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宇宙小説 第三章◇宇宙時代の幕開け・1

 

 ぼくは起き上がってまわりを眺めた。

 医務室にはぼくだけ。ゆっくりと起き上がる。

一体なにが起きたんだ?

 「やぁ、気がついたかい?」

青い作業服の男性が近づいてきた。

「くっ……くるなっ!くるなぁーーー」


 

 「大丈夫ですか、アレン大佐」

俺は、アレン大佐の隣で眠っていたらしい。近くには、空港職員と彼がいる。彼らはまだ動かない。

アレン大佐は額に汗をかきながらうなされていた。

「アレン大佐っ!アレン大佐っ!」

「はっ……」

目を大きく見開き、息を切らしながら俺の手を握りしめた。

「大丈夫ですか?」

「う……うまくいったようだね……。まだ光の扱いにはなれて……ない……」

そして、また目を閉じて寝息を立て始めた。

俺は彼の手をゆっくり床につけて、起き上がると音を立たてないようにその場所を歩き始めた。



ここは、どこなんだろう?



 明かりがないのに、とても明るい。

白い空間。

空間自体が発光しているようだ。

廊下のようなその場所は微かに音、いや振動している。気のせいだろうか?

まっすぐ行けるところまで歩いていくと、突き当たりは円形の部屋に繋がっていた。


 壁が透明なフィルムのように透けて見える。そこが発光しているように見えるが、どういう仕組みになっているのかはよくわからない。

フィルムを触ると……柔らかい。

水だ。でも、濡れない。

ここは水の膜で覆われた部屋。

これは空港の中なのだろうか?



《あなたをやっと見つけた よく聞いて》


あの声。


《ここならあなたとコンタクトが取れる》


君は誰?


《わたしは太陽系観察部隊のアミュー 

安心して あなたの味方よ》


俺のことを知っているの?


《NAMIKI教授から

あなたにコンタクトを取るようにと

メッセージがきたの》


並木教授から?


《NAMIKI教授はわたしたちと

コンタクトを取っていたの 

わたしたちの惑星周波数を読み取れたのね 

それでわたしたちは

NAMIKI教授が発信した周波数を追って

ここまできたの

あなたが持っていた研究ノート 

あれはわたしたちとのコンタクトの記録よ》


え?それじゃあ……


《隣の家の……》


《そう あなたの知り合いよ 

でもびっくりしないでね》


《びっくり?》


《会えばわかるわ この空間は 

わたしたちの惑星にあるP-neという部屋 

宇宙光を調整する部屋よ》


《宇宙光……》


あの宇宙光のことなのだろうか?


 

《ようこそ わたしたちの宇宙船へ》


☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆


 「ダン、わたしヤバイことしたわ……でも、後悔してない。彼らは国に帰るべきよ。そして、わたしも家に帰る」

「エリー……」

「ごめんなさい」

「なぜ謝る?君は正しいことをしたんだ。きっと彼らは助かる。あの話聞いたかい?」

「あの話って?」

「NAMIKI教授の作った宇宙船で首相たちを迎えに行くという話だよ」

「あれはただの模型だって聞いてるわ、実際に飛ぶの?」

「ううん、飛ばない」

「やっぱり……」

「あれはね、時空移動装置なんだよ。計画に反対している空港の連中からかなり圧力をかけられている。それで、NAMIKI教授は実験段階だった装置をもう使うと話していたよ。

連中は宇宙船は不時着して首相たちも行方がわからなくなったとデマを流しているって。

大佐はすぐに動いたそうだ」

「だから大佐が来たのね」

「問題はね、時空移動装置が発動した場合、この空港ごと惑星と繋がる可能性があるってこと。


エリーさん……


それでも家に帰りますか?」


「……えっ、あなた誰?ダンじゃないわね、誰なの?!」



「エリー、キューブにいた男がいなくなっているぞ!どういう事だっ!」



「エリーさん、よく聞いて。

……驚かせてすみません、NAMIKIです。ダンさんの身体をおかりして話しています。わたしは宇宙船の場所まで移動しています。キューブ部屋にいた彼や彼を助けにきた男性はいまアレン大佐と一緒に行動しています。

