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幡野広志著『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』

カメラマンの幡野広志さんは、昨年34歳で、息子さんが1歳の時に多発性骨髄腫を発症。余命3年と診断されます。

恐らく、息子さんが大きくなるのを見届けられないであろう自分が、将来の息子さんの役に立つ言葉を残したいと、Twitterやブログで発信を始めます。

幡野さんは、以前狩猟をしていたことで、狩猟の是非の論争に巻き込まれたり、ガン治療にまつわる様々な勧誘を受けたり、心無い言葉をつきつけられながらも、ご自身の真っ直ぐな想いを発信し続け、瞬く間に大きな反響を呼びました。

私は、今年の5月に開催された幡野さんの写真展に行ってきました。

人気のため期間は延長され、1ヶ月強の間に訪れた人は2,000人以上。

また、Twitterで届く相談に答えるうちに、質問もどんどん増えていったけれど、息子さんが将来困ったときの手がかりになるかもと、今も、息子さんに答えるように回答していっているそう。

その嘘偽り無い言葉が大変な人気となり、今回の本の出版に至ったのではないかと思います。

本の内容は、将来の息子さんへ宛てた手紙であり、それは同時にあなたへの手紙であると仰っています。

自信を持つこと

幡野さん自身は、親からも教師からも、ほめられたことのない子どもだったそう。それは大人になった自分にも影響していて、カメラマンとして、ニコンの賞をとるまでは自己肯定感が持てなかったとのこと。

だからといって、子どもに「賞を目指せ」とは決して言わないし、小さな成功体験を積み重ね、それをほめたいと思っているそう。

幡野さん自身は、「今日はよくできた」と、夜寝る前などに自分をほめていたそう。

今は奥様と共に息子さんをほめているけれど、もっと大きくなったら息子さんが自分で自分をほめてほしいと。

ほめる・ほめられることに慣れれば、人にほめられたとき、「そんなことないです」と否定したり、「お世辞だろう」と疑ったりしないだろう、と。

夜寝る前に自分をほめるといいなどは、よく言われる話ですが、自分はなんとなく気恥ずかしくて、やったことがないんですよね。

だから私は自己肯定感が低いのかなあと思いました。

この本の中には、自信を持つということがいかに大切かということがよく出てきます。

それで本当に自信がつくのかなあという思いはあったのですが、私も今日から実践していみようと思いました。

自分の言葉で相手に伝える

奥様が以前から「すごく悪いニュースがあるんだけど」という口癖があり、健康な時は何とも思っていなかったのだけれど、今のメンタルでは深刻に身構えてしまうようになったそう。

そういう時は、強くストレートに「そういう言葉はやめてほしい」と言うそう。

きつい物言いに奥様が傷つくという気遣いや、家族なら言わなくても察してくれるはずだという甘えが、余計にことをややこしくするだけだからと。

息子さんには、言葉できちんと伝えられる人になってほしいから、自分たちが言葉できちんと伝えられる人にならなくてはいけないと。

そして同時に、「いくら伝えてもすべては理解してもらえない」ということも知っておいてほしいそう。

多くの人がそうだとは思いますが、言いにくいことを伝えるということは、私も本当に苦手な部分で、大事な人に対しても「察して欲しい」と思ってしまうし、察してもらえないことで不機嫌になってしまったり、我慢したり諦めたりしてしまいます。

それは、はっきりと言う勇気を持てない自分が傷つきたくないからで、全部自分のためなんですよね。

でも、自分にはっきり言いたいことを伝えてくれる人に対しては、ありがたいなあと思うし、尊敬しますね。

自分も少しずつ、伝えるべきだなあと思うことはちゃんと言えるようになりたいと思います。

人の目を気にせず、自分の経験をしたほうがいい

幡野さんは、インドに行ったとき、まるで透明なカメラで撮られたような、肉眼でその人を見ているような、なまなましく不思議な写真に出会い、それがインド人の写真家ラグ・ライのものと知ったそう。

