キャッチボール
「俺には、重すぎたかな。」
久しぶりに会った彼は、少しやつれてた。
彼女と別れたらしい。
「でも、それだけ愛してくれてたってことじゃない?」
「彼女の束縛だったり、嫉妬深さだったり、自分中心の考えに参ってしまって。」
「俺も、彼女のことが大好きだったんだけどなー。
大きすぎる愛を抱えきれなくなって。」
そう言う、彼の指には彼女とお揃いだった指輪がまだあった。
「愛もバランスが必要かもね。」
どちらかが辛くなると、きっと相手も辛くなる。
「俺もできる限りの愛は返していたつもりだったけど、、」
まぁ、彼の言うことは理解できた。
最初は彼女と上手くキャッチボールができていたらしい。
彼女が投げたボールを、彼が受け取る。
そして、彼がボールを、彼女に投げ返す。
最初は楽しかったという。
でも、ある時。
彼女が投げたボールを、彼が受け取る。
でも、彼がボールを、彼女に投げる準備をしてるときに、
彼女は待たずに新しいボールを投げてきた。
彼は落とさないようにもう片方の手でボールを受け取る。
彼がそのボールを投げようとしたとき、その前に彼女はまたボールを投げてくる。
「ねぇ、ちょっと待ってよ!」
彼は叫ぶ。
でも、その声も彼女には聞き入れてもらえない。
「何で返してくれないの!」
怒った彼女はどんどんボールを投げてくる。
両腕でボールをいっぱいいっぱい抱えて、そして、彼はもう、受け取ることができずにボールは身体のあちこちに当たる。
ボールはもう抱えきれなくて、投げ返すことさえできず、彼は傷だらけ。
彼女も感情的になり自分を休ませる余裕もなく、ボールを投げ続け、肩を痛め、身体も心もボロボロ。
想い合ってるはずなのに、どっちも苦しい。
お互いが好き同士であったとしても、
幸せになるとは限らない。
どちらかに愛が偏るんじゃなくて、
お互いに愛が不足しないように、過多になりすぎて負担にならないように、
お互いに愛のバランスが取れて、初めて幸せになれるのだと思う。
でも、好きって盲目になることもあるし、どうしても不安になったり、嫉妬したり、色々な感情も生まれる。簡単にバランスなんかとれないし、そうなるには時間もかかる。
好きな人に依存しすぎないために、
自分1人でも楽しめるものや幸せになれることを見つけるのもいいはずだ。
「はぁ〜。」
ため息ばかりつく彼。
いくら慰めたって、別れた後って辛いのはわかる。
後は、いつの間にか忘れていくまで、また生きていくしかない。
「またね〜。」
店を出て、彼と別れる。
私も昔は色々あったよなー、なんて考えながら一人で歩く。
そうしていると、
「おーい!」
旦那が、わざわざ近くまで迎えに来てくれていた。
私は、小走りで手を大きく振りながら、笑顔で旦那の元へ向かった。
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