彼らとコンタクトを取りたいのですが、どうもノイズが入りうまくキャッチ出来ないのです。

わたしはこの空港内に宇宙光の影響を受けない特別な部屋を作りました。そこなら安全です。

そこに行けば、彼らの居場所がわかります。

エリーさん、そこに行っていただけませんか?わたしが案内します」


「エリー、聞いているのか!!ここを開けなさい!!あの男はどこに行ったんだ!!」


「ダ……ダン、どうすれば……」

「ここの壁はそこに通じています。ついてきてください」


☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆


 俺は完全にあの声と繋がっている。


《俺の言葉が聞こえる?》


《ちゃんと聞こえてる うまくなったわ あなたは周波数の使い手になれる》


《周波数の使い手?》


 話しながら、こめかみと後頭部がほわんほわんと温かい感覚が波打っている。

 声と繋がるたびに心地よくなり、うとうとしてくる。まるで、太陽であたたまった柔らかい布団にふんわり包まれて昼寝をしているみたいに。


《ごめんなさい 

ちょっと話し過ぎてしまったわね》


《いいや なぜかとても心地よく感じるよ 

とても》


《あなたは優しい人》



 「岳くん、ここにいたのか?」

富士野さんだ。

「皆さん眠っていたので。あの……ここは宇宙船の中のようです」

「う、宇宙船?」

彼は明らかに動揺していた。たぶん〝これは夢だ〟ってほっぺたをつねるみたいな、そんなシチュエーションだ。

俺の身体はまだほわほわして温かい。ちょうどいい湯加減の温泉に浸かってるみたいだ。


《あなたはここの周波数帯と同調しているから》


《えっ?》


《彼が動揺しているのは 

この宇宙船の周波数帯に慣れていないから 

わたしの声も聞こえない》


《その周波数を合わせないと

君の声は聞こえないの?》


《例外はあるわ 

わたしが彼に合わせれば 

彼はわたしを感知できる 

でも 

無理にそれをすると彼はとても混乱するわ》


またこめかみと後頭部に温かい感覚がうずく。


《周波数といっても 

そこにはたくさんの要素が入っているの 

図形や音 わたしたちの記憶

だから 

周波数帯の異なるものが合わせようとすると

あなたたちのような人型の生命体は

身体や精神に異常をきたす場合があるわ

だから 

わたしたちも慎重に相手を選ぶの》


《彼も君の声が聞こえるようになるといいのに きっと安心する》


《ありがとう 

〝信頼〟という言葉

それはとても気持ちのいい周波数 

わたしが

NAMIKI教授から教えてもらった言葉の中でも

好きなものよ》


《言葉にも心地よい周波数とかあるんだね》


《あなたと話していると 

とても心地いい 

まるでre-rutaの海を見ている時みたいに》


 その時、耳をつんざくような大きな音が聞こえ身体が一瞬浮いて床に叩きつけられた。富士野さんも頭を手で覆っていた。

「富士野さんっ!大丈夫ですか?」

ゆっくり目を開けた彼は「本当に映画のようだね」と笑っていた。

「岳くんは?」

「大丈夫です」

まわりを見渡すと、透明な膜の光がほとんどなくなっている。薄暗いが、まったく何も見えないわけではなかった。

すると、また声が聞こえてきた。



《彼らが宇宙光を破ったわ 

でも 

NAMIKI教授はそれもわかっているはずよ 

ただ 

ここの周波数をキャッチできないかもしれないわ

この宇宙船の宇宙光は

そこまで強力ではないから

あなた方を守れないかもしれない

一度ここを離れたほうがいい》


《あなたは?あなたは大丈夫なんですか?》


《わたしたちは慣れっこよ 心配しないで》


《離れるって……どこに?》


《あなたの家よ》


《……家?》



 「SHRAHAMAくん、こっちに!はやく!!」

アレン大佐の声が遠くから聞こえる。

隣にいる富士野さんと目が合う。

「あの……信じてもらえるかわかりませんが、声が聞こえて。とにかく信じてみましょう。映画ならこの後また新しい展開が待っているはずです。こんな経験滅多に出来ませんし。

ここまでくるまで本当に不思議な事ばかりで……

信じてみたいんです!これが並木教授のいう新しい宇宙時代なら……この目で見てみたいんです!」

自分でも驚くほど力がみなぎっている。きっと、これは序曲に過ぎない。何か大きなエネルギーが俺の背中を押している。大丈夫だと言っている。

「私も……その宇宙時代を肌で感じたいです」

彼は俺に手を差し出し、かたく握手を交わした。

「帰れたら、君のお父様に美味しいお酒をプレゼントしたい、好きだって話されていたから」

「父はビールが好きです。喜びます」


 少し身体を動かす。床に当たった手や足も大丈夫そうだ。

ゆっくり起き上がると、アレン大佐が待つ廊下まで戻った。

この廊下もさっきよりは暗く感じる。これも宇宙光を壊されたからなのか……。


☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆

 

 しばらく歩くと、前方に彼らが見えてきた。

そして強い光が廊下に反射して、プリズムのように輝いていた。

またあの光の揺らめき。

「エネルギーが安定していないから、どこに行くかわからないけど、ここにいるよりは安全だと思う。宇宙光が壊された。あいつらは何を考えているんだ!何もわかってない。

SHRAHAMAくん……例の声は聞こえた?なんて言っていた?」

俺は聞こえたことをそのまま伝えた。

「君の家?!面白いことを言うね」

アレン大佐は耳まで真っ赤にして笑っている。俺もつられて「本当ですよね、冗談みたいな話です」と笑った。

気持ちが軽くなる。やっぱりなんだかんだと緊張していたんだ。家に帰れるのかと思ったら、少し泣きそうになった。心臓の音が伝わってくる。

 

 「タイムラインを変えるのはリスクがあるから、場所を移動させてその間に宇宙光を修正するんだろうな。

ぼくたちを連れ回すことは出来ないから、いったんSHIRAHAMAくんの家に移動させて、彼らから守るって計画だ」

「彼らって……何者なんですか?」

「時がきたら話すよ。とにかく、まずは身の安全が第一だ。ぼくみたいにならないためにもね。

ただ、宇宙光のバランスが崩れているからちゃんとつける保障はない。でも、ここにいるよりは安全だと思う。みんな準備はいい?」

みんな一斉に頷いた。

まるで本当のSF映画のようだ。運命共同体の仲間がここにいる。

でも、途中で家に帰るというシナリオは斬新だ。


 グオーン グオーン グオーン


 突然、地響きのようなうなり声が頭に響いてきた。めまいで立っていられない。みんな耳に手を当ててその場にしゃがみ込んだ。


 アレン大佐の声が遠くから聞こえる。

 視界がどんどんぼやけていく……。


「はやく……はやく飛び込んで……

この……このゲートも壊される……その前に……」


俺はもうふらふらで足に力が入らなかった。


「君から……行って……んん……っ!!」

腰のあたりを誰かが掴んでいる。視界がぼやけてよく見えない。


「いそいで……ん……はやく……」


急に身体がふわっと浮いた。そして、俺の身体は光の揺らめきの中に勢いよく吸い込まれていった。


 

 





















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