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グミを噛みながら鏡に映る

グミを嚙みながら鏡に映るとは  鴇田智哉(『エレメンツ』)

この一句がずっと気になっている。

グミの実を噛んでいる私は、普段の私とはちょっと違う。顔が少し歪んでいたり、口の中の真っ赤を隠していたり、普段知らない私が出ている。

そんな私がグミを噛みながら鏡に映ってる。
なんだろこれ、と私は思う。

私はグミに何かの力を加え続ける私を見つめてる。
私にはたくさんのまだ知らない私がいるのに、私は知っているかのように生きているし、私のことを知らないまま死んでゆくことだってある。明日私は死ぬかもしれない。

酸っぱいグミの実が私の知らない私を引っ張ってくる。
グミ、カミ、カガミ。

とても小さな一句を気にかけ続けることで勇気を貰い、生きてゆける日がある。

ああもう春だとわかって、私は風の中で憂鬱になり、でも気にかかっていることがあり、風を払い、私はグミと鏡と私をめぐる俳句から勇気を貰う。

まだ私でいる。

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