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ライブハウス 四谷OUTBREAK!店長 佐藤’boone’学 さんにお聞きしました

あらゆる人に影響をもたらしている新型コロナウイルスによって、ライブハウス業界も大きなダメージを受けています。現場で実際に働いている方は、この半年以上どう過ごされていたのか、佐藤さんの生活は?など公開インタビューで伺ったことをまとめました。

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ー コロナ禍のライブハウスと言えば、もう同じことをたくさん聞かれていると思うし、ご自身もたくさん発信されていると思うので、今日はちょっと違う角度からお話を聞きたいなと思っているんです。唐突ですが、佐藤さんは自分に自信がありますか?

ある方面では、めちゃくちゃ自信がある!俺は世界最強だろうと。それは俺を構成する要素の3%で、残りの97%は全然自信なんてないし、すぐ消えたいくらいの感じだよ。

ー おもしろい!3%はなんなんですか。

自分が楽しむ力、楽しいことへの嗅覚となんでも楽しくできること。すっげーまずいラーメン屋に入ったとか、いつまで経っても注文が出てこないとかそういうのも全部楽しいから、自分を楽しくできる能力に関しては、俺天才的だなと思ってる!

ー 97%はなんなんですか。

齢40になる人間としてできないことがたくさんあるよね。普通の生活や普通の仕事ができない!

ー なぜ私が自信について聞きたいかというと、新型コロナウイルス対策って挙げればきりがないけど、何が起きても大丈夫と言える自分がいたら、どんな状況になっても生き抜けると思うんですよね。そういう力を佐藤さんに感じるのですが。

あー、でもそれは自分の中でニュアンスはちょっと違って。何があっても生き抜ける力って、結局どんな状況でも稼げるってことだと思うのね。お金の心配がないってこと。1ヶ月暮らす中で収支が合ってるってこと。それが生きる力だと思っているから、そういう意味で自分に生きる力は無いと思ってるよ。

今はオーナーが別にいて雇われ店長として働いていて、結局収入はそこでしかなくて、ここが潰れたら収入ゼロになるから一撃で立ち行かなくなるわけよ。そういう意味では、何でも大丈夫だとは思っていないよね。

でも結局、何が起きてもどうにかなるだろうという、楽観的な責任感のないマインドはすごく大きい。未来に対して気持ちを込めない、その時にならないとわからないっていう気持ちでいるから、今は精神もそんなにぶれていなくて、あっけらかんとして見えると思うけど。

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ー 意外にちゃんと考えているんですね。

仕事なくなったら困っちゃうからね。わりと一般的な普通の人間と同じくらいには考えてる。でも本当に未来のことなんか考えたら、ライブハウスで働いてるなんて一寸先は闇だから、楽しい予定だけ考えてるよ。

夢見がちだとライブハウス向いてないから。秒で潰すから。わりとライブハウスの人は現実的。経営者じゃないんで遠い未来のことは考えていないけど、近々の未来や店をまわすってことを考えてます。

本来だったら齢40がそんなこと言ってらんないよね。歳の近い友達が起業したり店を持ったりしてるけど、俺はそういうのがないから97%足りないってのはそういうこと。40歳で未来を見てないなんて病気な発言だけど、10代からこんなことやってると抜け出せんのよ。

近々の未来に思いを馳せて生きていく。今このインタビューが終わったらねこ膳に行くことだけを考えてる。俺はそういう気持ちでいる!
(※ねこ膳:新宿にある24時間営業の飲食店)

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ー 佐藤さん、子供の頃はどんな感じだったんですか?親の影響とか受けてるのかなと。

いや、親父は学校の先生だし、おふくろは看護師だし、テキスト的には堅い家庭なんだよね。姉ちゃん・俺・弟2人で、地元は三軒茶屋だけど小2まで1Kに6人で住んでいて。小3くらいからもう少し広くなったけど、裕福じゃないし、欲しい物も買ってもらえないし、スポーツも勉強もできないし、クラスのカースト的には下の方。唯一ひょうきんなやつって感じで生き残ってたんだよね。

中学もそんな感じだったけど、音楽に目覚めて高校でバンドを組んで今に至る。高校になってやっと話の合う友達ができてなんとか自我を保ってたよね。

ー 音楽に救われたって感じですか?

そんな大したものじゃないけど、地元が三軒茶屋だったからサブカルや友達のお兄ちゃんが教えてくれるヘビーメタルから、そういう物が身の回りにあって、自分じゃ買えないおしゃれ雑誌を借りたりして楽しんでたよ。

ー 高校生になって今の自分に近づいたんですか?

まだバンドマンだったから、裏方気質ではなかったな。

ー いつまでバンドマンでデビュー目指してたんですか?

高校卒業して、無理を言って音楽の専門に行かせてもらって、21歳になったときずっとやってたバンドが解散して、これはダメかな~と思って。そのとき音楽の裏方の仕事をバイトでやっていたので、自分はこっちかなと。21、22歳でミュージシャンには挫折して裏方道に走り出したのはわりと早い方だったかな。

ー でもやっぱりずっと音楽には関わっていたかったんですか?

