宇宙童話 記憶保管所 記録係① クリスタルの板
庭に置いてある箱を開けると小さな石が入っていた。
久しぶりの便りだ。わたしはその石を握りしめて家の中に入った。
「便り!便り!誰からかしら?」
「この時期には珍しいわね」
お皿を洗う母さんはわたしに読んでいいわよと言ってくれた。
わたしは石をテーブルに置くとゆっくり眺めながら人差し指と親指でつまんだ。
「ナイル、そうじゃないわ。中指よ」
「あっ、そうだった!」
もう一度、石をテーブルに置く。そして、中指と親指で優しくつまむ。
「集中して、あなたはまだ慣れてないから」
「はい!」
つまんだ指先に意識を集中させる。
……何も起こらない。
「わかった?」
「ううん、わからない。もう一回!」
同じことを繰り返す。でも、石は何も語りかけてくれない。
「だめみたい……」
テーブルに置いた石をコロコロさせて眺めても、わたしには何も見えなかった。ただのちっちゃな石。
「すぐ諦めちゃだめよ。時間をかけて習得するの。いい?」
「うん、わかった」
☆ ☆ ☆
わたしが学校を卒業する前日。
惑星衛星局に勤めている母さんからの便り石が届いた。
母さんは衛星局の副局長をしていて、月の半分は衛星で暮らしている。
衛星には職員以外は行くことができないことになっていて、家族のわたしでもまだ一度も行ったことがなかった。
母さんが衛星にいる間は、漁師をやっている兄が帰ってきてくれていた。
「母さんからだよ」
兄が渡してくれたのは、ピカピカの白いものと黄色い便り石。そして板状のクリスタル。
母さんの便り石はいつもピカピカで指によくなじむ。衛星には便り石がたくさんあって、選ぶのが大変よといつも楽しそうに話していた。
衛星局には、惑星にいる家族に送る便り石がたくさんあるらしい。
さっそく、リビングのテーブルにそれぞれを置いてひとつずつ見ていく。
まずはピカピカの白い便り石。これは、普通の会話が記録されていることが多いもの。一番よく使われている便り石だ。
でもここまでピカピカのものは珍しい。
ゆっくりと中指と親指で石をつまんだ。
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《ナイルへ
あなたにぴったりのお仕事が出来たの。
衛星局の中の新しいお仕事。
もし、気が向いたら連絡してね。
母より》
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わたしはやりたい事が決まっていた。
だから、衛星局で働くつもりはなかった。
それよりもこのクリスタルの板。
どこの惑星のものだろう。板状のものはとても貴重で珍しいと学校の先生が話していた。
わたしはクリスタルの板を目の前に置き直して、手をゆっくりと当ててみた。
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ようこそ! ここは記憶保管所 記憶係です
この便りは3回まで再生可能です
この便りは3回まで再生可能です
…………
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同じ言葉がずっと続いている。
何度手を当てても同じ。
クリスタルの板ははじめてだから、読み取りが難しいのかしら?
わたしはそれ以上の情報が読み取れなかったことを母に連絡した。
「ナイル、あなたはさすがね」
「どういう意味?」
「あのクリスタルの板……言葉を写し込むのがとても難しいの。だから、読み取り手を混乱させてしまうの。
クリスタルの板にはもともとコードがあって、それをPQと衛星局では言うんだけれど、あのクリスタルはPQが複雑で誰も使いこなせないのよ。
衛星局の惑星探査機が最近発見した鉱山のある惑星でたくさん採掘できるみたいなんだけど、誰がやっても使いこなせないの。
そこで、衛星局がPQを扱える人を探しているの。
その話を聞いて、わたしはあなたが適任だと思ったわ。よかったら応募してみたらどう?母さんはいいと思うんだけど」
母さんと話し終えると、もう一つの便り石を目の前に置いた。
黄色い便り石は惑星の運営に関する仕事のやり取りで主に使われる。
一般の人にこの色の便り石がくることほとんどない。わたしも学校で一度サンプルを見ただけ。言葉の写し込みはされていなかったから、読み取りするのは今回がはじめて。
少し緊張する。ちゃんと読み解くことができるだろうか?
呼吸を整えながら石に集中しする。そして、中指と親指でそっとつまんだ。
すると……
石は上下左右に黄色い光りを放ちスクリーンが現れた。そこにはこう記されていた。
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【募集要項】
業種 記録係
採用条件 PQの扱いを任せられる者
渡航費 衛星局より支給可能
特権 惑星間旅行券 飲食券 居住券
問い合わせ 記憶保管所 記憶係
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