当時「日本人が行ったことのない場所で写真を撮れば、すごいものができるんじゃないか」と思っていた若い頃の幡野さん。

ラグ・ライの作品を見て、自分がよく知っているものを、自分の目で撮ってこそ人に伝わると考え、「日本を撮ろう」と思ったそう。

また、カメラが好きな人がとても多い日本人は、「技術が高くて構図がいい写真」は得意だけれど、ラグ・ライの写真から、貧しい過酷な国で生きている経験が写真に生きていると感じ、テクニックで撮った写真は見る人の心を打たないとも思ったそう。

「いい写真」の定義にこだわるのは、人目を気にしているから。観光客の写真がつまらないのは、他人の写真をなぞっているだけだから。

人の目を意識することは、自分をとても狭くしてしまうので、息子さんに写真家を目指して欲しいわけではないけれど、人の目を気にせず経験をすることが自信につながると、伝えたいそう。

自信があれば、人の批判を気にしないし、人の意見に左右されない。そういう人のすることが面白い。つまらない人はこの逆と。

これは、私が最もどうにかしたいと思っている部分で、この本の中で何度も出てくる「自信」をつけていくことが、当たり前だけれど、自分を大きく変えていくんだとつくづく思います。

また、写真というメディアは、技術に加え、その撮影者がこれまでにどんな経験をし、何を見て、どんな考えを持っているのかということが、実は反映されているんだなあと、映し出す物にその人自身が現れているんだなあと改めて思いました。

目標を設定し、適切な努力をして到達する

幡野さんは、フリーカメラマンやアシスタントというライスワークでお金を稼ぎながら、写真家として自分の作品を撮るというライフワークをしていたそう。

お金のための好きじゃない仕事(ライスワーク)が巡ってきても、お金にならない好きな仕事(ライフワーク)を同時にやっていれば、腐らずにすむと。

いつかライフワークを中心にするという夢を叶えるには、「必要なもの」とそれに対する「障害」は何かを明確にし、具体的に解決していく。

人脈が必要なら人脈をつくり、お金が必要ならお金を稼ぐ。

いちばん簡単に集まるのはお金だし、本当の問題はお金で解決できないことだと。

幡野さんは、”できなかった人たち”に無理だと言われ続けながら何度もチャレンジし、ニコンの賞をとり、念願の登竜門をくぐって変わったのは、自分のメンタルだと言っています。

目標を設定し、適切な努力をして到達するという経験を通して夢に近づく基本が分かり、自信も生まれたそう。

「努力すれば叶う」というのは嘘で、努力だけではどうにもならないこともあるし、見切りをつけてやめてもいいけれど、息子さんには、チャレンジする前にやめないでほしいと。

私がこの本を読みながら、唯一できているかもしれないと思ったのは、チャレンジするということかもしれません。

思いついたことをいろいろやってみる。失敗もたくさんありますが、後悔していることはひとつもないので、これからも続けていきたいなあと思います。

でも今、明確な目標はぼんやりしていて、普通なら焦ってしまいそうだけれど、まあそのうち分かるだろうというふうに思えるのも、こういう生き方を選んでよかったなあと思います。


ここに紹介した幡野さんの言葉は、この本のごく一部ですが、生きていく上で何度も読み返したい本になりました。届いた昨日、既に2回読んでいます。そのくらい簡単で読みやすい本でもあります。

普通に考えたら、とても辛い状況の話のような気がするけれど、不思議と悲壮感は全くなく、何のひっかかりもなく、すとんと自分の中に落ちる言葉ばかりでした。

こんなお父さん羨ましいなあとか、やっぱり子どもっていいなあ、自分にも子どもがいたらこんなふうに育てたいのになあとか、そんなこともやはり思いました。

でも私は、このまま生きていれば、必要なものしかもたらされないと思えるのが、今唯一の自分の強さだと思っていて、物や関係が欲しいと思うよりも、ただ自分が磨くべきことを磨きたいということも、この本を読んで改めて思うことができました。

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いろいろな方にインタビューをして、それをフリーマガジンにまとめて自費で発行しています。サポートをいただけたら、次回の取材とマガジン作成の費用に使わせていただきます。