それしかやれることがなかったからね。いろいろなバイトをしたけど、楽しいことは音楽しかなかったんだよね。

ー アウトブレイクのオーナーとはいつ出会ったんですか?

専門卒業して裏方のバイトをしていた所に就職して、そこで働いてるときに知り合ったんだよね。そう考えると20年以上の付き合いだね。当初は挨拶するくらいだったけど。

ー オーナーは当時どんな感じだったんですか?

当時も今もナンバーワンに狂ってるよ。それ以外言えないな。ほんとに気が触れてる。そのオーナーだから自分も今までライブハウスでやってこれたんだけど。

今コロナで毎月すごい赤字叩き出して、普通だったらやめてると思うんだけど。年内には閉めようというのは7,8月に判断しても良かったんだけど、意地だよね。15年やってきたから潰すもんかっていう。他のライブハウスのオーナーもそういう人が多いと思うけど。

音楽が、文化がどうこうとかいうのとはまた別のベクトルなんだと思う。商業的だけど商業的ではないというか。数字だけ考えたらやめたほうがいいけどそれでもまだ頑張ってるのは、気が触れてるなあって思ってます。

ー ...よかったですね。

いやまだ予断を許しませんけど。

ー 実際どうなんですか?

数字で言ったら厳しいよ。毎月ギャグみたいな赤字を叩き出してるから。でもやれるとこまではやってくれると思う。ただそれに甘んじてたらすぐ潰れるので、俺たちも稼ぐ方法を考えて動いているつもりでいるけど、なかなか追いついてこない部分はあるよね。

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ー でも配信はクオリティがどんどん高くなってますよね。すごいなあと思いながら見てます。

最初だからね。最初って何でもやったらやっただけ上手くなるじゃん。でも俺らはもうひと山越えたので、これからはじんわりとしか上手くならない。最初に数を打てたのはよかったよね。3~5月は200本近くやってるし。

ー そんなにやってるんですか!?すごい数じゃないですか。みんな撮影のプロってわけじゃなかったんですよね?

もちろんもちろん。みんな手探りで。俺も含めてやりながら修正してったよ。

俺らはもうコンセプトがはっきり決まっていたから。ただライブを映すだけじゃなくて、できればミュージックビデオとライブの中間みたいな、バンドをそつなく見せるわけじゃなくて俺たちのフィルターで俺たちが見てるものを見せようってこと。

だからもっと全体像が見たいとか、バランス良く見たいっていう人はいると思う。でも、うちの配信は俺たちが見たいことだけを執拗にぐいぐい見せればいいんじゃないのっていうコンセプトが、俺の中にはっきりしてたからその方面に特化できたよね。アクの強いものっていう。

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ー それがやっぱりライブハウスの意義ですね。

そうだし、いろんなライブハウスが配信やるのは分かってたから、四谷らしさを追求するしかなかったよね。逆に他の店がみんなそういうやり方だったら多分負けてたと思うし。そうでなければ今、こんなに「配信なら四谷アウトブレイク」みたいにはならなかったとは思います。

みんながわりと普通にやってたから、俺らはラッキーだったなと。

ー 機材もこだわっていたんですか?

いや、俺の私物含め、もともと持ってたんだよね。ちょうど俺がYouTubeを始めたりカメラに興味を持ち始めた半年後くらいにコロナになったので。だからすぐ撮影できたんだよね。

ー そういえば昔も配信やっていましたしね。

そう、昔Ustreamに飛びついて大失敗して撃沈したんで、その失敗が役に立ってる感じです。
(※Ustream:2007年に設立された動画共有サービス。2017年にIBMに買収された。)

ー 新しいものが出てきたときにトライするのは大事ですね。

飛びつくのは悪くないと思う。でも失敗したり成功したりしてそれが自分の役に立ってるかはけっこう時間経たないとわからないな~と思って。何かをやっていれば10年後とかに、「あんときあれやってて助かったわ!」みたいなのが増えていくから、俺はそればっかりで生きてる。あのとき助けた亀か!みたいな感じで。笑

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ー じゃあ短期的な目標ってどうやって作ってますか?

俺、短期的な目標って無いんだよな。なんか思いついたら絶対5分以内にやるから。ただパーって思いついて告知したことって、実際やるのは早くても1週間後、遅いと2ヶ月後とかになるから、そこまでテンション保つのを頑張ってます。

告知してみんなおもしろがってくれても、その熱はどんどん下がってくから、いくつかトピックを作っといて、そのつど俺が上がれるようにしてるね。

ー なるほどー。ところで、動画の編集も早いですよね。

早くなった!レコーディングと一緒で、諦めをどこにするかだよね。予算と時間が無尽蔵にあれば永遠にやるけど、そうじゃないじゃん。撮ったらすぐ出したい。

ライブハウスの収録ライブとかそうじゃん。告知期間含めても1週間か2週間で出したいし。自分はここまでしかできないっていう見極めが早いから、それをバンドに見せてちょっと修正してリリースするっていう感じ。でもクオリティは99%カメラのチカラなんで。

もちろん、お蔵入りになったのもいっぱいあるよ。

ー とにかく量がすごいですよね。

俺の場合は量をこなさないとできないんで。「ノーギャラでいいから撮らしてくれ」って言えるバンドがたくさんいるし、それですごく助かっているし嬉しい。

ー 「佐藤さんのエネルギー源って何ですか?」という質問がきています。

やっぱりリアクションです。SNSでいいねがたくさんついたら嬉しい。みんなが反応してくれるから嬉しいし頑張ろうっていう、単純な目立ちたがり屋の小学生みたいな感じです。

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ー この半年間は大変だったと思いますがそんな中でも、楽しかったことや感動したことは何ですか?

