よいKPIを考えるうえで重要なこと
こんにちはHikaru Kashidaです。
表題について、普段から考えていたことを適当に書きました。
1 / Visionary
よく設計されたKPIとは、サービス/プロダクトを作るチームにとって一種の「Vision」になっていなければなりません。
KPIとは「願い」だ
そもそもKPIとは何なんだろう?と考える時、僕は「漫画キングダム」のこのシーンを思い浮かべます。
これは、国内屈指の法の専門家とされている李氏に対して、昌文君が「法とは一体何なのだ」と詰め寄ったときに、李氏が毅然として答えを放った一コマです。
キングダム 494話 地下牢の賢人より
"法"とは願い!
国家がその国民に臨む人間の在り方の理想を形にしたものだ!
しびれますね。
しかし、翻って考えてみると、これはKPIについて考えるときも全く同じではないでしょうか。
KPIとは「僕たちのプロダクトはこのような形であってほしい」という願いを、数値で表現したものであるべきです。そうでなければその目標を、チーム全員の貴重な人生を費やして追う意味はありません。
近い考え方が Taka Umedaさんの次の記事でも語られています。
Linkedin では PV ではなく「プロフィールページの PV」をメトリクスとしておいていました。これはタレントを探すサービスだからプロフィールを見る数が本当に使っているユーザー数になるはずだからそう設定した、と Josh は言っており、そこには Linkedin というサービスの本来のビジョンを感じます。
同様に Medium では Total Time of Reading がメトリクスであるのは、彼らのプロダクトのビジョン — we want people to write, and others to read, great posts — に直結している問題です。
....端的にそれぞれの会社のプロダクトの特徴を知りたいときに中の人に聞くべき質問は「御社の独自のメトリクスは何ですか?」なのかもしれません。そこにはプロダクトのビジョンが反映されているはずなので。
チーム内のコンセンサスと浸透
KPIがチームにとっての「ビジョン」の一種だと仮定すると、そこには次のふたつの要素が不可欠になるはずです。
① チーム全員が理解している
② チーム全員が信じている
このふたつを自然な形で達成できるのが「良いKPI」であり「良いデータアナリスト」であると僕は考えます。
もしチーム内に、あなたのKPIについて「理解できない」「追う気になれない」という人がいたら、癇癪をおこさずに丁寧に耳を傾けて見て下さい。
あなたのKPIが本当に「チームにとってのビジョン足り得ているか」には常に気を払う必要があります。
データアナリストの役割
このため、データアナリストという職種はある意味でのVisionary、いうなれば 「LogicalにVisionary」 な存在でなければならないと考えます。
会社全体や、起業家/事業リーダーが掲げる「Corporate Vision」については、(誤解を恐れずに言えば)なんらかの根拠や整合性を強く求められるものではありません。
その一方で、プロダクトにとってのKPIは、「何故それを重視するのか」をある程度の論理/根拠をもって説明されるべきなタイプのVisionといえます。
これができるひとを僕は「LogicalにVisionary」な人材と定義しています。
2 / 絞る
重要な指標は十分に少数に絞られているべきです。
"全部追おう"は馬鹿野郎
何が重要な指標か?
