見出し画像

流れに任せて夜桜見物

 日曜日の夜、例の名も無き読書会のグループラインに、1枚の写真が投稿された。見てみると、ライトアップされた満開の桜が写っている。出張先に前日入りしたメンバーが、現地で行われている桜祭りに立ち寄った際に撮ったものらしかった。

 その写真をきっかけに、グループラインは桜の話で盛り上がった。「見事ですね」「うらやましか~」と感想を言うメンバーもいれば、出先で撮った桜の写真を共有するメンバーもいた。読書会のラインはそれほど稼働率が良いわけでもないので、メンバーが徐々に集まり、季節の話題で盛り上がるのは、新鮮で面白い経験だった。

 そんなことを思っていると、メンバーの1人から突然、

「夜桜といえば、大阪城公園! ひじき氏、行ってみるのだ!」

 とメッセージが飛んで来た。別のメンバーからも、

「大阪城の桜も見てみたいですね!」

 というメッセージが続いた。

 その時僕は一人旅から帰る途中で、金沢から大阪に向かうサンダーバードの中にいた。大阪に着くのは21時半前。おまけにその日は全国的に雨模様だった。旅先で歩き回ってヘトヘトで、一刻も早く家に帰って休みたいと思っていた僕に、雨の中夜桜を見に行く気力はなかった。「寄り道できるじゃないですか!」となおも食い下がるメンバーに、丁重に断りを入れる。ややあって、「ちーん」というスタンプが届いた。

 普段なら話はここで終わる。

 しかしこの日、僕は気まぐれを起こした。

(この流れに乗ってみるのも、悪くない)

 その日のうちに大阪城へ行くのはしんどい。けれども、日を改めて、天気が良く、疲れも取れている時に、大阪城へ夜桜を見に行くのはアリかもしれない。自分一人ではやる気も起きなかったようなことを、こういう機会にやってみるのも面白いではないか——

     ◇

 火曜日。仕事を終え、夕食を済ませてから、大阪城公園へ向かった。スマホで園内の桜の見所を確認しつつ、歩を進めていく。

 決して早い時間ではなかったが、園内には大勢の人がいた。友だちやカップル・家族で連れ立っている人が多かったが、僕と同じように、カメラ片手に一人で歩き回る人もチラホラ見かけた。桜の木が集まっている辺りでは、レジャーシートを敷いて飲み食いしているグループの姿も見かけた。その人たちは、花より団子、酒より談笑という様子だった。そして、見物客の間を縫うように駆けて行くランナーの姿も、何度も見かけた。

 そんな園内の、賑やかで和やかな雰囲気を味わいながら、何枚も写真を撮った。

 特に、公園の南側を、ローソンのある場所から森ノ宮駅に向かって歩いていくところの桜は見事だった。暗いので遠目にはよくわからなかったが、歩を進めると、両脇から頭上にかけて桜に覆われているのが感じられた。なんだか胸がいっぱいになりそうだった。

 当初は1時間で引き上げるつもりだったが、気が付けば1時間半が経っていた。家に着くのは飲み会帰り並の時間になりそうだった。が、それも良いだろうという気分だった。

 帰りの電車の中で写真をセレクトし、名も無き読書会のラインにアップした。

 それから水曜日にかけて、「待ってました!」「写真ありがとうございます」「どれも素敵です」と、色んな反応があった。やっぱり流れに身を任せてみるものだと、僕はちょっと得意気な笑みを浮かべた。

(第140回 3月29日)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?