際には「意匠」ではなく、「設計」を意味します。ここ数年、デザインは急速に進化してきました。単なる「意匠」ではなく、本来の意味である「設計」を重視する広義のデザインが広がってきました。さらに、デザインの概念が広がりを見せる中で、デザインは商品やサービスの価値を創造し、競争力を高める役割を果たしています。

デザイナーは今何をデザインすべきか?

現代は技術革新や社会の変化が速いため、未来を予測することが困難なVUCA(不確実性、不安定性、複雑性、曖昧性)の時代と呼ばれています。また、人類が地球上で支配的な存在となり、地球環境や生態系に与える影響が極めて大きい「人新世(アントロポセン)」と呼ばれる時代。さらに、人々が物質的な豊かさだけでなくウェルビーイングやマインドフルネスなど人間の幸福に関心が集まる時代。また、ネットワークで繋がり、社会全体の価値観や行動様式が急速に変化し、新たな文化やトレンドが形成され価値観が急速に変化する時代でもあります。

このように現代は複雑な社会変化の真っ只中にあります。
では、今の時代において、私たちは何を設計すべきなのでしょうか?

少なくとも、従来のような表層的な付加価値や広告としての機能や文脈だけではなく、より深いレベルで製品やサービスの役割を見直す必要があります。デザイナーやクリエイターは、単に製品やサービスの外見やブランディングに留まらず、むしろその製品やサービスが社会や人々の生活にどのような影響を与えるか、というより根本的な問いに目を向ける必要があります。

ホリスティックな視点で問題を捉え、製品やサービスが社会に与える全体像や、ビジネスモデル、持続可能性、倫理性、社会的責任など、より広い視野で捉えることを意味します。例えば、ステークホルダー(利害関係者)を考慮し、彼らのニーズや期待を統合します。それによって、製品やサービスの開発段階から持続可能な解決策や社会的インパクトを考慮したデザインを実現することが可能になります。

このようなアプローチは、デザインやクリエイティブの役割を単なる美的な側面やコミュニケーションの手段に留まらせず、より深い社会的意義や価値の創造に向けて進化させる必要があります。

「未来そのもの」を設計すること

このようなことから複雑な現代において、デザイナーが設計すべきは、「未来そのもの」であると言えると思います。デザイナーは、製品やサービスのデザインを通じて未来を形作る重要な役割を果たしています。そのため、デザイナーが設計するものは単なる製品やサービスだけでなく、社会全体の未来を反映するものです。

重要なのは、ただ一つの未来ではなく、多元的な未来の可能性を探求し、カタチにすることが重要です。未来は単一の道筋ではなく、多様な可能性が存在します。デザイナーは、さまざまな未来のシナリオを探求し、それらをカタチすることで、具体的なイメージを共有し議論することができます。各々が人類や地球にとってより良い未来を模索し、未来を予測するだけでなく、様々な未来の可能性が具体化すれば、それが社会変革の大きな原動力となります。

美意識と機能性の両輪を回す

一方で、意匠も美しくなければなりません。近年のデザインはロジカルさや機能性が重要であるというUX側のデザインが重視され、何故か見た目の美しさのいった美意識を持ったデザインはどちらといえば必要以上に蔑ろにされて来たと思います。ただこれは明らかに間違いで対立する概念ではなく両立しうるものです。機能性と美意識は対比的なものではありません。「機能的である事は美しい」「美しくあることは機能的」なのです。いくらロジックとして成立していても、見た目がしょぼければワクワクしないし機能しません。美意識のあるデザインはそれだけで人を惹きつけます。人間はロジカルにはできていなくて心が動くことで行動します。だからロジカルに考え機能させることを重視しつつ、美しさを蔑ろにせずに見た目でもワクワクさせることも大切です。デザイナーとして、美しくあることを諦めたくはありません。この意匠と設計の両輪を回し、そのどちらも蔑ろにせずにありたいと思います。

デザインの未来:アウトプットからアウトカムへ

時代の変化として、急速に発展するAIも見逃せません。AIによりデザイナーが職を失うという意見もありますが、それは「これまでのデザイナーのまま」であれば十分あり得ます。
ただデザイナーが変化できるのであれば、デザイン自体はよりこれから重要度が増してくると思います。それは目的化されたデザインではなく、手段としての武器としてのデザインです。

デザインは、新しい価値を生み出すものであり、未来の可能性をカタチにするということができるとても素晴らしい武器。おそらく、これからデザインのアウトプット自体はAIがどんどん代替していきます。これはもう止めようがない。一瞬でロゴのアイデアは数百案、数千案出せるようになる。だから、ここで戦っても競争力として人間は勝てないし、価格もどんどん落ちていきおそらく食べれなくなるでしょう。これは正直遅かれ早かれ、そうなることは間違いないと思う。

だからこそ、アウトプットではなく、アウトカムを作れるような、デザインという武器を用いてプロジェクトをリードするような人にならないとかなりまずいと思います。デザイン武器にすればAIをディレクションしたり新しい技術を使ってアウトカムを作る手段として使えるようになる。そのために、基本的なスキルや知識は学ぶべきだと思う。それがないと言語化してAIに指示もできなければ、吐き出されたものを良い悪いという選択もできない。手段を目的化しなければ、デザインを学ぶことは今後の時代にも役立つものだと思います。これからは、人間だけではなくAIといったテクノロジーと共創しながら作っていくことになるでしょう。

「良き企業やブランド」と共に創る未来

ただ、いくらデザイナーやクリエーターだけで頑張ってもより大きなインパクトをつくるには限界があります。小さなリソースで頑張ってもなかなか難しい。そのためにも、できるなら社会によい変化を作ろうとする良き企業やブランド、組織と手を組んでいきたいものです。社会的意義を持った信念を持った素晴らしい企業やブランド、NPO、NGO、また教育機関、行政、自治体など様々な組織と連帯していきたいと思っています。そうすれば、社会を変化させる大きな力になるでしょう。より良い未来をつくろうとする人や組織と連帯し、ライフスタイルからビジネス、カルチャー、エンターテインメント、アートまで多様な領域を超え、創造性の力で社会にポジティブな変化を起こすことを目指していきたいです。

「美しい未来」をカタチに

デザインは単なる「意匠」ではありません。これからのデザインは、社会の変化を据えた、そして人類と地球との関係性まで捉えた「設計」であるべきです。それは、ホリスティックな目線でそれらの繋がりやバランスなどの関係性をシステムとしてとらえ、自律的に循環する仕組みを創り出すこと。それこそが、これからのデザインの目指すべきことだと思います。

そして、デザインの持つ「価値創造」と「課題解決」を用いて、その可能性やビジョンを明確に可視化しながら、ライフスタイルの変化から組織やビジネスの在り方、新たなエンターテイメントやカルチャーに至るまで、未来の社会のあり方を実験し、実装していきます。ビジネスモデルや人間、組織、社会や自然との関係性などシステムそのものが「美しい」あり方を実験と実装を繰り返し「美しい未来を生み出す」ことを目指しています。

最後に、好きな言葉を

未来を予測する最良の方法は、
(自分自身で)デザインしてしまうことである。

クリエイティブディレクター 引地耕太



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