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忙しい男が好き

忙しい男とは、女からしたら厄介者で、不安にさせる寂しがらせる悪者である。

でも、わたしは違う。いくらでも信じて待つよ?こんな女は滅多にいないから、全世界の忙しい男にとっては女神のような存在だよ?

…とは言えた口ではなく、わたしも例に漏れず、忙しい男との付き合い方には社会に出てから今までずっと、悩み続けているふつうの女なのだった。

悩みと言っても、もしかすると、連絡が来ないとか、なかなか会えなくて不安とか、そう言う女性とは少し違うかもしれない。基本的にわたしは忙しい男が好きなのだ。

これは最新の忙しい男と出会って気づいたことなのだけれど、わたしより忙しくしている男は自然と尊敬できるし、尊重できる。それにわたし自身、恋愛ともほどよい距離を保てて自分のやりたいことを見失わず、なんだかとてもいい女でいられるのだ。そしてなにより、忙しい男を見ているとエネルギーをもらえる。守りに入っていた自分のなかで、またメラメラとなにかが燃えはじめるのを感じる。

少し前に、わたしの大好きな「深夜のファミレス」で、大人になったからこそお互いしか見えないような、近距離でずっと見つめあっているような恋があえてしてみたいと、友達と話したことがあった。恥を捨て欲望に忠実な大人になったいまなら、学生のときよりも本気で距離感ゼロのベタベタな恋愛ができそうな気もした。

そのときには、失恋直後で愛に飢えていたし、わたしだけを見つめてくれる人と、彼だけを見ていていい恋愛はとても楽だなと思った。

けれど、いざ忙しい男と出会ってしまえば、ガンガンに愛を注いでくれる人より、「わたしよりも仕事」に夢中になっている男のほうが付き合いやすかった。わたしもいま人生の転換期にあって、自由にさせて欲しい気持ちが強いと言うこともあると思う。どちらかがどちらかを見つめ過ぎることなく、お互いに前を向いている関係は意外と心地がいいし、なんだかとても頼もしい気がした。

22で出会った忙しい男との恋は、相手の忙しさよりも自分のことを見て欲しかった。ちょっと病んでるくらいに「かまって欲しい!」と言う思いを端から端まで書き連ねた長文のLINEを送り付けたりした。今思えば、あんなメンヘラのかまってちゃんの極みに根気よく付き合ってくれた彼は素敵な人だった。

過去の恋愛をいま思い返すと、客観的に見られるおかげで自分のヤバさが浮き彫りになるのと、そのときには気づけなかった「愛されていたんだな」が分かる。あのときの自分気づけよ、と言いたいことだらけだ。


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そんなわたしもそこそこの大人になって、いまでは無事に忙しい男の生活を想像するのが好きになった。

夜遅く帰宅して、とりあえずスーツの上着をソファの背もたれに置く。夕飯は外食で済ませてきた。とりあえず寝落ちする前にシャワー。寝る。朝仕方なく起きる。めんどくさい寝癖をなおす。朝ご飯は食べても食べなくてもいいけれど、コーヒーはなんとなく飲む。スーツ着る。ネクタイを手慣れた手つきで結ぶ。カーテン閉めて、一人暮らしの部屋を後にする。

なんだかその無骨でシンプルな生活にきゅんとしてしまう。忙しいなかでも、ふと我に返ったときに寂しかったりしながら、仕事も生活もふつうに見えるようがんばっているのかなと勝手な想像が膨らむ。

22のわたしとの圧倒的な違いは、そんなふうにいま成り立っている忙しい男の生活は脅かしたくないし、壊したくもないと思えていること。1人暮らしは、こだわりとささやかな幸せが詰まっている。彼の大切な生活。

わたしよりも遥かに忙しく、たまにダレることも含め、全力で生きている忙しい男が好きだ。

忙しい男の生活フェチ。…ごめんなさい、完全にいま降ってきた言葉。今度から「フェチとかある?」と聞かれたら強めに主張しよう。

忙しい男の生活を想像するのが大好きです。

…どう思われるかは分からないけれど。でもフェチって、基本エロいとキモいの真ん中みたいなところがあるでしょ?


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忙しい男愛がそれほど溢れているなら、もはや悩みなんてないのでは?な感じだろうが、悩みは、ある。

不安や寂しさは自分の問題であって、忙しい男のせいだとは思わないので、それほど問題ではない。けれど、そんな忙しい男のかけがえのない存在になるのはどうしたらいいか?が悩みどころなのだ。

ほっとけばいいのか?たまには連絡したほうがいいのか?

忙しい男が望むものは、いまだに分かりそうで分からない。正解はなさそうだけれど、自分のなかでしっくり来るものを見つけるまでは、少し視点を変えながら、これからも喜んで忙しい男に悩まされ続けていく。









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