と考えていると、よく起こしてしまいがちな間違いの一つとして、「あれもこれも全部見ておけば安心だ」となりがちです。
人間はそれほど多くの数字を毎日見ていられません。
多くの指標を拵えすぎてもその中で日々ちゃんと見られるものは自ずと限られていきます。
最初は多くの指標を作っておき運営していく上で、チームが特に気を払うものに絞っていくという、淘汰的なスタイルもなしではありませんが、なるべく最初から少数の絞られている方が望ましいでしょう。
OMTM
OMTM = "one metrics that matters"(重要なひとつの数字)です。
これは「指標を絞る」という考え方の中でも最も先鋭的なもので、「最重要な指標をたったひとつだけ定め、それを追いかける」というものです。
特に初期のスタートアップ(PMFの前)などで有効とされる考え方です。
また、やや類似する考え方に、「Hacking Growth」の著者ショーン・エリス氏が提唱する「North Star」というものがあります。
従属関係を作る
しかし、実際にはたった一つもしくは極小数のKPIのみに注意を向けて、事業の運営をしていくことは好ましいとはいえません。
そのため、KPIはある種の階層構造をもって理解されるべきです。具体的には、改善の目的とする「目的指標」と単に気になったときに見るだけの「モニタリング指標」を明確に分けて管理します。
モニタリング指標は、プロダクトの健康状態や現状をチェックするために必要なメトリクスであるので、多少種類が多くなってもやむを得ないケースもあります。
しかし、これらはあくまで「モニタリング」をするだけの指標であって、l具体的に改善するためにターゲットではありません。
これらのメトリクスと、重要なKPI/OMTMなどとは明に区別して考える必要があります。
3 / 質指標と量指標を区別する
KPIには"質的"なものと"量的"なものの2種類があり、これらは明確に分けて考えるべきです。
「質」と「量」は字が似ていて、多用すると可読性が低くなるので、ここでは固有の名称を付け、
・質的なKPI = QPI(Quality Performance)
・量的なKPI = VPI(Volume Performance)
と呼ぶことにしましょう。
QPI(質的な指標)の例
QPIは「〇〇あたりの△△」や「□□の率」という形で表現される数字です。
わかり易い例として、下記のような指標が挙げられるでしょう。
・いちユーザあたりの利益
・いち取引あたりのクレーム発生率
・全ユーザに締める課金ユーザの率
VPI(量的な指標)の例
VPIはサービスにおける、「ある総量」を表す数字です。
わかり易い例として、下記のような指標が挙げられるでしょう。
・サービス全体の売上
・月間のインストール数
・ロイヤルユーザの獲得数
QPIとVPIの使い分け
事業運営者は、いまのサービスのフェーズにおいて、どちらをより追うべきなのかを、強く意識する必要があります。
この選択、つまりある時点で、QPI or VPI どちらのタイプの指標を掲げてサービスの改善を行っていくかは、事業運営および経営の重要なセンスの一つと言えるでしょう。
基本的には、サービスの初期ではまずQPIで一定ラインを満たし、その上でVPIの向上に移るというのが常道です。
QPIが一定のラインに達していない状態は、"バケツに穴が空いている"という言い方で揶揄されることがあります。
これは簡単に言うと、「サービス/プロダクトに致命的な欠陥がある状態だと、マーケティングでユーザ数を増やしても良い結果を産まない」ということを意味しています。
つまるところ、「QPIが一定のラインに達していない」 = 「サービス/プロダクトに致命的な欠陥がある」とも言えます。
この件については、この記事がとってもわかりやすかったので呼んでみて下さい。
4 / できるだけ何かを固定する
プロダクトの数字は、実はいろんなトレードオフで出来ています。
あれもこれも、といろんな数字を同時に改善しようとすると、いろんなKPI同士が影響しあってわけがわからないことになります。
できる限りフォーカス絞って、固定できるものは固定した状態で、最も重要と定めたKPIの改善に取り組みましょう。
量の拡大は往々にしてQPIを悪化させる
一時的な手法でインストール数を劇的に増やすと、得てして継続などの、QPI(質指標)は悪化します。
ショット的な販促などでCVRを上げるとARPPUは下がりますし、バズでPVを増やすと直帰率がハネ上がります。
継続率などを始めとするQPIの改善を主眼に取り組んでいる場合には、VPIはなるべく一定に保てるよう、流入施策などは固定した状態で取り組むのが好ましいでしょう。
5 / 正しさと使いやすさのバランスを取る
よいKPIは「正しさ」と「使いやすさ」のバランスが取れている必要があります。
また、次の4つの項目に気を払う必要があります。
・Measurable(測定可能)
・Term(期間)
・State(状態)
・Accuracy (表現精緻性)
詳しくは次の記事を読んでください。
(※ 2019/5/1執筆時点で有料記事にしています。興味ある方は、記事を購入いただくかこちらのマガジンの購読をお願いします。 )
終わりに
最後まで読んでくださりありがとうございました。
また別の記事でお会いしましょう。
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