見出し画像

かくれてきみとくらす夢

松の花かくれてきみとくらす夢  渡邊白泉(『渡邊白泉全句集』)

小津安二郎映画に出てくるような、セットのようなとんかつ屋さんにたまたま連れて行って貰って、ぼんやりしていた。
ちょっと隠れ里のような感じで、入り口は狭いのに、奥に行くほど広くなってゆく。
店員の人も不思議な動線で動き回っていて、人の気配がしなかった。

狐だったんですよ全部、黙っててすみません、と次の日一緒に行った人から言われても、まあそうでしょうね、なんとなくそう思っていたんです、だってなんか人より綺麗で優しい感じがしましたもん、ええ、そうですよね、と私はなんとなく指で涙を拭き取りながら言うんじゃないかなと思った。

狐なので人の心の透き間を突くような、懐かしい優しいとんかつを毎日作っている。
だから次の日少しその人は泣いている。とんかつを食べながら、今生きている人のことや死んだ愛しい人のことを考える。そんなとんかつだった。

「おいしいですか?」と食べているときにふっと聞かれて、「ええ、とても」と私は答えた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?