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宿題、手伝います。(ショートショート)

夏休みも残り、5日だというのに、宿題もせずに遊びまわっている。この日も、友だちと自転車で遠出をして別れた後だった。来たことも無い、通ったこともない道を自転車を走らせている。生活圏と離れた土地だからか、こんな日に、こんなところで縁日が出ているのを知らなかった。お寺の駐輪場に自転車を止め、境内に入って行った。
金魚すくいに、ヨーヨー釣り、射的、たこ焼き屋に、焼きとうもろこし屋、かき氷に焼き栗、じゃがバター、、、いつもの縁日でありがちなお店が並んでいる。目を左にやったり右にやったり、夜店の風情を楽しんでいたが、何か奇妙な気配を感じて、ふと、お面屋さんの前で立ち止まった。
男の子が好きなヒーローや、アニメでお馴染みの漫画のキャラクター、、、、いろんなお面が並んでいる。
あれっ?一番端にあまりにも普通の男性のお面が陳列されている。
歳の頃は、20代前半といったところだろうか。
「おじさん、このお面、ヒーローでもキャラクターでも無いよね?」思わず店主に話しかけた。
「気になるかい?」不敵な笑みを浮かべて「ぼっちゃん、もう夏休みの宿題は終わったんですかい?」と、返って質問をされてしまった。
「いや、まだだけど、、、」
「そうですか。夏休みも、もうすぐ終わっちゃいますよね。早く、宿題を終わらせたいですよね。」
「もちろんさ、友だちと遊んでるときは、忘れているけど、一人になると、宿題が残っていることを思い出して、憂鬱になるんだ。」
「でしょう、でしょう、そうでしょう。」店主は、急にひそひそ声で「このお面、宿題を手伝ってくれるんですよ。少し値が張りますけどね。どうです?買いませんか?」
宿題を手伝ってくれるお面だって!喉から手が出る程、欲しい。でも値段が高かったら買えない。法外な値段を吹っ掛けられるのだったらあきらめるつもりで聞いてみた。
「そのお面、いくらなの?」
「千円だよ。」
ポケットにしわくちゃになった千円が入っていることを思い出し、手をつっこんで紙幣を1枚出した。
「これで、お願いします。買います!」
「毎度あり!」
と店主は低い声でお礼を言いながら、普通の顔をしたお面を外し、僕に手渡してくれた。
お面を受け取り「ありがとう!」と言うと同時に駆けだそうとしたが、店主にシャツの裾を引っ張られたので、足を止めた。
「ぼっちゃん、そのお面には取扱説明書が付いているんですよ。これ、これ、取扱説明書を読んでから使ってくださいね。」
と、手のひらサイズの二つに折られた説明書を渡された。取扱説明書?といぶかしく思ったが、宿題を手伝ってくれるのなら、少々の手間がかかるのも気にならないと思い、もう一度、「ありがとう」と言ってその場を後にした。
自転車のペダルを急いでこいだ。家に着くと急いで自室にこもり、お面を机の上に置き、取扱説明書を読んだ。
 
〈ハンガーに長袖シャツを着せてください。そして、お面をハンガーのフックに取り付けてください。〉
 
急いで、その通りにした。
 
するとお面が勝手にしゃべりだしたのだ。
「ご主人様、何をしましょう?」
 
店主の言ったことは本当だったんだ。
 
「宿題をやってくれるんだよね。まず手始めに国語の宿題をやってよ。」
「かしこまりました。」と言うや否や、シャープペンシルを取って、お面が国語の宿題をやり始めた。
みるみるうちに国語のワークブックが埋まっていく。
最終ページを終えた瞬間、パタッと、お面が机に伏してしまった。
「故障かな?」と思い、お面を持ち上げても、何も反応しない。
そうだ、取扱説明書だ。と思い、取扱説明書の続きを読んだ。
 
〈働かせ過ぎにはご注意ください。〉
 
そうだ、一気に働かせ過ぎたんだ。休憩してもらって明日、また宿題をやってもらおう。
 
お面を机に置いたまま、翌日を迎えた。
 
お面を持ち上げると、またお面が口を開いた。
 
「ご主人様、何をしましょう?」
 
「読書感想文、書いてよ。」
「かしこまりました。」と言うや否や、原稿用紙に文字を埋めていってくれた。
「君、本は読んでたの?」
「はい、趣味が読書なので、読書感想文はお手の物です。」
そして、課題の4枚の原稿用紙を使って、感想文を書き終えると、パタッと、お面がまた机に伏してしまった。
これで2度目である。慌てることはない。1度に働かせ過ぎたのだ。
 
これで要領は分かった。
1日1科目が限界だ。
 
次の日は社会、
その次の日は数学、
そのまた次の日は理科をやってもらった。
 
今日は夏休み最終日、英語をやってもらったら終わりだ。
今までやってきたように机に伏したお面を持ち上げてみた。
しかしおかしなことに、全然自立しようとしない。
 
どうした?何が起こったのだ?
あと1科目、残っているというのに、お面が動かない。
 
そうだ、取扱説明書だ。
きっと解決の方法が書いてある。
 
お面屋さんの店主にもらった取扱説明書を、机の引き出しから取り出し、読んでみた。
 
〈使用期限は8月30日までです。〉

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