バンドマンや同業者が店に来てくれたのは、やる気や勇気をもらえたし楽しかったな。

あと、配信を始めたばかりのころ、バンドの方から「俺も配信やらせろよ」ってたくさん言ってくれて。当時は配信をやっている店も少なかったしクオリティも低かったから、その人たちが冷静な判断でアウトブレイクに行けばいい仕事をやってもらえるし、自分たちもいいプロモーションになると思って声をかけてきてくてたんだよね。

佐藤がかわいそうだからっていう人は一人もいなくて、それが嬉しかったね。

さとうさん2

ー それは素晴らしいですね。ちゃんとやっていると見てくれている人がいますよね。今回いろいろあったけど、乗り切れたのってこれまでの積み重ねですよね。

まだ全然乗り切れてないけど!まだ半分溺れてるけど!

でも、声をかけてもらえたのは嬉しかった。気にかけてもらってるなっていうのは。ただ、それは初動の話で、これからは楽しいことを、ちゃんとしたことを提供しないと人はついてこないので。配信も落ち着いて、お客さん入れるライブもやって、だんだんと日常を取り戻していくなかで、こっからめっちゃ試される。

非常事態が普通に戻ってくると俺も普通の人になってくるから。もうそんなアドレナリンでねーし、やべーなっていう危機感はあります。

ー 先に聞けばよかったんですけど....この期間、辛かったことは何ですか。

全部辛かったけどね。人も来ないし、以前やれていたこともできないし、オーナーもしんどそうだし、スタッフの仕事も削らなきゃいけないし。人に関わることがきつかったよね。

バンドに「ごめんこの日ライブできなくなっちゃった」って言うのも、オーナーに「ほとんどお金になりません」って言うのも、バイトの子にしばらくライブ無いわって言うのも辛かったし。

僕自身は何も辛いことはないけど、関わってくれてる人に大変な思いをさせてしまっているのは非常に辛かったですね。

ー そうなっていたときの佐藤さんの回復術とかあれば聞きたいのですが。

でも、そもそも俺はあんまり大変じゃないんだよね。俺オーナーじゃないから。雇われ店長だから。良くも悪くも自分が借金抱えてやってる店じゃないっていうのは、申し訳ないけど心にある。だから心を保ててる。それが雇われ店長の仕事だし。

もし俺が仮に今年の頭からオーナーになってたら秒で頭壊れていて、今こんなとこにいないよ。どっか遠いところにいるよ。本当にそう思う。

ー 私も昔、13年ほど前に同じオーナーのもとでちょっと働いていたわけですけど、そのときオーナーが佐藤さんのことを「あんなにライブハウスに向いているやつはいない」と言っていて、そのときから見抜いていたのすごいなと今でも思ってるんですけど。

ライブハウスに向いているというかライブハウスに依存してるんだよね。オーナーが麻薬の密売人で俺が麻薬の中毒者みたいな。適量与えれば長く頑張るぞみたいな、そういうところももちろんあるよ。でも俺はそれが心地よくて、そうじゃなければ頑張れないから、俺は社長になりたいとかそういう欲無いから。これでよかったというのはすごく感じてる。

ー いいバランスなんですね。

奇跡的なバランスだと思う。アウトブレイクは、みなさんの奇跡的なバランスのおかげで成り立ってます!たまたま俺がその上にやじろべえみたいにいるだけで。バランスをつくってるのはスタッフや出演してる人だから。本当にそう思う。

ー このコロナ禍は、改めてそういうことを感じた期間という感じですかね。

でもこっからだからね。非常事態は俺たちの得意分なわけよ。ゲリラ戦だから。有名なライブハウスと一緒にヨーイドンしたら、小回りの効く俺らが勝つに決まってる。でもこっから元のライブハウス戦国時代に戻るわけよ。だからそこで俺たちはどう頑張るか。

ー ここまでの話、映画にしたいですね。

一瞬あったんだよね、ドキュメンタリーの話。「ああ~撮っておけばよかった」っていう監督さんとかいて。いつでも映画化の話まってますよ!

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当インタビューの全編はこちらでご覧いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=bTG_hQ50dl4

四谷OUTBREAK!
https://hor-outbreak.com/

佐藤’boone’学
・Twitter
https://twitter.com/boone4649
・blog
http://www.boone4649.work/
・YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCl3N10_0XAzgNA2m08UYvRQ


いろいろな方にインタビューをして、それをフリーマガジンにまとめて自費で発行しています。サポートをいただけたら、次回の取材とマガジン作成の費用に使わせていただきます。