『グレート・ギャッツビー』スコット・フィッツジェラルド(村上春樹 訳)
・ということは、あの六月の夜に、彼が熱いまなざしを送っていた相手は、空の星だけではなかったのだ。その瞬間、彼は意味なき散財という体内をすっと抜け出し、僕の眼前で血肉ある存在となった
・その願いのあまりのつつましさに、僕は言葉を失ってしまった。彼は五年間わきめもふらず彼女を待ち受け、豪華な屋敷を買い求め、そのへんの行きずりの蛾たちに星明りを気前よく分け与えてやったのだ。
・彼は創造的熱情をもって、その幻想に全身全霊を投じていた。寸暇を惜しんで幻想を補強増大し、手もとに舞い込